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狼のエピタフ  作者: 高橋 久緒
第三章 激闘
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2. 世界会議

 暗黒竜がスリゼイ王国を滅ぼし、その後、ルミナリシス聖国に向かって北上していた途上で眠りに落ち、30年経過するうちに、暗黒竜討伐は政治問題化していた。

 そもそも『暗黒竜』という名称も個体名ではない。『暗黒大陸から来た古代竜』という意味で付けられた仮称であり、正式な個体名がつけられる前に『暗黒竜』で呼称が定着してしまっただけだ。

 名称の意味合いから行けば、暗黒大陸にいる古代竜は全て暗黒竜になるわけで、その意味で言えば暗黒竜は暗黒大陸に数十から数百匹いると予想されている。

 政治問題化しているため、実際に討伐、いや、視察に行くだけですら、各国と調整する必要があった。

 本来なら、各国巡りをして、調整及び協力依頼をして回らなければならないところであったが、三年に一度開かれる『世界会議』が、今年開催されるため、その場で一気に済ませてしまおうということになり、ヴォルクは急遽、この会議にゲストとして呼ばれることになった。

 議長は伝統的に冒険者ギルドが務めているため、会議に捩じ込むのも容易であった。


 世界会議は三年に一度開催される。『世界』といっても全地球を包括したものではない。互いに存在が確認されている、ある程度の文明と規模を持っている、人類種の国しかカウントされておらず、周辺の弱小国や意思疎通が測れない魔獣種部族などは除外されている。

 そもそもが、自らが存在するこの大陸すら全貌をハッキリ把握しておらず、地球が球体で宇宙に存在しているという認識すらあやふやだ。

 従って、この会議の参加国は、スリゼイ王国が滅亡した現在、クジュ王国、ルミナリシス聖国、ダンメルフィエスタ共和国、ニスコ・カベイゾルム連合国の主要四ヶ国に加えて、冒険者ギルドの計五ヶ国だ。

 また、この世界では通信網が発達してない為、各国とも頻繁なやり取りはできず、セレモニー的な要素はあまり無く、極めて実務的な議論が活発に交わされる。

 今年の世界会議開催国はルミナリシス聖国だ。会議場は勇者宮殿の大会議場で行われている。


「ご静粛に」

議長を務めるメルキオールがおもむろに発言した。

「閣下、ならびに各国の高潔なる代表団の皆様、本会議開催前にあたり、2点ほど通知事項がございます」

一同が静まるのを見計らって、メルキオールが続ける。

「まず、1点目が、ダンメルフィエスタ共和国大統領閣下が、政情不安のため、今回の会議への参加は見合わせられました。代表団の皆様は参加されておられますので、滞りなく会議は進行していくものと確信しております」

「おお‥」

 一同から嘆息ともとれる声が漏れた。

 このことは、勿論、事前通達で各国とも既知の情報ではあったが、やはりかといった感じだ。

 『政情不安』などというのは、表向きの理由であり、各国とも真の理由を知っている。防衛大臣暗殺事件の真相は、勇者暗殺を企んだ防衛大臣が、冒険者ギルドの暗殺部隊によって粛清されたのだ。

 勇者暗殺の実行段階に入る前のことであったため、真相は明らかにされず、ダンメルフィエスタ共和国も国家としての関与は決して認めなかった。そのため、冒険者ギルドも表立ったペナルティを課さなかったが、世界会議への代表者、すなわち大統領の参加を認めなかった。

 そのため、ダンメルフィエスタ共和国は、この重要な会議での貴重な一票の議決権を失うこととなった。これはかなり大きな、実質的なペナルティであり、冒険者ギルドは相当怒っていることを意味している。

 大統領が交代するまでは、世界会議への参加は認められないとの暗黙理の合意があるため、これは実質、冒険者ギルドによる大統領の更迭だ。


「政情不安ですか‥」

ニスコ・カベイゾルム連合国大統領が続けて言う。

「それでしたら、もう一ヶ国、『政情不安』で参加を見合わせた方が良かった国があったのではないか」

 もちろん、クジュ王国に対する嫌味だ。クジュウ八世国王は真っ直ぐ前を向いたまま何も言わなかった。

 クジュ王国王太子殿下の病死は、実際は暗殺であったが、ギルドの部隊を使わず、クジュ王国内で処理されたため、ギルドからのペナルティは軽く済んだ。しかし、ギルドとの関係は完全に冷え込んだ。


「はて、何のことやら」

メルキオールがクジュウ八世国王に代わって答える。

 連合国大統領が、ギルド長・メルキオールに対して強気に出られるのは、参加四ヶ国の中でも最弱で、冒険者ギルドに対して依存度が低いせいである。

「相変わらず、どこかの国に対しては甘いことですな」

「これは通知事項伝達ですので、議論は致しません。次に第二点目、暗黒竜討伐の目処が立ったため、担当のA級冒険者を紹介しておきます。30年来の悲願であった暗黒竜討伐のため、各国とも、便宜を図って頂けるようお願いします。パーティ名、『ヴォルク&リリー』のヴォルク君とリリー君です。ご挨拶を」

 本会議場の後方に控えていた俺たちは椅子から立ち上がり、メルキオールの横に並んだ。

「俺たちが『ヴォルク&リリー』のヴォルクと、こっちが‥」

「俺がタイガーリリーだ!」

紹介する前にリリーが暴走しだした。

「テメェら!耳かっぽじって良く聞きやがれ!俺はなぁ、偉大なる御主人様、ヴォルクの奴隷だ!御主人様に逆らう奴ぁ容赦しねえ!」

事前にタイガー人格に『御主人様』とか『奴隷』とかはもうやめろと命令したのに、こいつ、言うこと聞きゃしねえ。

「俺は暗黒竜なんかどーだっていいんだけどよぉ、ヴォルクのバカが暗黒竜狩りするってーから、手伝うけどよ、クソトカゲ殺す前に、御主人様に手ぇ出した奴、先にぶっ殺してやるから‥」

はい、退場。

「!おい!ヴォルク、何しやがんだ!離せ」

俺はジタバタ暴れるリリーを肩に担いで、最初に座っていた会場後方の椅子に座らせた。

「離せって、ヴォルク!あいつらん中に俺たち殺そうとした奴がいんだろ?脅しとかねえと!」

リリーから離れ際にそっと耳に小声で言う。

「グッジョブだ、ピー」


 A級会議の時もそうだったが、タイガー人格のリリーちゃんはホントいい仕事する。


 俺は気を取り直した振りをして、ギルド長の横に戻ると言う。

「失礼しました。相方がちょっと興奮しまして、気にしないで下さい。さて、まず最初に言っておかなければなりませんが、俺は『勇者』ではありません。クソトカゲ、失礼、暗黒竜を狩る理由は金と名誉のためです。従って、この世界を救うだとか、平和のためだとか、そんなくだらないことのためにやるんじゃないってこと、覚えておいてください」

まずは勇者じゃない宣言だ。

「金を寄越せ、暗黒竜を狩ったらな。まあ、金はギルドから貰うけどよ。次にS級の称号だ。世界最強の証だ。最後は俺たちの安全を保証しろ。後は何もいらん。スリゼイ王国跡地で建国とか、大陸統一とか、バカくせぇ。そんな面倒臭いことはしねえから、あんたらで好きにしてくれ」

こう言っておけば、『勇者』じゃなくてただのバカかと思ってくれるだろ、多分。

 一応、念押ししとく。

「言っておくが、俺たちに手出しはするな。俺たちは、現状で暗黒竜を狩る能力がある。ってことは、実質、既にS級の戦闘力があるってことだ。わかるな?お前たちの国軍より強いってことだ。俺たちを暗殺しようとかしやがったら、容赦はしねえ。国ごと皆殺しにする。特に、俺の相方、タイガーリリーに手ぇ出したら、この世界まるごと、大陸ごと破壊してやるから、覚えておいてくれ。以上だ」

 核兵器の知識はあるからな、やってやれんことはない、多分。やらんけど。

 他国が手を出しても、自分にも被害が及ぶと分かれば、お互いに牽制しあってくれるだろうと少し期待する。

 会場中がシーンとする中、俺はリリーの隣に戻った。椅子に座る前にリリーが泣きながら抱きついてきた。そういえば、こいつも泣き虫だったこと忘れてたわ。

 俺に抱きついたまま、リリーが肩越しに言う。

「おい!てめぇら!!訂正だ!もし御主人様に手ェ出したら俺も大陸ごと沈めてやっからな!覚えとけよ」

 俺はリリーの背中を優しく宥めるように叩いてから言う。

「ピー、もういい。終わった。さあ、行こう」


 俺たちは会議場を後にした。


 会議場を出るとすぐにギルドのSPが4人、俺たちの四方を固めた。

 俺たちはそのまま控え室にも寄らず勇者宮殿の外に出た。勇者宮殿とは、初代勇者を記念して建てられた宮殿で、今回のように各国VIPを招いた会議や晩餐会の会場に使われたりしているようだ。

 メインの玄関前には華麗な噴水池があり、初代勇者の像もある。多分、転生者なのだろうが、名前は知らない。興味もない。アングロサクソン系の顔立だから、日本人ではないだろう。どうでもいい。

 SPを引き連れたまま、繁華街に向かって歩き出す。まだ夕方前だが、軽く一杯やってからホテルに戻ることにする。

 リリーは俺の左腕に抱きつくように絡みついてくる。リリーちゃん、腕が乳に挟まれて超気持ちいいんですけど?

 タイガー人格の時はこれを意図的ではなく、極自然に、普通にやるから、ホント良い子だ。思わず、頭を撫でながらそれを指摘すると、リリーは言う。

「は?この乳はヴォルクのものだろが。自分の乳で興奮してんのか?変な奴だな、お前」

「ふむ、確かにこれは俺のものだ。お前、勝手に揉んだりするなよ。特に人前では。また、主人格のピーが泣いちゃうから」

「ああ、あの乳触り事件の時かあ、悪かったよ。またリリーに謹慎喰らうとこだったぜ」

 あの乳触り事件の夜、ピー人格のリリーが泣きながら謝ってきた。ヴォルクのオッパイなのに、勝手に人に触らせようとしてごめんなさいって。ちょっと論点がズレてるような気がしないでもないが、可愛いかったのでOK。

「だが、さっきの会議じゃ、いい仕事したぞピー。流石だな。天才か」

「へ?俺、何かした?」

 あの、バカで短気な振りして脅しを入れる演技は、あの後の俺の仕事がとてもやりやすかった、と思ったが、やっぱり演技じゃなくて素でしたか。そう言えば、A級会議の時も、ただ素で激怒してただけだったね。使えるいい子。

「そうか!俺はいい仕事したのか。じゃあご褒美に今夜は俺を使ってくれよな。俺だってたまにはヴォルクとエッチしてえよ」

「そういえば夜はピーやリリーが多いな。じゃあ、今夜はお前な」

「やったー!俺、頑張るからよ!」

「俺とのエッチはたーのしいぞー」

そう言うとリリーは鼻息が荒くなってきた。

「おい!ヴォルク、酒とか飯とかどーでもいい!すぐホテルに戻るぞ!来い!」


 俺は酒も飲んでないのに大トラになったリリーにホテルに強制連行された。

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