85.テンプレ的に、フラグを回避する俺。
シンジ君、フラグを華麗に避けるの巻。
もし、シンジに狂信的になったら……AMEN。(ヲイ)
王都の冒険者ギルドは、非常に事務的であった。
よく考えてみれば、王都の周りに強大な魔物が出るはずもなく、護衛任務の出発終着地点としての機能が中心で、街道沿いに出る弱めの魔物退治くらいが討伐任務。採取は小さな森や林の薬草くらいで、貴重なものは輸送されてくる。
だから、雑務ギルドから上がってきた王都の新人冒険者は、街道沿いの魔物退治で腕を磨き、地方に散っていく。そこでランクを上げつつ、中堅になったら護衛任務で王都に戻ってくる。それが出来るようになったら一人前だ。
もちろん、そこまで全員がたどり着けるわけではないのが、ファンタジー世界の厳しい現実だ。
シンジが兄妹に案内されて入った冒険者ギルドには、ちょうど暁の鐘のメンバーがいた。これは、彼らから聞いた話だ。
「それにしても、ギルド内がやたらと慌ただしいな。何かあったのか?」
ボーブが受付内を見ながら、いつもと違う雰囲気に戸惑っているようだ。
「師匠……」
「ん? ぁんだって? ライガーのおっちゃんがいるのかぁ?」
アンダーソンがぼそりとつぶやく声に、スナーブが反応した。
どうやら、受付奥の事務方が仕事をしているあたりに、アンダーソンとスナーブの知り合いがいたらしい。
シンジがその方向を見ると、神官を服を着た小柄な男がいた。目立つのは、頭からマスクらしきものを被っているからだ。
「ボーブさん、あちらの目立つマスクメーン、おふたりの知り合い?」
「お、ライガーさんか。あの方は、本神殿で孤児院の取りまとめをしている方だ。ふたりはそこの出身だからな。でも、司祭のあの方が冒険者ギルド本部に何でいるんだ? 確かに元冒険者だったはずだけど」
「いやいやいや、その前に、何でマスクメーンなのさ?!」
「あー、あの方は冒険者時代に顔にケガしてな。治療が遅れたんで傷が残っちまったんだよ。子供が怖がるので、マスクを被るようになってなあ。すっげー優しい人なんだが」
人に歴史ありである。アンダーソンは、その影響で神官を志したらしい。
「んでもぉ、何でライガーのおっちゃんがギルドにいるんだぁ? 厄介な魔物でも出たのかぁ?」
スナーブが首をひねっている。どうやらライガー司祭は、神官になる以前は高位の冒険者だったらしく、今でも魔物退治をするのだという。
「聞いてみた方が早いか」
ボーブは、受付の女性に、ライガー司祭を呼ぶようお願いする。すると、彼はこちらを見て即座にこちらに近づいてきた。
「ああ、暁の。こっちに戻っていたのだな。アンデルセンにスナーブも、元気だったようで何よりだ」
ちょっと高めのハスキーボイスが、早口で話しかけてきた。
「師匠……ご無沙汰です」
「おっちゃんも相変わらず年を感じねーなぁ」
言いながら、ふたりが深く頭を下げる。どうやら、文字通り頭が上がらない相手らしい。
「アンデルセン? アンダーソンじゃなくて?」
シンジは聞き間違いかと思った。が、こそっとボーブが耳打ちする。
「ああ、アンデルセンというのは、アンダーソンの生まれ故郷と思われる国での発音だな。ライガー司祭は、孤児でも故郷を忘れぬようにと、昔から敢えてそう呼んでいるらしい」
「アンデルセン……神官? AMEN? うッ、頭が」
シンジ的に、イヤな予感しかしない。変なフラグが立たないように、絶対にアンダーソンと呼ぶことにする。
「お前は相変わらず口が治らんな」
ライガー司祭は、小柄ながらもムキムキの腕で、素早くスナーブにヘッドロックを掛ける。
「あ痛ッ! おっちゃん痛いッ! 勘弁勘弁ッ!!」
ぺちんと頭をひとつ叩き、ライガー司祭はスナーブを解放した。
「おー痛ぇー」
スナーブがこめかみ廻りをマッサージしながら痛みをこらえているのが笑えた。
「で、ライガーさん。何かまずいことでも起きましたか?」
いったん落ち着いたところで、ボーブがちょっと声を控えめに話す。
だが、ライガーは一瞬目を見開き、パタパタと手を振りながら、あっけらかんと答える。
「違う違う。ちょっと神殿からギルドに伝えることがあってね。良く出入りしている私が伝言を頼まれたのだよ」
「あ、そうなんですね。まずい魔物とか出なくて良かったです」
ボーブがほっと溜息を洩らした。
「神殿からギルドに……?」
それを聞いていたシンジ、思い当たることがあった。あり過ぎた。
「お、そちらの方は? 暁の新しいメンバーかな?」
「あ、申し遅れました。私は今回、暁の鐘と一緒に護衛任務に就きました、シンジ=クロスと申します」
シンジが深々と頭を下げてライガー司祭に自己紹介する。シンジは初対面の時には大猫を被れるのだ。
「あ、これはご丁寧に。……ん? どこかで聞いたような? え? クロス騎士爵?」
ライガー司祭から疑問符だらけの声が漏れる。神殿関係者だけあって、シンジの事を聞いたことがあるようだ。
「あ、たぶんそのクロスです」
「は、それは。……そうですか、貴方様が。ハルク祭司教様が、くれぐれもよろしくと」
ライガー司祭は、驚きをひたすら隠し、そう言って一礼した。
「祭司教様……」
アンダーソンが、珍しく顔を驚きの表情に変えている。侍祭から見れば、雲の上のそのまた上の人だからだろう。
そこでライガー司祭は、アンダーソンに向き直った。
「アンデルセン、クロス卿にいろいろ学ぶのだぞ」
ライガー司祭の言葉に、アンダーソンは首を傾げながらも肯いた。
それを見届けると、ライガー司祭は颯爽とギルド内に戻っていった。まだギルドとの調整があるのだろう。
「それを見送ると、アンダーソンが体ごとこちらに向く。
「どういう……?」
「え? ハルクさんとどういう繋がりがあるのかって? うん、昨日本神殿に行ったら、仲良くなったの、かな?」
間違いではない。
「学ぶ……?」
「あ、ライガー司祭様が何を学べと言ったのかって? たぶんだけど、アンダーソンさんに俺が教えられるのって、聖魔術と棒術位だなあ。さすがにスパイン・バスターや銃剣術は教えられないよ? それで良ければ」
「ぜひ」
「うん、帰りの馬車で良いかな? うん、じゃ、それで」
シンジとアンダーソンが、お互いにうんうんと肯き合った。
「……何度も言うが、シンジ、お前良く分かるな?」
ボーブが呆れた顔をした。
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