78話 金の瞳
続いて待望のデザート専門店へやって来た。
白一色で統一された店内は、席を間仕切るように配置されたソファーとテーブルのセットが整然と並び、ピアノの旋律がゆったりと流れる落ち着いた雰囲気だ。
ほのかに香る甘い匂いがまた堪らない。
入り口近くにあるショーケースには、さっきの宝石店にも負けないほど色鮮やかなスイーツたちがツヤツヤと輝いている。
おお……! 王道イチゴのショートケーキにフルーツタルト、マカロン、生チョコ、果てはアイスまで!
通い詰めて全制覇したい。
「いらっしゃいませ」
ワインレッドの髪を結い上げた店員さんが、白い清潔なシャツとギャルソンエプロン姿で出迎えてくれた。スタイル抜群の美人なお姉様だ。
「お久しぶりでございます。陛下」
「息災であったか?」
「おかげ様で。愚弟はご迷惑をお掛けしておりませんでしょうか」
「いや、よくやってくれている」
あれ? 父様とは随分親しそうだ。
それに今、愚弟って言ったよね? 城勤めの誰かのお姉さん?
「もったいなきお言葉にございます」
思わずジッと見てしまえば、頭を下げたお姉様と目が合う。
「こ、こんにちは」
「…………。」
どうしよう。目を見開いたまま固まってしまわれた。
でも同じようなリアクションを、どこかで見たことある気がする。
「リリシア様がこんなにお可愛らしく成長されているなんて……!」
天を仰ぎプルプルと震えるお姉様。
うん、この人と同じDNAを感じる人いるね。
調理場に。
「……あの、もしかしてキリノムくんのお姉さんですか?」
「申し遅れました。わたくしメリゼと申します。御察しの通りキリノムの姉でございます」
やっぱりー!
「初めまして。リリシアです」
「リリ、メリゼとは生まれたばかりの時に一度会っているぞ」
「え? そうなのですか?」
「はい。御誕生の際に、僭越ながらお祝いを申し上げに伺わせて頂きました」
「お、覚えてなくてすみません……。その節はありがとうございました」
さっぱり記憶にない。転生したてで色々テンパってた記憶しかない。
「いいえ。こうして今日お会いできて光栄です」
屈んで私に目線を合わせ、そっと手を取る仕草はキリノムくんにそっくりだ。
「それにしても綺麗な金の瞳をお持ちですね」
若干ハアハアしながらメリゼさんが熱い視線を送ってくる。こ、この人にもロリコンの気配が……。
「ん? 父様、金色の目って何か意味があったりします?」
図書館でラーディさん子息のツレにも目の色のことを言われた気がする。
「言っていなかったか? 魔族で金の瞳を持つ者は、王の器だとされる伝承があるのだ」
「…………はい?」
「他の追随を許さないほど魔法の才に溢れていたり、魔物に好かれる体質であったり。特性は様々あるようだがな」
そして私は金の瞳であると。なんで?
特筆すべき点なんて何もないよ! モフモフ命という性癖だけだよ!
とんだ偏屈王じゃん……。国が滅ぶよ。
「それ、兄様にしか当てはまりませんね」
兄様の瞳も黄金だ。
それも私のように淡い金ではなく、輝かんばかりの金。
きっと兄様の特性は異常なまでのハイスペックさだろう。隙が無さすぎる。
さぞや立派な王様になるに違いない。……ドSなところに目を瞑れば。
「特別という意味に於いてはリリもそうであろう? これほど愛くるしい存在など他に居らぬ」
「全くその通りでございます。陛下」
「二人とも話がズレてますよ! メリゼさんも真顔で頷かないで! 要は王様の素質があるってことでしょう……?」
外で子煩悩発言をされると居た堪れないよ、父様……。
「皆に愛されるというのも重要だと思うが……。まあ、ただ器であるというだけで必ず王になるわけではないからな。現に金でなくとも王になった者はいくらでもいる」
「……なるほど」
でも家族以外で今のところ金の瞳を見たことがない。
単に遺伝的に少ない色なのかと思っていたのに、そんな裏があったとは。
父様も金だけど、角度によって赤が混じったり緑がかったり不思議な色をしている。すごく綺麗なのだ。
「陛下。大変遅くなりましたがお席へご案内致します。リリシア様もどうぞこちらへ」
華のある笑顔で微笑んだメリゼさんに、お店の奥のVIP席のようなところへ連れられ、これでもかと盛られたフルーツパフェを食べた。
無言で大盛りサービスしてくれるところまで姉弟そっくりだよ。




