36.テンプレ的に、冒険者ギルドで実況中継する俺。
シンジ君、冒険者ギルドの洗礼を、の巻。
まあ、素直にコイツが受ける訳ないので。(ヲイ)
シンジがふと振り返って後ろのアイリスに話しかけた。
「あ、そだそだ。アイリスさんストップ」
「え? すと?」
アイリスが、呼び止められて止まる。シンジは、そのままUターンしてアイリスを押して表に出た。
「どうしたんですか?」
「うーんと、アイリスさんはちょっと表で待っててくれる?」
「え? どうしてですか?」
アイリスが不思議そうな顔で聞き返してきた。
「だって、アイリスさんの格好、騎士丸出しじゃん」
当然勤務中だったアイリスは、騎士の鎧を着ている。
「冒険者ギルドに騎士が出入りするのって、手入れみたいでまずくない?」
「……まあ、あまり良い印象はないでしょうけど」
兵士なら街を巡回しているので、冒険者たちも慣れているだろうが、騎士と言えば貴族になる。ならず者も多い印象のある冒険者ギルドでは、何があったかと勘繰られても仕方ないだろう。
「しかし、私は兄上から、シンジさんの安全を守るために同行しているのです。そばを離れるわけには」
真面目か。シンジはそう思うが、宮仕えである以上仕方がない部分なのだろう。
「安全と言っても、ギルドで襲い掛かられることはないだろうし」
「それはそうですが、インネンくらいは付けられるかもしれませんよ?」
それはそうだ。だって、冒険者登録のあるあるだし。
「まあ、でも声を掛けられてから動くでしょ? そうしたら、そのタイミングで来られれば間に合うし、あ、そうだ。良いものがあった」
そう言ってシンジが腰のウエストポーチから、ワイヤレスイヤホンのようなものを取り出した。
「これ貸してあげるから、問題ないよ」
「これなんですか? 耳栓?」
「耳にはめてね。で、俺の方はこれ」
シンジは、今度はヘッドセットのようなものを取り出し、耳に掛けて装着する。
「あー、あー、聞こえる?」
「え?! 耳から直接声がッ!!?」
「これ、そういう魔道具だから」
これも、シンジがチュートリアル中に開発した通信機だ。残念ながら、魔石の共振現象を利用した簡易的なものなので、対一型の一方通行しか出来ないが。
「これで中の様子は伝えるから、呼んだら中に入ってきて良いよ」
「は、はあ。というか、これ軍事の常識変わるのでは……?」
「うん。アイリスさん正解。だから、まだ秘密にしておいてね。もちろんアンリさんにも」
まあ、アイリスの立場だとアンリさんには言わなければならないかもしれないが、言ったところで現物を渡さない限りは意味が無い。噂が広まらなければいいのだ。
「じゃあ、行ってくるねー♪」
シンジは、再びスイングドアを潜った。
◇
「はい、こちら現場のシンジです。ご覧ください、この年季の入った建物。スイングドアですよー。テンプレ的に、とてもいい感じですねー」
突然、シンジが現場中継を始めた。もちろん、相手はアイリスだ。
「はい、中は広いですねー。ご覧ください、カウンターには、見目麗しいおねえさん方が座っています。受付でしょうか」
横を振り返る。
「左手には、酒場でしょうかねー。昼間っから飲んでいる人もいますねー。お金は大丈夫なんでしょうか?」
「あのー、どうかされましたか? ギルドに何かご用件でしょうか?」
カウンターから、一番落ち着いている女性が声を掛けてきた。髪は茶色く波打つ背中までのロングで、目はちょっと垂れ気味。優しそうな感じで、口元のほくろが艶っぽい女性だ。シンジが見た感じでは、年のころは27、8歳といったところだろうか。ただ西洋風の顔なので、実際にはもっと若いのかもしれない。
「あ、登録の説明を受けに来ました」
「そうですか、では、こちらのカウンターまでどうぞ」
女性は俺を連れてカウンターに戻ろうとする。
「そんなヒョロヒョロのガキが、冒険者になろうたぁ10年早ええっ!」
酔いのわかる赤ら顔で、筋肉ゴリラの親父がフラフラとしながらこちらにやってくる。
「はいこちら現場のシンジでーす。今私は、ガタイのいいのに絡まれようとしていまーす」
そこで、ヘッドセットを耳から外し、マイク部分を女性に突き出す。
「おねえさーん、冒険者は、一般人に絡んでも良いんですかー?」
女性はちょっと後ろに引きつつも、きっぱり答える。
「いえ、冒険者が一般人に手を出せば、絡んだだけで犯罪者になります」
「だそーですけどー?」
舌打ちして、筋肉ダルマは酒場に戻っていった。
「じゃ、おねえさん、登録についての説明をお願い」
女性はクスリと笑って、再びカウンターに戻った。
「あ、大丈夫そうだから、アイリスさんも来てねー」
その声を聴いてすぐ動いたのか、スイングドアが開いて、騎士姿のアイリスが入ってきた。それを見たのか、一瞬ギルド内の動きが止まり、静まり返る。
ただ一人、シンジの前にいる受付の女性のみが反応した。
「これはランチェスト様、本日はどのようなご用件で?」
「うむ、このシンジ殿の付き添いだ。……ところで、先ほどシンジ殿に絡んでいた者がいたようだが……?」
アイリスがジロリと辺りを見回すと、ガタイのいい冒険者たちが一斉に首をすくめた。
「まあまあ、特に何もなかったからいいじゃん。ね、おねーさん」
「あ、ええ、まあ」
シンジが目くばせすると、受付嬢が理解したのか、同意をする。
「……まあ、シンジ殿がそう言うのであれば」
矛を収めるアイリス。とたんに、ギルド内の空気が弛緩した。
「いったい何の騒ぎだ?」
そこへ受付の奥から、禿げ頭でひげを生やしたゴツい親父がのっそりと出てきた。
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