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25話 天狼の生態

「ソラ、大丈夫だった?」

「ガウ」

「そっか。ソラは強いね。さすが男の子だ」

「ガウ!」

 耳と尻尾をシャキーンと伸ばし得意気に吠えるソラ。めっちゃ癒される。

「部屋に入ろうか」

「ガウ」


 ガチャッと扉を開け自分の部屋に入った途端、ドッと押し寄せる倦怠感。

 さっきの空気に思った以上に精神を削られたみたいだ。

 この白く清潔でお姫様みたいな家具が揃う部屋の雰囲気に、とても安心する。

「贅沢に慣れちゃったのかな私……」

 いやそれはダメだ! 謙虚に生きねば!

 バシバシと頬を叩き気合を入れ直す。よし!


「リドくんがくれた本を読もう」


 ソファーに移動し腰を下ろせば隣にソラがストンとおすわりする。

「一緒に読むの?」

「ガウ」

「そっか。自分の種族が書かれてるなら気になるよね」

 臙脂色のハードカバーの本をパラリと捲る。

 書名は『天狼についての考察』。

 あまり厚くはない。というか、ぶっちゃけ本にしちゃ薄い。タウン●ークぐらいのページ数だ。


 ま、まあ問題は中身だよ。よし進むぞ!

 目次を流し見して本文一ページ目。

 いきなり見開きで天狼の成体画が載っていた。

 この姿は魔物図鑑で見たから知っている。凛々しくて格好良いのだ。

 五メートル級に成長するらしいので、成長のふり幅がすごい。今は豆柴サイズだというのに。


 次のページは種族名などの説明文。

「人型になれるのは何歳からかな……」

 一番知りたいのはそこだ。

 あと好物と嫌いな物も。普通にお肉をあげてたけど正解だったんだろうか。

 美味しそうに食べてくれていたとはいえ、知っておくべきだろう。


「えーっと、好物は魔物の肉なら何でもよい。雑食と思われる」

 なるほど。お肉で正解だったらしい。

「嫌いなものは酸味のある果物と思われる」

 さっきから『思われる』ばっかじゃん。ふわっとしてるな!

「ソラ、これ合ってる?」

「ガウ」

 合ってんだ……。表現はアレだけど間違いじゃないらしい。複雑。


「人型になれるのは……十歳前後! これは合ってる?」

「ガウ」

「おお! そういえば、ソラって何歳……?」

 子どもだってことは分かるんだけど。


 一本ずつ順番に指を立てて見せると五本目で吠えた。


「五歳なんだ。私より年上だね」

「ガウ!」

 なぜか嬉しそうにするソラ。可愛いなちくしょう。

「じゃあソラと普通に話せるのは約五年後か。長いなぁ」

 楽しみなことほど長く感じるのってなんでだろう。


 ん? でもソラは人型になってくれる気はあるのだろうか。

 なれるというだけで、勝手にそうなるわけじゃない。

 意志が必要だ。

 ソラにとっては獣の姿の方が自然体。

 それに身体の負担とかどうなんだろう?


 パラパラと読み進めてみるも、その辺りのことは書いていない。

 なんと最初の数ページ以外、ほとんどが著者による天狼の目撃談と理想論が延々と記されていた。

 使えねえ! 魔物図鑑のたった一ページと大差ない!

 リドくん、ほんとに期待外れですこの本……。


「ソラ、この本あんまり参考にならなかった。色々教えてね……」

「ガウ!」


 幸運なことにソラとは言語表を介せば双方向に意志疎通できる。

 本人に訊けるなら、これ以上の教材はない。

 なんで最初からこうしなかったんだ自分。


 楽して一度に知ろうという無意識下の行動だったのか、ただのアホか。

 限りなく後者だ。


 私は部屋に備え付けられている本棚にそっと本をしまった。

 さらばオクソ・タキン(著者)。


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