ー神有の章67- 天照(あまてらす)と道雪(どうせつ)
そんなこんなで、万福丸と天照ご一行は立花山城の門前にまでやってくる。俺は門番に天照さまが直接、九州にやってきたことを告げると、門番はひえええ!ありがたや、ありがたやとを両ひざを地面につけて、合掌状態で天照さま拝み始めるのである。
「うむっ。よきにはからえなのじゃ。もっと、わらわを拝むと良いのじゃ。きっと、おぬしたちに良いご縁がめぐってくるのじゃ!」
「ありがたやだべー。これで、おいらにも春がやってくるだべー。めんこい嫁さんができるだべー」
「ほんまありがたい話だべさー。おいどん、嫁さんがなかなかできずに困っていたところなんだべさー」
「なあ、天照さま。いつから、良縁成就のご利益を発せられるようになったわけ?」
「何を言っておるのじゃ。家内安全、病気快癒、試験合格、交通安全などなど、わらわはご利益たっぷりなのじゃ。まあ、商売繁盛は扱っておらぬゆえ、そこは第六天魔王に頼ってほしいところなのじゃ」
「えっ!?信長のおっさんって、商売繁盛のご利益を発せられるの!?どうみても、商売敵が潰れそうな悪だくみを考えそうな顔をしてんだけど!?」
「何か勘違いしているのではないかじゃ?第六天魔王の【理】は【欲望】なのじゃぞ。金が欲しいと想っているニンゲンはやまほどいるのじゃ。それに、あやつは楽市楽座、関所撤廃などのまさに商売繁盛につながる政策を推し進めているのじゃ。あやつほど、そのご利益を発せられる大神はいないと言えるのじゃ」
「へー。言われてみればその通りだなあ。信長のおっさんの領地内は物価が安定してて、関所で関賎を取られる心配もないし、さらには自由に商売をしていいもんなあ。俺、あのひとを誤解してたなあ」
「まあ、見た目、悪だくみしか考えてないツラをしているのは確かなのじゃ。しかし、あやつほど、このひのもとの民を幸せにしようと、額に汗を流しているモノもいないのじゃ。だから、あやつはわらわの男にふさわしいのじゃ」
最期のそれはどうなんだろうと想う万福丸である。
「んーと、天照さまが信長のおっさんに惚れこむのは勝手だけど、なんだか、天照さまの周りがそれを許してくれない気がするぞ?」
「まあ、そうじゃな。もし、わらわと第六天魔王との間に子が産まれでもしようものなら、朝廷がひっくり返るほどの大騒ぎとなってしまうのじゃ。しかし、女が好いた男の子を欲しがるのは仕方のない話なのじゃ」
「色々とその辺、難しいって聞くもんなあ。帝の後継者とかその辺の問題って。血筋の問題ってやつだっけ?」
「まあ、帝は連綿と由緒正しき大神の血筋の系譜なのじゃ。もし、わらわが第六天魔王と子を為せば、わらわとて、御所を追い出されるかも知れぬのじゃな」
天照さまも大変だなあと想う万福丸である。好き同士なのかはわからないが、少なくとも天照さまは信長のおっさんに好意を持っているのに、それが伝統と言うもので縛られるって言うのもなあと。
「まあ、天照さまはどうしてもって言うなら、駆け落ちでもすれば良いんじゃないのか?帝って、天照さまが受肉する前に、子供をすでに残しているんだろ?その子供があとを継ぐんじゃねえの?」
「それでも、まだ幼いゆえ、丸投げと言うわけにはいかないところじゃな。さて、そろそろ、そこの門番のモノたちよ。門を開けてほしいのじゃ」
へへええええ!と門番たちはうやうやしく頭を下げると、立ち上がり、城門を開けに行くのである。数分後、ゴゴゴゴゴゴと城門が音を立てて開く。万福丸と天照ご一行は、立花山城に通らされることになる。
天照ご一行到来で驚いたのは、この城の主である立花道雪であった。
「な、な、なんで天照さま直々に、こんな汚い城に来たの鳴り!?何も聞かされてない鳴りよ!?」
突然の天照の来訪に立花道雪は慌てふためきながら、天照に応対することになる。
「それはじゃな。突然、やってきたほうがインパクトが強いからじゃ。頭が高いのじゃ。はよう、わらわに礼をするのじゃ」
「ははあ!これは失礼をしたの鳴り。こんなあばら家で申し訳ない鳴りがゆっくり逗留をしていってほしいの鳴り!」
「では、湯あみをさせてもらうのじゃ。旅の埃を洗い流したいのじゃ。まったく、こう暑くては汗で身体が濡れ濡れなのじゃ」
天照はそう言うなり、御小直衣を脱ぎだそうとする。それに慌てたのは彼女のお供たちである。
「いけないのでおじゃる!いくら屋敷の中と言えども、御所の中のように振る舞われては、帝としての権威に傷がつくのでおじゃる!」
「そうなのでごじゃる!天照さまの裸を下賤なモノに視せてはいけないのでおじゃる!その輝きで眼が潰れてしまうのでごじゃる!」
「あ、あの?天照さま?御所では裸属をやってるのか?」
「そりゃそうじゃ。なんで、自分の家の中でわざわざ窮屈な恰好をしなければならないのじゃ。そんなの当たり前なのじゃ」
当たり前ってなんだろうなあああ?と想う万福丸である。
「ん?今、何を想像したのじゃ?言ってみるのがいいのじゃ」
天照がいたずら娘みたいな笑みを浮かべて、万福丸にそう問いかけてくる。
「い、いや!?決して、貴族の連中がうらやまけしからん!なんて想ってないぜ!?いやあ、ここはあっついなあ。服を脱ぎたくなるよなあああ!?」
万福丸がきょどる姿を視て、天照は、くっくっくと笑う。
「冗談なのじゃ。御所の中では動きやすい恰好をしているだけじゃ。何故、わらわが無料で裸を視せなければならないのじゃ。拝謁料をいただくに決まっているのじゃ」
なんだ、冗談かと想う万福丸である。それと同時にちょっと残念だなとも想っていたりするのである。
「まあ、裸属と言うても、風呂上りの時くらいなのじゃ。身体の火照りを冷ますには、裸属が1番なのじゃ」
「まあ、その気持ちはわからないでもないけど、貴族の連中も大変だろうなあ。いや、ご褒美なのか?うーーーん?」
「ここは余所さまの家なのでおじゃる!いくら、風呂上りと言えども、許されないのでおじゃる!」
「そうなのでおじゃる!速攻、服を着させるので覚悟するのでおじゃる!」
ああ。こういう時のためにこの貴族たちはついてきたんだなあと納得する万福丸である。
「風呂の用意が整った鳴り。天照さま、ゆっくりと旅の疲れを取ってほしい鳴り」
「おお、ありがたい話なのじゃ。ところで、おぬし、視たところ、建御雷と合一を果たしているのじゃな?」
「そう鳴り。我輩の名は立花道雪鳴り。縁があり、建御雷さまと合一を果たさせてもらったモノ鳴り。天照さま、なんなりと命じてほしい鳴り。この屋敷で逗留している間、道雪が責任を持って、身の周りの世話をするの鳴り」
「ふむっ。頼んだなのじゃ。まあ、そんなに畏まって対応せずとも良いのじゃ。わらわとおぬしの仲なのじゃ。悪いようにはせぬゆえ、そんなにびくつく必要はないのじゃ」