38.テンプレ的に、男爵邸でめちゃくちゃ歓待を受ける俺。
シンジ君、アイリスさんの家にお呼ばれするの巻。
シンジ君は、貴族の前でも動じません。でも、アノ件を知られたら……(ガクガクブルブル)
日が傾いて、辺りが夕焼けのオレンジ色に染め上げられた頃、貴族街に向かったシンジたちは、その中心付近にほど近い、大き目の屋敷が並ぶ一角にいた。
「シンジさん、ここがランチェスト男爵邸です」
案内されて着いたのは、巨大な庭と城のように美麗な、領主である伯爵の城館にほど近い、かなり大きい屋敷だった。
「大きいねえ」
見るからに英国のヴィクトリアン・タウンハウスっぽい作りの屋敷が、デデーンという効果音さえ聞こえてきそうな佇まいで鎮座していた。
大きな門には、門番が槍を持って2人立っていた。
「戻ったぞ」
「お嬢様! おい、屋敷の者に知らせろ!」
門番のひとりが慌てて門の中に消えた。
「まさか、歩いて来られるとは思いませんでした」
アイリスが首を傾げた。
「おかしいな。シンジさんを案内して歩いて行くと伝えているはずなのだが」
「それは聞いております。が、馬車で動かれているものだと思っておりました」
なるほど、普通貴族は馬車を使う。アイリスが騎士であっても、貴族のお嬢様であることは間違いない。ならば、そう思っても無理はないだろう。
「それでは、こちらの方が?」
「ああ、こちらがシンジ殿だ」
シンジは空気を読んで門番に一礼する。ここは、貴族のお嬢様に対するようにした方が良いだろう。
「シンジと申します。本日はお世話になります」
「お嬢様をお救いいただき、本当にありがとうございます」
門番は、土下座せんばかりにシンジへ頭を下げた。
「いやいやいや、そこまでされなくても」
シンジが困っていると、屋敷に走って行った門番が、もう一人兵士を連れて戻ってきた。
「お待たせしました! 屋敷にご案内いたします!」
連れられてきた兵士は、やたらとテンション高く案内を始める。
「……あのー、アイリスさんや。むやみやたらと大歓迎ムードなのに、ものすっごく違和感があるんだけど?」
「いえ、私も何が何だか」
シンジとアイリスは、顔を見合わせた。
まあ、こうしていても仕方が無いと、案内されるままに屋敷へと向かった。
◇
「おいでなされませ」
一糸乱れぬメイドさんの列。
「アイリス、よくぞ戻ってきた」
その列の奥には、4人の男女が立っていた。
向かって右端はアンリだ。ラフなシャツでスラリと立っている。
左端には、アンリを細くしたような、華奢にも見える男性。
そして中央には、細身の中年男性とドレスを着た中年、と言うには若く見える女性。男性は上品な口ひげを生やし、見るからに文官、といった細身の様相だ。左端の男性を、そのまま老けさせた感じがする。
女性の方は、どこから見てもアイリスの母、と思える女性だ。当然40歳を超えている筈だが、それよりも多少は若く見える。やはり、貴族だからか美容には気を使っているのだろう。
「君がシンジ君か。よく来たね。私がアイリスの父だ」
父親らしき男性が、貴族言葉を使わずに話しかけてきた。シンジに気を使っているのだろう。
「男爵様でいらっしゃいますか? 私はシンジと申します」
シンジは片膝をついて、礼を取る。
「礼には及ばんよ。君はアイリスの恩人なのだからね。さて、まずは着替えて来ると良い。一緒に食事をしよう。アイリスも準備しなさい」
ちょっとシンジは面食らった。が、特に非礼は咎められなかったので、メイドに促されるまま部屋に案内された。
「お着替えは必要ですか? お湯と一緒にお持ちしましょうか?」
「あ、両方大丈夫です。洗浄の魔術」
シンジが魔術を使うと、メイドは一瞬驚きの表情を出すが、すぐに立ち直ってスマイルに戻った。
「洗浄の魔術が使えるのですね。それでは、お着替えが済みましたら、こちらのベルを鳴らしてください」
そう言って一礼し、部屋から出た。
「うーん、教育が行き届いているね。さすがは爵位貴族家のメイド」
シンジも世界大百科で知ったのだが、この世界の男爵家は、現代日本でのイメージより上の爵位だ。
これは、個爵と家爵が分かれていることにより、家爵の陞爵が難しいためだ。
「足高の制みたいなもんだよね。要するに」
テンプレでありながら、テンプレを微妙に外してくる。これも反動を恐れた幼女の仕業なのだろう。これも『優秀な個人を登用するが、家までは優遇しない』という、国家にとっての実利があったので、続いている制度なのだろう。
シンジは持っている服の中で、それほど華美ではないが上等な服をアイテムボックスから取り出し、着替えた。もちろんチュートリアル中に幼女の命で作らされた、シンジ謹製の服である。
「チュートリアル中は、服の消費も激しかったからなあ」
修行をすればボロボロになるし、学生服でずっと過ごすことは出来ないのだから、仕方ない事なのだが。
シンジは、さっさと着替えてベルを鳴らした。
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