97話 やり直しを希望
ルノアと先にお別れをして金獅子に近付く。
「分かりそうな人に訊いてみるから、少し付き合ってくれる?」
「…………ガオ」
即答してくれるかと思ったら、迷った末に頷く金獅子。
知らない場所に連れて行かれることに、不安を感じているのかもしれない。
「大丈夫。安全なところだし、危害は加えないよ」
「……ガオ」
「よかった。あと触っても平気? そうしないと一緒に転移できないから」
「ガオ」
「ありがとう。じゃあ触るね。浮遊感が気持ち悪いかもしれないけど、ちょっとだけ我慢してね」
屈んで金獅子のたてがみにそっと触れる。
ふわモフ……っ! 何これ思いっ切り埋もれたい!
い、いや駄目だ。合意とはいえ、欲望に身を任せてはいけない。相手は初対面。
持ち得る限りの理性をフル稼働し、転移魔法で魔の森監視塔まで飛んだ。
「ヴァンさん、ちょっといいですか?」
「うわあ」
突然、大将執務室に姿を現した私と金獅子に驚くヴァンさん。
いや今、完全に寝てたよね? 机に脚載せて。
「リリかー。どうしたの急にー」
「ごめんなさい。念話で先に連絡するのを忘れてました」
モフモフへのリビドーと戦ってたから。
「いいけどさー。もし着替え中とかだったらどうするのー」
「まあラッキーでしかないですね」
「え、じゃあ脱ぐ?」
「いえ遠慮します!」
今はそんなことを言っている場合ではないのだ! 見たくないわけじゃないよ。
「あの、ヴァンさん。この子、何の魔物か知ってます? というか、仲間の場所とか知りませんか?」
「んー?」
席を立ち、華麗にヒョイッと机を飛び越してヴァンさんが近付いて来る。
私の隣にいる金獅子はまた警戒態勢になった。
「……リリ、コイツどこで拾ってきたー?」
ヴァンさんは構わず色んな角度から金獅子を見下ろしながら訊いてくる。
「ウェンサ帝国近くです」
「うわー……。なんか面倒そうな予感しかしないー」
「どういうことですか?」
「こいつ多分、魔物じゃないよー」
「え、でも普通の動物でもないですよね?」
だったら何だと言うんだろう。
「獣人」
「……はい?」
「だから獣人だと思うー」
「いやそんなまさか。獣人の国ってウェンサ帝国の更に向こうの離島だし、有事の際しか獣の姿にならないって聞いて――」
あれ、追われてたよね? それって有事だよね?
「獣人なんですか!?」
問えば金獅子はちょっと気まずそうにコクリと頷く。
言葉が正しく伝わっていたのは、そういうことだったんだ……。
妙に理性的な行動にも納得がいく。
しかし夢にまで見た獣人が目の前にいるとは!
改めて見ても獣の形態だと魔物との区別がつかない程で、ソラもだけどこの状態から人型になるなんて思えない。
そして素敵な出会いを計画していたのに、泥塗れで終わってしまった現実に凹む。
「ん? 魔物じゃないなら、なんで軍人に追われてたんだろう?」
「あー。あそこの国は侵攻欲が強くてさー。ここ一、二ヶ月くらい、獣人を兵士にする為に陰で強制連行してるって黒い噂が最近あるんだよねー。そこから逃げてきたんじゃないのー?」
「なにそれ最低……」
帝国から脱走してきたという推測は、あながち間違いでもなかったらしい。
モフモフを何だと思ってるの!
「しかし困りました。獣人の国には行ったことがないので、転移魔法で送り届けることができませんし」
上空を飛ぼうにも、ウェンサ帝国の領空を通過しなければならない。
この世界にも領空権がある。
領空を飛ぶ場合、事前に理由と当事者名簿を提出しなければならないのだ。
これは魔族による空からの急襲に対抗して作られたものだとされている。
ぶっちゃけ効力はない。
だけど面倒事を避ける為に魔王たる父様が『守れ』と御触れを出したので、みな従っている状態。
だから私も例に倣う必要があるけれど。
追われていた獣人を名簿に載せるわけにはいかないし、誤魔化してバレたら国際問題になり困る。
「ヴァンさんは行ったことあります?」
「ないよー。リリ、送ってあげる気なのー?」
「はい。帰りたそうなので。そうですよね?」
獣人ということが分かったので敬語で話すことにした。
さっきまでは魔物だと思っていたから無礼講にしてください……。
「……ガオ」
申し訳なさそうに金獅子が控え目に吠える。
くっ、人だと分かってもその姿でしょんぼりされると撫でたくなる!
「やめときなってー。面倒臭いのにー」
「いえ。困っているモフモフは見過ごせません! と言っても、すでに打つ手なしんですが……」
何か良い方法はないだろうか。
「んー。俺の手には負えない案件だから、陛下にでも一回相談しなー」
「そうします。じゃあ今日は帰りますね」
「おー。またおいでー」
ヴァンさんに頭を下げ、金獅子と目を合わせるように屈む。
「という訳なので、私の家に来てもらってもいいですか?」
「ガオ」
金獅子の同意も得て、私はさっそく転移魔法で帰還した。
そして父様に速攻で相談した結果。
「そのような者、自力で帰らせればよい」
これである。是非もない。




