ー神有の章24- 博多の地の宝
万福丸とよっしーが盃に酒を注いでは飲み干していく。空のとっくりは時間が経つほどにどんどん増えていく。吉祥は2人のペースに巻き込まれないよう注意しながら、くぴくぴと舐めるように酒をすするのであった。
「ふう。僕としては結構、飲んだほうだわ。やっぱり、ご飯とおかずとお酒と交互に味わうのは、大切よね」
吉祥は3回目のハンバーグのおかわりに手をつけていた。やはり、この今まで味わったことのない食感は、食べているだけで幸せな気分になってしまう。
「なあ、よっしー。龍造寺家の奴らを一発、ぶん殴るって決めたけど、大友家の方はどうするんだ?ひっく」
「ふむっ。大友家は龍造寺家と戦をしている真っ最中でごわす。道雪とは連絡を取り合っているでごわすが、なかなかに旗色が悪いと言っているのでごわす。それで、島津家に助けを求めているのでごわす。ひっく」
あっ、さすがにうわばみっぽく見えたけど、酔い始めたのね?うーん。しっかし、よっしーさん、万福丸の3,4倍、お酒を飲んでいるけど、まだまだいけそうな口に見えるわね?って、問題はそこじゃないでしょ!と、自分にツッコミを入れる吉祥である。
「でも、龍造寺家の奴ら、何が理由で大友家と闘ってんだ?まあ、【色】の違いで争うのは大神同士の闘いでは立派な理由になるけどさあ?でも、戦なんだろ?領土的野心とかなのか?ひっく」
万福丸が疑問をよっしーにぶつけるのである。よっしーは、ううむと唸り
「まあ、太陽が【朔】によって奪われる前までは、おいどんら3勢力は九州での覇権を争い、各地の豪族を手なずけたりして、支配地を増やしていったのでごわす。その一環とも想えるでごわすが、そうではないような気がするのでごわす」
「えっ?よっしーさん。それってどういうことなのかしら?何か領土的野心とは別の何かを持って、龍造寺家は戦を大友家にしかけているってことなの?ひっく」
あら、いやだわ。僕も酔いが回って来てるみたい。うーん、ちょっと、お酒を控えて、話に集中しないといけないわ。ひっく。
「それがでごわす。龍造寺家は執拗に隈本、それも博多の地を欲しがっているようなのでごわす。知っているかと想うでごわすが、博多は南蛮人たちとも交流深き商業都市でごわす。しかしでごわす。港町と言えば、龍造寺家の支配地である平戸も立派な外つ国と交流深き商業港なのでごわす。だから、わざわざ狙う必要性は低いはずなのでごわす」
博多、平戸。どちらも、ひのもとの国における、外つ国との玄関口として、はるか神代からの湊町である。よっしーの言う通り、平戸を持ちながら、博多の地を手に入れる価値はそれほど高くないはずなのである。だが、龍造寺家はそこを執拗に狙っているわけだ。
「何か裏があると言いたいわけね、よっしーさんは。商業都市を手に入れる以上の何かを龍造寺家は狙っていると。うーーーん。博多の地の東は毛利家よね?博多の地をさらに飛び越えて、中国地方の毛利家すら狙っているのかしら?いや、そんなわけないわよね。それじゃあ、九州に敵対勢力が居るって言うのに、いたずらに敵を増やすだけだわ?」
吉祥は色々と推測してみるが、いまいちピンとくる理由が見つからないのであった。
「道雪も、なぜ、あそこまで執拗に狙ってくるのかわからないと言っていたのでごわす。大友家の財力を削るつもりなのかも知れぬでごわすが、そもそもとして、大友家の本拠地は豊後なのでごわす。豊後は瀬戸内に通じていて、中国地方、四国地方とも交流が盛んなので、博多を取ったところで、決定的な痛手を与えることにはならないのにとこぼしていたのでごわす」
「じゃあ、龍造寺家は商業都市として、博多の地が欲しいんじゃなくて、あの土地に何か、龍造寺家が欲しがってるモノがあるから狙ってんじゃないのか?それこそ、お宝が眠っているとかさあ?ヒック」
万福丸がそう言いだす。
「お宝あああ?お宝欲しさにわざわざ、戦を起こすって言うの?それこそ、戦なんかせずに、こっそり潜入調査でもなんでもして、かすめ盗っていったほうがお金も人命もいたずらに消費しなくて済むはずよ?」
と、そこまで言って、吉祥は気付くことがある。
「えっ?ちょっと待って。僕、変な事、言ってるわ。そんなかすめ盗れば済むようなお宝じゃないってことだよね?それこそ、邪魔が入らないように、博多の地を占拠してじっくり手に入れなければいけないくらいの何かが、あの地にあるってことになるわよね?ねえ、よっしーさん。博多の地には、戦が起きるほどの何か、すっごいお宝が眠ってたりしないのかしら?」
「うーーーむ?そんなもの、あったでごわすかなあ?あったら、あったで、とっくの昔に大友家が手に入れて保管して、それを豊後の府内館に大切に保管しているはずでごわす。そうなれば、龍造寺家はそのお宝を手に入れるために博多ではなく、豊後を目標とするはずでごわす」
うーーーん。そうよねえ?よっしーさんの言う通り、大友家が先に手に入れているはずよねえ?と想う吉祥である。
「よっしーさん。念のため、道雪さんに確認してもらっておいてくれるかしら?もしかしたら、何か思いつくかも知れないわ?」
「ふむっ。そうでごわすか。では、今から連絡を取るから少しまってもらうでごわす。あーあー、もしもし?道雪ちゃん?今、暇しているでごわすか?」
えっ?いきなり、何もない空間に向かって話しかけてるんだけど、よっしーさん。お酒を飲みすぎて、ついに脳みその中の液体まで、お酒に変わっちゃったのかしら?と不謹慎なことを想う吉祥である。
しかし、そう想った矢先に、いきなり、バリバリバリッとのまるで空中で雷が炸裂したかのような部屋に鳴り響くのである。な、なにごとなの?と吉祥はそう想うと、何か、もくもくと部屋に漂う真っ黒い雲のようなものが浮かんでいるのである。
(おお。よっしー。三日ぶりなんだ鳴り。元気にしとったか鳴り?)
その真っ黒い雲から聞きなれない声が聞こえてくるのである。吉祥と万福丸は何が起きているのかさっぱり理解ができない。
「おお、道雪ちゃん。聞きたいことがあるのでごわすが、博多の地で、龍造寺家の奴らが欲しがるようなお宝に心当たりはないでごわす?」
(ええ?なんだって?ちょっと通神が悪くて、すまない鳴り。もう少し、大きな声でお願いする鳴り)
「いや、だから、博多の地で龍造寺家の奴らが欲しがるようなお宝は眠っていないでごわすか?島津家に来ている客人、いや、おいどんの戦友が聞きたがっているのでごわす」
(うーん。いまいち言っていることがわからない鳴り。博多の地にお宝があるかどうか鳴りよね?南蛮渡来品くらいしか思いつかない鳴りよ?気になるようなら、その南蛮渡来品で龍造寺家が欲しがっているようなものがないか調べておく鳴り)
「お手数かけてすまないでごわす。では、何かわかったら教えてほしいでごわす」
(おう。わかった鳴り。じゃあ、ちょっと今から、龍造寺家と一戦やってくるから、またあとで連絡する鳴り。また鳴り、よっしー)
真っ黒い雲からそこまで声が聞こえると、それ以降は、バリバリバリと低い音を立て続けるのみで、だんだんと、その真っ黒い雲は宙にかき消えていくのであった。
「ふむ。どうやら、道雪が調べてくれるようでごわす。少し、時間がかかるかも知れないが、待ってほしいのでごわす」