84.テンプレ的に、剣術の訓練をする俺。
シンジ君、剣術の稽古の巻。
戦闘描写って難しいですね。なるべく一文内の動詞の数を減らしてみました。どうでしょう?
シンジとアンリは、3mほど離れて対峙する。審判役は、アイリスが買って出た。
「シンジさん、縛りは要りますか?」
「そうだね、剣技を見たいから、お互い魔術は無しで。身体強化も無しで」
「素の技術のみですね。了解です」
アイリスが右手を掲げ、そのまま振り下ろす。
「はじめッ!!」
アイリスの掛け声が響いた。お互いに、じりッと摺り足で右足を斜め前に出す。
始めに仕掛けるのはアンリ。予備動作なく前に出て、鋭く横に薙ぐ。シンジは斜め前に進み躱しながら胴を狙う。即座に反応し、剣を盾にして受けようとするアンリ。シンジは手首を捻って刀を跳ね上げ、空いた脇を狙う。アンリはスッと下がって避けた。
また動きが止まった。
数瞬が過ぎ、今度はシンジが仕掛ける。
シンジが1歩踏み出す。予備動作なしに。アンリから見れば、それは足を動かさずに急に移動したように見えただろう。一瞬驚いた顔をした。これは魔術ではない。歩法だ。
アンリの斜め前に出て半身になる。そのまま小手を狙う。アンリが辛うじて避けた。だが、少しだけバランスが崩れる。
シンジはそれに付け込むように、手首を返して胴を狙う。が、アンリは強引に剣で弾き返して1歩下がり、体制を整えた。
「ふむ、さすがアンリさん、やるねえ」
「シンジさんこそ。見慣れない剣術ですが、非常に合理的です」
刀術はチャンバラとは違い、基本的に剣を打ち合わせない。刃が欠けてしまうからだ。体術と刀を滑らせることで、真っ向から打ち合わないように刀を使うのが特徴だ。だから、足さばきに特徴が出る。
その後もシンジたちは試合を続け、1勝1敗相打ち1の互角だった。
朝食を挟んでいるが、さすがにやり過ぎた気がする。
「兄上と剣技で互角に戦える人を初めて見ました」
「そうなの?」
うんうんと肯くアイリス。目がキラキラと輝いている。
「あ、でもシンジさんは、魔物暴走の時、普通の剣を使っていましたよね?」
シンジがその時に使っていたのは氷の剣で、確かに西洋剣である。
「うん、両方使えるからねー」
「そうなんですかッ!?」
今度はアンリが驚く。
「両方とも修行する羽目になってねえ。ちょっと大変だった」
チュートリアル中に、両方訓練したのである。あれは絶対に幼女の趣味だろう。
「シンジさんって、17歳でしたよね? 私はその年齢の時、そんなに使えませんでしたよ?」
アンリは23歳である。アイリスは18歳。身体年齢的にはどちらも年上である。
「その年齢でここまで使えるようになるとは……どんな修行をしてきたんですか?」
「いや、俺よりアンリさんの方がずっとすごいですよ。詳しくは言えないけど、マジで」
シンジとしては、とても本当の事は言えない。何しろ、100年以上修行漬けだったのだ。もちろん、剣術や刀術に充てた日数を数えれば、それぞれ30年くらいになるのだが。
そういう意味では、シンジはアンリの才能に舌を巻いている。シンジはそれだけの修行期間と実践によって技を磨いてきた。
それに対して、アンリは10歳未満から剣を握っていたとしても、修行期間はシンジの半分にも満たないはずだ。それで、シンジと互角の剣技を身に着けているのだ。シンジは、正直アンリの才能に賞賛と嫉妬の思いがある。
「では、今度は普通の剣でお相手していただきたいですね」
アンリがニコニコと剣を手に立ち上がる。
「おっけー」
シンジは、今度は西洋剣の木剣を取り出し、構えた。
◇
「いやあ、いい汗かいた。って言うか、昼食前の運動じゃないよね、ここまでやると」
西洋剣でも互角に戦ったシンジとアンリは、汗を拭きつつ休憩する。
「正直言って、シンジさんと打ち合えるのは楽しいですね。騎士隊の中でも、ここまで詰めて訓練はなかなか出来ないですから」
アンリが満足そうに言った。
「そうですね。兄上と長時間打ち合える剣士は、なかなかいないですからね。国の剣技大会でも優勝していますし」
アンリはこの国でもトップクラスの剣士らしい。実はアンリの騎士爵は、この剣技大会の最年少優勝によって獲得したものだ。
「まあ、剣技だけなら。魔術込みだと、さすがにそこまではいきませんが」
アンリがちょっとテレながら話す。イケメンで国一番の剣士。モテる要素しかないのだが身持ちは固い。
考えてみれば、シンジは六段の剣士である。六段と言えば、幼女段位表によれば名人クラスとなる。それと互角なのだから、恐らくアンリも六段なのだろう。強いはずである。
途中、アイリスとも試合をした。感覚的には、アイシスは四段の上クラスか五段に足を掛けたレベルだろう。それでも年齢を考えれば大したものである。
シンジもこちらにはさすがに負けなかったが、アンリとの年齢差を考えれば、下手をすればアンリより才能がある。
ランチェスト男爵一家。なかなかのバケモノ一家である。
しかし、シンジはこれで少し安心した。
何故なら、これから起こるテンプレ反動に巻き込んだとしても、この兄妹なら力負けすることは無いだろうから。
幼女が立てたフラグを考えると、フェンリルか下級の色竜あたりが来るのだろう。魔剣さえあれば、死ぬことはあるまい。
安心して巻き込めるというものだ。
シンジが非道いことを考えていると、それを感じたのかふたりともプルリと震え、キョロキョロとあたりを見た。
「どしたの?」
白々しく聞くシンジ。
「いえ、何か悪寒が……」
それは生存本能である。生物として、兄妹そろって良い感覚をお持ちである。
「あと2日あるし、アイリスさんを中心に明日も午前中訓練する?」
シンジは、兄妹に提案する。出来れば、もう少しアイリスの剣技を鍛えておきたい。例え短期間でも、得るものはあるだろう。
「ぜひお願いしますッ!」
アイリスが深々と頭を下げた。
「シンジさん、観光は良いんですか?」
アンリの指摘に、はたと気付くシンジ。そう言えば、王都内を全く見ていない。
「じゃあ、午前中は訓練で、午後は観光にしよっか。案内って、冒険者ギルドとかで頼めるのかな? かな?」
王都の冒険者ギルドも行ってみたいので、ちょうど良い。
「どちらかというと、それは雑務ギルドの仕事ですね」
アンリに言われて、ちょっと残念に思うシンジ。
「そっか、王都の冒険者ギルドも見てみたかったんだけどねえ」
「では、ふたりで冒険者ギルドに案内しますよ」
アンリとアイリスからの提案に、シンジは遠慮なく乗ることにした。
「んじゃ、お手数ですけど、おふたりさんヨロシクね」
アンリとアイリスが笑いながら肯いた。
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