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27話 バルレイ将軍のしつけ教室

 軍服姿が相変わらずよくお似合いだと思ったら、今日の将軍は背に大剣まで差している。

 全体的に真っ黒だけど、将軍の髪色と似た赤いラインが刀身に入った華があるやつだ。前に何度か見たことがある。

 格好良い。ゲームのキャラみたい。

 こんなデカい剣なんて絶対実用的じゃないと思うけど、まあ将軍だし。

 きっと華麗に使いこなすに違いない。


「お久し、ケホッゲホ!」

 酸素不足で急に喋ったせいか、苦しくなってゲホゲホと咳き込む。ま、マジでタイム……!

「おいおい、落ち着いて息しろ」

 大きな手で背中を擦ってくれる将軍は見かけによらず紳士だ。


「はぁ……。ありがとうございました。お久しぶりです、バルレイ将軍」

「おう。一週間ぶりってとこか」

「そうですね。貰ったお酒は美味しかったですか?」

 以前、調理場へ連れて行ってもらった時に貰ってたやつのことである。

「イマイチだったな。もっと強くねぇと物足りん」

「あー……。それは残念」

 やっぱ酒豪なのか。ウォッカもストレートで一気飲み出来そうだよねこの人。


「そうだ、バルレイ将軍。この辺使う予定でした?」

 武装して庭にいるということは、そういうことじゃないのかな。何も聞いていないけど予定変更とかで。

「いいや。鍛錬場に行こうとしてたんだが、リリシアの気配がしたんで追っかけてみた」

 なにそれ口説いてるの? もう落ちてるよ!


「しかしちょっと走ったぐれぇでああなるとか、ちゃんと飯食ってんのか?」

「三食美味しく頂いてますよ。単に私がモヤシなだけです!」

「もやし?」

「えーっと、すごく細くてヒョロっとした野菜です」

 この世界にはない。

 結構好きだったのに。味も価格も。

「ははっ。そりゃ言えてる」

「将軍は何食べてこんなになったんですか」

 ペチペチとけしからん大胸筋を叩く。実にいい感じの雄っぱいだ。


「まあ肉だな。あんなヤツとか」

 将軍がチラリと視線を向けた先。

 凄い剣幕でソラがこっちに向かって走ってくる。どうしたソラ!?

 あ、将軍に会うの初めてだっけ。だから警戒してるのかな。


「アイツだろう? お前の柔肌に穴開けたのは」

 なんか将軍が言うとエロいよ。この人の雰囲気がエロスだからだろうか。

 そして事情をご存知だ。周知されすぎじゃない……?

「ソラ的には正当防衛です」

「ほお? ちょっと見せてみろ」

「? いいですけど」


 グイッと袖を捲って手首を見せる。

 痕なんて何もない。

 母さまの治癒魔法は完璧で、一瞬で元通りだったのだ。


「さすが王妃殿の魔法だな」


 なんと母さまが使った【復元治癒】という魔法、失われた叡智と言われる古代魔法の一つでした。

 禁書指定されている魔導書に載っている魔法で、身体の欠損まで治せるらしい。

 世界広しとはいえ、使えるのは片手で納まる人しかいないとか。

 なんでも古代魔法が記されている魔導書は使い手を選ぶらしく、相応しくない人が発動させると魔導書が魔力と精力を吸い尽くして殺すんだって。

 だから使えるのは数名。

 父さまが厳重に保管してるのもそういう理由。怖すぎか!


「怪我しないよう気を付けろよ」

 チュッとリップ音させて手首に口づけるバルレイ将軍。え、エロ紳士……!

「グルルルルルル……ガウッ!!」

「……っと、危ねぇ」

 一人で動揺していたら目の前にソラの顔が。


 あれ? なんで?

 えっ、将軍の腕に噛み付いてる!?

 私を抱えているのとは反対側の将軍の腕に、警察犬が犯人確保の訓練をする時みたいにガブリと噛んでぶら下がっている。

「えええええ!? ちょ、ソラ!! 駄目!!」

「ガウゥゥゥゥ……!」

 嫌だ、とでも言いたげにソラは呻って放さない。


「なるほどなぁ。コレが」

「し、将軍!? のんびり観察してる場合ですか! っていうか、ごめんなさい!」

「ああ。リリシアは気にすんな」

「しますよ! 私の時とはソラの大きさが全然違うし!」

「こんなもん攻撃の内にも入らねぇよ。つーか、そもそもオレに物理攻撃は効かねぇしな」


 そういえばバルレイ将軍は鬼人だった。

 鬼人には元々、物理攻撃耐性がある。

 将軍はさらにその上、物理攻撃無効らしい。

「って、無効だろうと噛み付いちゃダメでしょ! すみません!」

「まあなぁ。躾が必要か。おいコラ狼。てめぇはもちっと考えて行動しろ。てめぇが節操なしに噛み付きゃ、一緒にいるリリシアに迷惑掛けんだぞ」

「グルルルルル……」

「グルルじゃねぇよ。分かってんのか」

 バルレイ将軍は未だ腕にぶら下がったままのソラに向かって、淡々とお説教を始める。


「それから攻撃面。全然ダメだ。相手の力量、それに見合った攻撃法、守ろうとしてるやつの身の安全。全部無視して突っ込むバカがどこにいんだよ」

 教官スイッチが入ってしまったのか、バルレイ将軍のダメ出しは止まらない。

 狼相手に語っているところにファンシーさを感じてしまう私は、きっと軍人には向いていない。


「俺が庇わなきゃリリシアにまた穴が開いてただろうが。…………殺すぞ」

 最後の一言の時だけスッと瞳を冷酷なものに変え、ワントーン低く言い放つバルレイ将軍。

 こ、怖ッ! いきなり別人みたいだ。

「ガルルルルル……!」

 完全にビビる私とは対照的に、全然引かないソラ。凄い。凄いけどいい加減放さなきゃダメだよ!

「……まあ自分より強いモンにも怯まねぇとこは合格か。けど気持ちだけじゃすぐ死ぬぞ。こんな風にな」

「ギャインッ!!」


 バルレイ将軍が予備動作なしにソラの首元に噛み付いた。

 思いっ切り。

 ギチッと肉に食い込むような嫌な音を立てて。


「えっ」


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