64話 衝撃
「どうもです」
「どうもじゃねぇよ。って、寝んな!」
「ここ私の部屋なんでお構いなく」
一瞬覚醒したものの、すぐまた眠気がきてコクッと舟を漕ぐ。
なんでここにユイルドさんがいるのか気になるが今は眠い。とにかく眠い。
「チッ。これだからガキは……」
なんかブツブツ文句を言っているが放置して行って欲しい。
ここは居住エリアだから問題ないよ。魔族は風邪も引かないし。
ダメだ。もう目を開けていられない。
静かになったのでもう行ったのだろうと、再度意識を手放し始める。
…………あれ? 何だろう、ふわふわする。
それになんか、兄様とは違う良い匂いがする。
でも嫌な感じはしないし、さっきより暖かくなって気持ち良い。
……まあいいや。多分、夢だろう。覚醒夢ってやつだ。
疲れた時に見る意識がある夢。
いつの間にか安定感がある体勢になったのに甘んじて微睡む。
ぐぅー……。
「いや感覚がリアルすぎる!」
しばらくしてさすがに無理があると思い、目を開ければ。
「あ? もう起きたのか」
「ゆ、ユイルドさん!?」
「寝んのが早けりゃ起きんのも早ぇな」
胡坐をかいたヤンキーの膝上に抱え込まれるようにして、横抱きにされている私。
な ぜ に。
「うわぁ!」
あまりの衝撃に咄嗟に距離を取ろうと仰け反りバランスを崩すも、ビクともしない腕に囲われて倒れずに済んだ。
「おい、暴れんな」
「いやいやいや! なんか知りませんが御迷惑をお掛けしてすみません!」
「ったくだ。部屋で寝かそうとしたら入れねぇしよ……」
「あー……。母様の魔法で許可した人しか入れないので」
「そんなとこから出るんじゃねーよ」
ハァと心底面倒臭そうに溜め息を吐くユイルドさん。マジでごめんなさい。
「ありがとうございました。次同じことしてたら遠慮なく放置してください」
「同じことすんな。おら、降りろ」
「あいたっ」
膝から退く前にユイルドさんがデコピンを食らわせてくる。なんだよ意外と面倒見良いやつか! 好感度うなぎ上りだよ!
「それでユイルドさんはなぜここに?」
「……王へ報告に行った帰りだ。久しぶりの城だから見て回ってたんだよ」
「ああ。なるほど」
「そしたら寝こけてるガキんちょがいやがって足止め食らった」
「本当ごめんなさい」
再度謝ると、その声をかき消すように自室の扉が勢いよく開いた。
「リリ!」
少年ソラの仕業だ。
シャワーついでに人型になっていたらしい。
「ソラ。その服も似合うね」
ちょっと軍服っぽいデザインの、ボタンが多い黒い服を着ているソラ。ズボンも黒と統一感がある。
メイドさんに尻尾を出す穴を空けてもらったし、靴も王都で買ってきてもらったので完璧だ。編み上げブーツとよく似合っている。写真を撮りまくりたい。
「リリ、部屋に姿がないから心配した……」
「あ、外で待ってるって言ってなかったっけ。ごめんね」
ガバッと抱きつかれたので背中をポンポンと叩く。
やばいこの体勢。顔の横にソラのふっさふさな耳が当たる。さ、触りたい!
「は? ソラってお前、天狼か……?」
誘惑に駆られる私の隣で、戸惑いの表情を浮かべソラを見つめるユイルドさん。
人型になれることは知らなかったから驚いてるのかな?
ビックリするよね。
「……今日はありがとう、ございました。これからもお願いします」
ソラは私を解放すると礼儀正しく頭を下げる。うんうん、挨拶って大事だよ。
「おい、どうなってる」
ユイルドさんはそんなソラに返事を返すことなく、厳しい表情で私を見た。
「人型化のことですか?」
「天狼が人型をとるのはオレも知ってる。見たこともある。でもコイツは何だ」
「知ってたんですか。じゃあ、何だとは……?」
「普通、天狼は人型になってもこうはならねえ。頭は狼のまま、手足も獣のままだ」
「え……」
「――コイツは人に近すぎる」




