45話 飴だけを希望
コントのような会話を聞いていると、ソラがキュートな前足でタシタシと兄様の軍靴を踏み何かをアピールしてくる。
「なんだ駄犬。昨日は誕生祝いにリリを優先させてやっただろう」
「グルルル……」
「あまりしつこいと焼肉にするぞ」
「何の話ですか!? というか、駄目ですよ!?」
兄様とソラの関係も変わらない。気付くとバチバチやっている。
「……リリ。こいつの何がそんなにいいのだ」
「全部です!」
「ガウッ!!」
即答した私にソラが千切れんばかりに尻尾を振る。ご機嫌だ。
「ほら、めちゃくちゃ可愛くないですか?」
「心底目障りだ」
スンッと表情を失くし、人形のように綺麗な顔で兄様が吐き捨てる。
かなりのガチ発言だコレ。
「兄様……」
『リリちゃん無駄っすよ。兄さんはリリちゃん以外、路傍の石ぐらいにしか思ってないっすもん』
実感のこもりまくった声でホムラくんが嘆く。そ、そこまで酷い?
「そんなことはないぞ」
『え!? じゃ、じゃあ』
「父上と母上が抜けている」
『オレはーーーー!? 五年も一緒に居るのに!!』
「…………お前なんでここに居るんだったか?」
『アンタが殺そうとしたから従属したんでしょうがあああああ……!!』
ギャーギャーと泣き叫ぶドラゴン。シュールだ……。
「冗談だ。それなりに愛着はなくはない」
『なんすかそれ……。あるのないの?』
「なければとっくに消し炭にしている」
『ひえぇぇ……!』
「だからこれからも共に居て俺に従え。ギュオホムラス」
『に、兄さん……っ!!』
こんな時だけ名前で呼ぶとか、兄様の飴とムチ加減がすごい。
魔物を従属するのってそんな高度プレイが必須なの? 私には無理だよ!
飴でムチをコーティングする勢いで、デロデロに甘やかす自信しかない。
「ところで兄様は魔法の練習をしていたんですか?」
さっきの青い爆炎は兄様の攻撃魔法だ。
赤ではなく青い炎なのが幻想的で格好良いんだよね。
「ああ。威力を抑える訓練をしていたのだ」
「えっ、上げるんじゃなくてですか?」
「人間の護衛任務には強過ぎるからな。普通にやっていたのでは街ごと消し飛ぶ」
……マジですか。
というか、抑える練習しててアレ?
全然抑えられてないよ! 大惨事だよ!
「リリも直に魔法の練習をするのだろう。何か困ったことがあれば兄様にすぐ言うんだぞ」
「はい、ありがとうございます」
「いや違うな。何かなくても兄様に言うこと」
ふわりと私の額に口付ける兄様。
私が幼児から脱しても兄様は変わらず極甘だ。もう兄離れできる気がしない!
ブラコンの沼に嵌まっていると、ソラがまた兄様の軍靴を踏んだ。
今度は踏み潰す勢いで。




