㉘ 奥の細道
「そのヒトの名は……。」
「うん、うん。」
「松尾芭蕉と河合曾良です。」
「ああ、そう来たかあ〜。」
ソファーに座ったまま、カグヤがのけ反る。
(前回の"写楽"と言い、私が成雪に知識を入力する時に、ひょっとして、何かしら私的な執着心を、込めちゃったのかしら?どちらも私自身が、その存在に、何となく"違和感を覚えた人物"じゃないの。)
「……だとしたら、コレは、私の責任だわ。」
「えっ、今、なんて?」
「あ、ああ、何でも無いのよ。」
カグヤは思っていた事を、途中から口に出して言ってしまっていた。
「"奥の細道"を書いて、たくさんの素敵な俳句を遺したヒトね?いいわ。調べに行きましょう。」
カグヤは早速、小型タイムマシンに、目的地の座標を入力した。
正暦1689年7月21日
時刻17時00分
北緯36度15分
東経136度22分
「衣装チェンジはOKね?じゃあ、早速行きましょう。」
彼女は、その場にしゃがんで成雪の肩を抱くと、時空転位装置のスイッチをONにした。
同時に周りの景色が歪んで行く。
「さっきアナタは二人の名前を挙げたけど……。」
「……うん。」
「ターゲットは、河合曾良の方よ。理由は、この日付近の行動が怪しい事なの。まあ、実はコレ、雪子さんからの受け売りなんだけどね?」
カグヤは覚えたての"テヘペロ"をした。
成雪は「何のポーズですか、ソレ?」と言った。
「……何でもないわよ。記憶から消して。」
カグヤは少し、恥ずかしくなった。
タイムトラベルの出口は、とある温泉郷だった。
そこは、現在で言うところの、石川県加賀市の
山中温泉である。
「この温泉街で、明日、何故か河合曾良は、松尾芭蕉と別行動をとるのよ。」
「そうなんですね。」
「なんか、史実では、腹痛とか言われてるけど、この日まで元気に、北日本を歩き周ったヒトが……アヤシイものよね。」
「う〜ん。確かに。」
「さあ、せっかくだから、私たちも、何処かの宿に入って温泉を堪能しましょう。」
「あ、イイですね、それ。」
そんな訳で、二人は取り敢えず近くの宿に交渉し、一夜を明かす事にした。
カグヤがまた、例の砂金の入った袋をちらつかせて、呉服問屋の放蕩息子の旅の話を、でっち上げた事は、今さら言うまでも無い。




