62話 魔力に愛された種族
ソラと別れた私はミスティス先生の授業を受けている。
場所はご存知、不毛の地だ。
植物は育たないが魔法の特訓には大活躍の場である。
「じゃあ今日は色んな属性の魔法を試してみましょうか」
「お願いします!」
「リリシアちゃん、魔法にはどんな属性があるかしら?」
「火・水・氷・風・雷・土・闇・光の全八種です」
「はい、大正解よ」
ここの人たちがよく使う空間魔法や転移魔法は、闇属性に当たる。
ざっくり言うと八種類しかないけど、そこから色々細分化され、多種多様な魔法が存在しているのだ。
「順番にやってみましょうか。魔法の発動の仕方は分かっているのよね? 三歳の時に無茶しちゃったって聞いたわよ」
「よく御存じで……」
先生は私が五歳になるまでこのお城にはいなかった。
兄様の家庭教師を終えた後、王都で薬を売ったりしながら暮らしていたらしい。
「ソラちゃんの為なんですってね。でもあまり無茶しちゃダメよ? リリシアちゃんを心配する人だって沢山いるんだから」
「はい、肝に銘じます」
「よろしい。じゃあ結界を張るわね」
ミスティス先生はニコッと微笑むと詠唱を始める。
あっという間に不毛の地全体を半透明な膜が覆った。
結界は光属性をメインとして土属性を掛け合わせた複合魔法に当たる。だから高度な魔法となるのだ。
「最初は火属性からいきましょうか。基礎の魔法でいいわよ」
「はい!」
深呼吸して目を閉じ集中する。
大事なのは意志の力。初心者の私にはこれが必須なのだ。あと詠唱も。
「……【我が身に宿る魔力よ、意志に従い辺りを燃やせ。火炎!】」
シュボッという着火音がすると目の前が一気に火の海になる。
兄様のとは違い赤い炎だ。
ホムラくんの魔法を見た後じゃ随分しょぼく感じる。
「なるほど。火属性はあまり得意じゃないみたいね」
「やっぱりそうですか……」
「あら、落ち込まないで! 初回でこれだけ出来るなんて大したものよ!」
そうなの?
ミスティス先生は褒めて伸ばしてくれるタイプだし、周りが高スペック過ぎて基準がよく分からない。
「ほらほら次に行くわよ? 水魔法を見せてちょうだい」
「はい。……【我が身に宿る魔力よ、意志に従い辺りを満たせ。水流!】」
ザバッと渦を巻いた物凄い激流が起こる。大洪水だ。
「水属性はまあまあね。基礎の詠唱でこの威力なら今度も伸びそうよ」
ふむふむ。水に困ることはないということだけでもありがたい。
「氷……はいいわ。相性が良いのは昨日見たから。次は風ね」
「はい。……【我が身に宿る魔力よ、意志に従い辺りを吹き抜けろ。疾風!】」
ゴウッと大型台風直撃のような突風が吹き荒ぶ。す、砂が目に入る……!
「も、もういいわ! 次は雷属性!」
ボッサボサになっている髪を押さえながらミスティス先生が叫ぶ。
私も目がしぱしぱするのを治してから詠唱を開始した。
そして全属性を試した結果。
使えない属性ゼロでした! マジか。
ここは普通、魔法が上手く使えなくて四苦八苦するとこだよね?
ノー努力だよ! しかも全属性コンプ!
「さすが魔人は魔力に愛されているわね……」
「両親に感謝しかないです」
ありがとう、父様と母様!
「予想はしてたけど、魔法は何も心配いらないわ。このまま練習すればすぐに反則級になれるわよ。問題は体術ね」
「体術ですか?」
「そうよ。魔人が魔力切れを起こすなんてそうないけど、魔法が使えない状況だって無くはないわ。そんな時、何もできませんじゃ危ないでしょう?」
「確かに……」
それで兄様はあんなに身のこなしが素早いのか。
「兄様が武器を持っているのは見たことがないんですけど、無手で鍛えるんですか? それとも何か選ぶ?」
「そこは好みね。ちなみにディートくんは剣よ。大剣でも短剣でもなく普通の剣」
「へぇー」
格好良い姿しか想像できない。めちゃくちゃ似合いそう。
「けどディートくんは素手でもあり得ないほど強いわよ。さすがは魔王の息子ってとこかしら。こ憎たらしいほど隙がないわ」
兄様に弱点ってないのだろうか? シスコン?
「リリシアちゃんはどうする?」
「うーん。そうですね」
近接戦ができた方がよさそうだよね。魔法職ってそこが弱いイメージがあるし。
多分、私はこっちで苦労しそうだ。
なんせ体育の成績で三以上を取ったことがない。
「まあ考えておいてね。先に魔法の強化を進めるから当分先の話でもあるし。魔人は魔法をメインに鍛えるのがセオリーよ」
「はい、お願いします!」
この日は陽が暮れるまで魔法を練習し続けた。




