37.テンプレ的に、冒険者ギルドの存在に疑問を持つ俺。
シンジ君、ギルドで考察するの巻。
中世世界で、宗教的権威なしに国際組織の設立は不可能だよね。ふつー。
「支部長」
受付嬢が、親父に声を掛けた。
「ずいぶん剣呑な空気だったみたいだが、って、お、アイリス殿。珍しいですな」
親父が、アイリスさんを見て挨拶をしてきた。
「あ、ギルドマスター、お久しぶりです。お元気そうで」
「なるほど、今日はどうされましたか?」
「今日はこちらのシンジ殿の付き添いとして来ました」
親父がシンジをジロリと見た。そして、ピクリと眉を動かす。
「強いですな。だが、わからん。アイリス殿、こちらの方とはどのようなご関係ですか? 貴族とは思えませんが」
「シンジ殿ですか? 私の命の恩人です」
「ほお。こちらに来られた用事は?」
「シンジ殿が、ギルドを見てみたいと言われましたので」
再び親父がシンジをジロリと見た。
「冒険者では、ない? この御仁が?」
「そうです。俺はただの一般人です」
シンジがドヤ顔で説明する。
「ぱんぴー? ……まあいいか。奥で話しましょう」
そう言って、親父は踵を返すと、着いて来いと言わんばかりにこちらをチラリとみて、歩き出した。
「ジュリア。茶を頼む」
「分かりました。支部長」
ジュリアがきれいな一礼を返すのと同時に、シンジたちはカウンターの横を通り、親父を追ってギルドの奥に入った。
◇
奥まった場所にあるドアを開けると、そこは広い執務室だった。重厚な執務机には書類が置かれ、脇には座り心地の良さそうなソファが備え付けられている。
「おう、まあ座れや」
突然、親父がニヤリと笑って態度を崩してきた。
「こんなところへ連れ込んで、あたし達をどうするつもりですかっ!?」
シンジは、胸を掻き抱く小芝居を始める。
「何を言っとるんだお前は」
ゴツい親父が呆れた顔でツッコミを入れた。
「ほんのジョークです。HAHAHA」
シンジがアメリカ人スマイルをかましてからソファに座ると、アイリスも隣にちょこんと座った。
そこへ先ほどの受付嬢が、ティーカップを人数分持って現れた。
「お、ジュリア、置いたら仕事に戻ってくれ」
ジュリアと呼ばれた受付嬢は、きれいな一礼を残し部屋を出た。
出された紅茶を飲んで、皆が一息ついた。
「さてと、だ」
親父がカップを置き、しげしげとアイリスを見つめた。
「アイリスの嬢ちゃん、いきなりずいぶん強くなったなあ。数日前とは別人だぞ」
「え? 分かります?」
「ったりめーじゃねーか。兄貴にも言われなかったか?」
アイリスがこくこくと肯いた。
「まあ、そうだろうな。アンリならすぐ分かるだろう」
親父は、先ほどの言葉遣いとは違い、親しい者同士の会話を始めた。
「アイリスさん、ずいぶん親しいみたいだね?」
「ああ、そうですね。私も兄上も冒険者ギルドには登録していますので、支部長にはお世話になっていますよ」
アイリスが答える。
「そうだな、こいつらの親父からの付き合いだからな」
「支部長は、しばらく父とパーティを組んでいたこともあるんですよ。だから、私たち兄弟から見たら、叔父みたいな人です」
「ほむ、そうなんだ。じゃあ、さっきの言葉遣いは、対外的ポーズ?」
「まあな。相手は親しくても男爵家の人間だしな。俺は平民だし、お互いの立場もあるしな。誰が見ているか分からんからな」
「そんなこと言って、おじさまは準男爵の椅子を蹴って、ギルドの支部長になったのですから、そこは気にしなくても良いはずなんですが」
そこでアイリスの言葉に、シンジはふと疑問を持った。
「ん? 貴族はギルドの役職持てないって事?」
「ああ、ギルドは建前上、国家とは別の組織になっているからな。お互いの公平性を担保するのに、国の貴族がギルドの役職を持てないようになっている」
普通に考えれば、中世社会で国家を跨ぐ組織など、国から見れば許容されるものではない。地球歴史を見れば、教会がどれほど為政者の手を焼かせたかは、洋の東西を問わず明白だ。普通に考えれば、設立しようとしても潰されるのがオチだ。
「うーん、不思議だよね。何で国際的ギルドという組織形態を、国が許しているんだろう?」
これは、シンジも良くあるファンタジー物を読んでいて疑問に思っていた。まあ、その辺ズブズブだからこそ面白い、というのもあるだろうが。
「あー、それはだな。創造神様が神託で『冒険者ギルドはかくあれかし』と告げられて、だな。どうも、国家の暴走を抑える監視役や、人間の争いに冒険者が使われるのを阻止するのが目的ではないか、と言われている。国も、創造神様のお告げでは逆らえんかったらしいからな。おかげで、問題なく国際冒険者ギルドが設立されたのだ」
「それは誰が言っているの?」
あの幼女が、そんな殊勝なことを考えたとは思えない。
「神学者たちだな。創造神様は、教皇様たち目通りが許された聖職者にも、その目的については語られなかったそうだ。ただひとつだけ、冒険者ギルドは法を犯さぬ限り自由と独立を尊ぶべし、とだけ告げられたそうだ」
要するに、幼女はこの世界でもテンプレの冒険者ギルドの形を作りたかった、という事だろう。シンジはそう解釈した。
「やっぱり幼女のやらかしか……」
あの幼女、やはり〆ねばならん。シンジは心に誓った。
「幼女?」
「いえ何でもないよー」
アイリスの疑問を、シンジは右から受け流す。
「もちろん、国の危機の時に冒険者が自主的に手を貸すときはある。それについては、創造神様も『専守防衛であれば、故郷を守る意志は尊ぶべし』と告げられている」
要するに、攻められたときは国に手を貸しても良いよ、という事である。それならば、敢えて創造神の意思に逆らって、国が取り込もうとはしないだろう。
「過去にやらかした国はあるの?」
「もちろんある。が、その場合は冒険者ギルドがその国から撤退し、魔物の被害が増した貴族からの突き上げで、王族が滅びた」
ファンタジー歴史テンプレを見事にこなした、という事だろう。
シンジは、テンプレに懸ける幼女の執念を見た思いがした。
その後も少し話をして、時間が迫ってきたので、親父に明日登録に来ることを告げ、アイリスとともにギルドを出たのだった。
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