表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
82/174

80話 大集合

「何を……?」

「悪魔商会の元締めに頼みます。彼なら転移魔法が使えて且つ襲撃者の居場所も分かるはずです」

 わざわざ報告に来てくれたということは、今も部下であるセレディさんの行動を監視している可能性が高い。

 だから協力を仰ごうと思う。


「その襲撃者というのも悪魔商会の人間でしょう。信用に足るとは思えません。この機に貴方をかどわかす可能性だってある。貴方は陛下の唯一の弱点です。そのことをご自覚ください」

 ノイン参謀は静かに鋭い言葉で説き伏せてくる。

 普段なら絶対に私にはこんな言い方をしない。多分、私を止める為にワザとキツい言葉を選んでいる。

 ……でも弱点か。確かにそうだ。


「では交渉材料に成り下がった時点で自害します。それならいいですか」

「なっ……」

 さすがのノイン参謀も驚きの表情で私を見た。

 捨て身だろうが無謀だろうが、私はそれだけ懸けているのだ。

 とはいえ、母様に蘇生してもらえるという期待がどこかにあるから、言えるんだと思う。


「参謀の負けだな」


 睨み合う私たちに突然判定を下したのは、赤褐色頭のヤンキー。

 ユイルドさんが魔王執務室の扉に凭れて意地悪そうな笑みを浮かべていた。

 隣にはソラもいる。


「ふ、二人ともどうしてここに……?」

「城の連中が急に慌ただしくなってうるせぇから、一人とっ捕まえて大体の状況は聞いた。あと天狼の事情はコイツに。なら行くって説得してんだろうなと思ったんだよ」

 チラッとソラを見るユイルドさん。

 人型になったソラに聞いたのだろうか。今は狼の状態だけど。


「戦力外は黙っていなさい」

 静かに話を聞いていたノイン参謀が、さっきよりも数十倍怖い瞳でユイルドさんを睨み付ける。

「ああ……?」

「聞こえなかったのですか。戦力外」

「んだとこのヒョロ野郎!」

 ……なにこの真面目委員長対ヤンキーみたいな構図。

 非常時なのに萌えそうになった。不謹慎だぞ私。


「ではノイン参謀。ちょっと出掛けてきます」

「っ、待ちなさい!」

「しつけぇぞ。テメェは机にかじりついてろ」

「退きなさい。穀潰しが……!」

 直後、二人が水神対鬼の図に変わる。

 お互い戦闘モードになった彼らは、周囲を抉りそうなほどの高圧水流を纏った色男と、鋭い角を生やした鬼という状態になった。

 ノイン参謀は水属性と相性が良いんだっけ。って、見入ってどうする。


「あらあら。そんなことをしている場合かしらノイン?」

「か、母様!」

 そんな二人の抗争を止めたのは、突然降臨したブラックな笑顔の母様だ。

 いち早く気付いたノイン参謀は一瞬で冷静さを取り戻し、空気を切り替えるようにコホンと咳払いをした。

 同時に戦闘モードを解き、水浸しの部屋を火魔法で乾かす。あっという間に元通りで、魔力コントロールの高さを垣間見た。すごい……。

「申し訳ございませんでした。指揮系統に戻ります」

「よろしい」

 全然目が笑っていない母様怖い。ユイルドさんですら引いてるよ……。


「あの、母様」

「分かっているわ。どうせ止めても無駄なのでしょう? リリの好きにしなさい」

「! 本当ですか!?」

「ただし一人では行かせないわ」

 母様が真剣な顔で条件を提示し始めた時。


「それなら僕が行きましょう」

「……いや俺が」

「……セリが行く~!」


 キリノムくん、リドくん、セリちゃんの順に転移魔法で現れた。

「な、なんで……?」

「事情は念話で陛下から全て聞きました。もし王妃様が許可を出したら、誰かがリリシア様について行くようにと」

「……ディートハルト様がごねて聞き取り辛かった」

 兄様……。

「……みんな魔王執務室に集まってるからその話してるかな~って、思って来たんだよ~」

 セリちゃんがニコッと私に微笑みかければ、リドくんとキリノムくんも頷く。


「…………、そっか。ありがとう」

 結局、周りに迷惑を掛けてしまう自分が情けない。

 それも国が大変な時に煩わせてしまうなんて。


「リリシア様、顔を上げてください。陛下の命令がなくても僕はついて行きますよ」

「……俺も」

「……私も~」

 …………ダメだ。今みんなの顔を見たら泣いてしまう。

 どうも生まれ変わってから涙腺が弱くてかなわない。幼い身体のせいっていうのもあるかもしれないけど、きっと単純に人の優しさに私は弱いのだ。


「随分と人気者じゃねぇか」

 ふいにユイルドさんが髪の毛をぐしゃぐしゃにしてくる。

 こんな時だけ優しい力で撫でるのはやめて欲しい。

 せっかく泣かないように耐えてるのに。

「あ? なんだユイルド。ポッと出のくせに気安くリリシア様に触るな殺すぞ」

「……髪は女の子の命」

「……ボサボサとかひどい~」

「うっせーな! このロリコンども!」

 そういえば、みんなは顔見知りと聞いた。随分と仲が良さそう。


「甘いなユイルド。俺はリリシア様が胎児だろうが老女になろうが、生涯愛を誓うぞ」

「……発想が卑猥」

「……実は一番、子ども好きだったりして~」

「てめぇら順番に殺す。いやまとめて殺す!」

 ちょっと待って。なにこのコント。笑っちゃうじゃないか。


「ふっ」

 堪え切れず吹き出してしまう。

 ごめんねソラ。心配そうに私の周りをグルグル回ってくれてたのに。

「……リリシア様、笑った~」

「……よかった」

 なんだワザとだったんだ……。やられた。


「みんなありがとう」

 改めて頭を下げる。

 今度は情けなさではなく、心の底から感謝の気持ちが伝わるように。

「みんなに会えて私は幸せです。大好きです。これからも迷惑掛けると思いますが、どうかお願いします」

 顔を上げれば、それぞれ優しい顔で私を見守ってくれていた。

 ただ一人を除いて。


「リリシア様。魔の森北西で多数の悪魔による不審な行動ありと報告がきました。急いでください」

 ノイン参謀の厳しい声が部屋に響いた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ