プロローグ
埼玉県上谷沼運動広場。
早朝06:10。暗かった風景が、昇り始めた太陽によって一気に明るくなっていく。
差し込む太陽の光の中、ラベンダー色のキャップを被り、黒い軽装に身を包んだ整った顔立ちの女性が走っている。少し息は上がっているが、かなりのペースで東雲美咲は走っていた。彼女は公園内に決めておいたターニングポイントを通過しながら、やや吊り上がった目で右腕にあるシンプルな腕時計を見る。
(少しペースが早いか……)
足の速度を抑え、呼吸を整えながら走っていく。キャップの後ろから出ている短いポニーテールの揺れも小さくなる。
呼吸に余裕ができた東雲は、本日の業務内容を思い出す。3月から大型連休までは何かしら地域課が借り出されることが多く、業務も溜まりがちだ。今日は久々の交通課からの支援要請への対応。業務自体は警察学校時代からの同期、早乙女七海とペアだから問題はないと考えているが、ちゃんと役割を果たせているかは常に心配になる東雲であった。
雑念が生じたと感じたのか、東雲はペースを上げて上谷沼運動広場を抜けていった。
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佐藤拓海は浦和駅から少し離れたレンタカー店で、黒い眼鏡を掛け直しながら困った顔をしていた。大学院時代の留学先で仲が良かったショーン・ブライアンが来日したので、彼と草津温泉へ行くために自宅最寄り駅で待ち合わせをしたところまではよかった。
店員に国際運転免許証を出してからが問題だった。ショーンはこのごく普通の日本のレンタカー店でスポーツカータイプを求めている。希望する車種は当然なく、一般乗用車を借りるようショーンを説得しなくてはいけなかった。
「ショーン、そんなに悲しむな。我々は温泉地に行くだけだ。何せアウトバーンを走るわけではない」
「タック、わかるだろう? 私は日本のスポーツカーをすごく楽しみにしていたんだ……」
「わかるけど、店員さんも困るだろう。この辺は一般車しかないんだ」
拓海の言葉にショーンは店員を見渡してから、残念そうな顔をしながら手でOKサインを出す。店員は早速手続きを始めながら、拓海に改めて礼を伝える。拓海は人当たりのいい笑顔を見せてから、自分とショーンのボストンバッグを持ち、案内された車へ向かった。




