47話 悪魔商会
半刻もしない内に行商のおねえさんはやって来た。
「どうも~! 悪魔商会王都地区担当、セレディです」
銀色のアタッシュケース片手に黒のパンツスーツという出で立ちで、転移魔法を使って突然姿を現したのだ。
めちゃくちゃビックリした。
紫の結い上げた髪が似合う美人じゃなければ全力で叫んでた。
「毎度ありがとうございます。キリノム様」
「いえ。今日は僕でなくリリシア様が何かご入用らしいので、お願いしてもいいですか」
「あら! 大歓迎ですよ」
「よ、宜しくお願いします」
おねえさんとは二度目まして。
最初に会ったのはバルレイ将軍へのお詫びの品を買った時だから、随分前だ。
その時に一緒じゃなかったソラは、初めましてになる。
だから警戒MAXで凄い形相になっている。
ソラを背で隠すようにしてペコリと頭を下げれば、セレディさんは屈んで私の手を取った。
「うふふ。魔王様の御令嬢なのに変わらず礼儀正しいのですね」
「そうですか? ありがとうございます……?」
これぐらい普通だと思うんだけど。
他所の令嬢ってそんなに高飛車なんだろうか。
首を傾げればセレディさんが一瞬、真顔になる。
「……キリノム様。持って帰ってもいいかしら?」
「あはは。笑えない冗談ですね殺すぞ」
「そうですね。まだ死にたくありませんので諦めましょう。ではリリシア様、どちらでお話しをさせて頂けば宜しいでしょうか」
「え、あ、じゃあ私の部屋でお願いします」
「ではご案内して頂けますか?」
セレディさんの切り替えの早さに白黒してしまう。
さすがセールスレディ。殺し文句(殺意百パーセント)もどこ吹く風だ。
悪魔商会とは。
その名の通り、悪魔による悪魔の為の商社である。
とある昔。自ら足を運ぶことを嫌う高慢で変わり者の悪魔が、地位の高さを笠に下級の悪魔たちを屋敷に呼び付け、無理難題とも思える多種多様な品を要求したことにより始まったとされる。
本来は対価と引き換えに奉仕することを厭わない性格の多い悪魔にとって天職だったのか、商会は徐々に規模を拡大し、今や顧客は全悪魔の七割を占める。
企業理念は『何でも迅速に揃えます』。
理念通り揃わないものはないと言われている。
悪魔らしく非人道的な手段を使って揃えている、という噂も後を絶たない。
以上、移動途中でセレディさんから聞きました。
噂が黒すぎだよ! 笑って教えてくれたのが怖かった!
「それで御入用のものは何でしょう?」
セレディさんをずっと警戒しているソラを宥めすかし、メイドさんがお茶を淹れてくれ去ったタイミングで、セレディさんがニコリと話し掛けてくる。
なんかもう黒い笑顔にしか見えない。どうしよう。
入城を許可されているから、悪い人ではないと思うけどさ……。
「あの、十歳くらいの男の子が着る服と下着が欲しくて」
「あら。予想外のご要望ですね」
「な、内緒にしてもらえますか?」
「もちろんですよ。守秘義務がありますから」
……あるんだ悪魔にも。
「どんなものがあるか見せてもらえますか?」
「それは構いませんが、サイズはどうなさいます? 多少お時間は掛かりますが、オーダーメイドも承れますよ?」
おぉ! 確かに何でも揃えると謳っているだけはある。
でもこの場でサイズが測れないから、それは難しいな。
「既成のものでお願いします」
「畏まりました。ではカタログをお出ししますね」
足元に置いていたアタッシュケースを座っていたソファーの座面横に乗せ開けると、セレディさんが中から冊子を取り出す。
「えっ。その中、何も入ってなかったですよね……?」
空のケースの底から冊子が引き抜かれたように見えた。
「うふふ。この鞄、空間魔法で社の倉庫と繋がっているんです」
四次元ポケ●ト……!
「そうなんですか! 凄い!」
「…………本当に持って帰りたいわ。癒し商品のサンプルとして」
「え? 何ですか?」
興奮していたら聞きそびれてしまった。
「いえ、何でもありません。どうぞご覧になってください」
セレディさんからタウンペー●くらいの厚みがある冊子を受け取る。
思った以上に選べそうでワクワクする!
「ソラ一緒に見よう?」
「ガウ」
ポンポンとソファの隣を叩けば、床に寝そべっていたソラが座面にモフッと顎を乗せた。
私は理性を試されているのだろうか。
「あの、さっきから気になっていたのですが、そちら天狼ですよね……?」
突然のモフテロに耐える私にセレディさんが声を掛けてくる。
どうやら宥めるのに必死過ぎて、紹介し忘れていたらしかった。




