ー神有の章22- 邇邇芸(ににぎ)の予言
「よっしーさん。それで、邇邇芸さまは何を伝えにわざわざ現世に降りてきたのかしら?もしかして、九州の地、並びにひのもとの国を譲れとでも言ってきたの?」
邇邇芸と言えば、天孫降臨、そして、国譲りだ。だからこそ、それに関連することを伝えにきたのではないかと吉祥は推測したのだった。
「ふむっ。国譲りのことを指して言ったことなのかは、よくわからないのでごわす。だが、邇邇芸さまは予言を伝えにきたと言っていたのでごわす」
「予言?それこそ、邇邇芸さま本神がわざわざ伝えにくるような大げさなことをしなくても良かったんじゃないかしら?」
「邇邇芸さまの本心はよくわからないと言ったところでごわす。だが、この九州の地にて、自分を超えるほどの大神が出現するであろうと伝えにきたのでごわす」
「邇邇芸さまを超えるですって!?だって、邇邇芸さまは天照さまの直系の孫に当たるのよ?天照さまから感じた神気の量から察するに、その邇邇芸さまの神力は、そんじょそこらの大神が束になっても匹敵するかどうかわからないわよ?それを超えるほどって、どういうことなの?」
「邇邇芸さまはその大神が何なのかはわからない。だが、ゆめゆめ油断するなと言っていたのでごわす。だからこそ、皆、力を合わせてほしいと言っていたのでごわす」
「なるほどなあ。だから、今は1柱でも多くの大神の助けが欲しくて、よっしーは俺に戦友になってくれと頼んだわけ?」
万福丸がそう、よっしーに問うのである。だが、よっしーは、はあああと深いため息をつき
「その場は、丸く収まったのでごわす」
「えっ?その場はって、どういうことなの?邇邇芸さまを超えるかもしれない大神が現れるんでしょ?まさか、どういうわけか、わからないけど、その協力体制がご破算になる何かが起きたってことなのかしら?」
吉祥の問いかけに、ひとつコクリと首を縦に振り、よっしーは話を続ける。
「協力体制がご破算になったのは、1年後の神帝歴4年 4月19日のことであったのでごわす。その日は、九州3大勢力の第10回目の会合だったのでごわす」
そこで、一度、よっしーは、ふうううと息を吐く。
「島津家からは、おいどんと、島津の棟梁である島津義久さまが出席したのでごわす。そして、大友家は大友宗麟、立花道雪が出席し、そして、龍造寺家からは、龍造寺隆信と鍋島直茂が出席したのでごわす」
吉祥は並べられる名前を聞いて、鍋島直茂は確か、龍造寺家と大友家との闘いの時に勇名を馳せた将だと言うことは【理の歴史書】を読んでいて知ってはいた。だが、それほど興味がなかったので、斜め読みしてしまったのである。
だって、仕方ないじゃない!この頃の歴史で一番面白いのは、織田信長の上洛なんだから!だから、僕、そっちのほうばっかり、詳しく読み進めていたんだから!
「おーーーい、吉祥。誰に向かって話してんだ?おーーーい?」
「な、なんでもないわよ。ちょっと、ちゃんと九州のこともちゃんと調べておけば良かったと後悔しているだけよ。でも、鍋島直茂は勇名を馳せているってのはなんとなくわかっているのだけれど、立花道雪って将はどんなひとなのかしら?」
「ふむっ。大友宗麟からの話をするのでごわす。彼は無類の女好きであり、酒好きなのでごわす。しかも、その女好きは少々、度を越していたようで、家臣の嫁にまで手を出そうとしていたと言うらしいのでごわす」
「らしい?らしいってどういこと?」
「ああ、会合の合間の休憩時間によく宗麟の右腕の立花道雪から愚痴られたのでごわす。道雪は宗麟が行う、内政、軍事において補佐として活躍していたのだが、宗麟自身の私生活に対しても対処せねばならなくなり、色々、苦労していたようでごわす」
「家臣の嫁さんまでに手を出すのは感心しないな、俺。もし、その大友宗麟ってのが、俺の吉祥に手を出すようなら、ぎったんぎったんのこてんぱんにしてやるけどな!」
「まあ、大名が言い出したら、それに逆らうほど強気に出れる家臣も少ないものね。大友家の将たちには同情するわ。あと、いつ、僕が万福丸のお嫁さんになったのかしら?」
「そりゃあ、俺と吉祥がイチャイチャしたってことは判明したんだから、その日からってことで間違いないんじゃないの?やっぱり、男としては責任とらなきゃならないからな?えへへ」
「それなら、ちゃんと、いつイチャイチャしたか覚えておきなさいよ!」
と吉祥はキレて、万福丸が座っている座布団を無理やり奪い取って、それを万福丸の顔面にぶち当て、さらに両足を揃えて、蹴りを喰らわせる。
「まあまあまあ、それくらいにしてやるでごわす。何回も何晩もイチャイチャしてたら、記憶が薄れてしまうのでごわす。若いとそれこそ、毎晩、イチャイチャしてしまうのでごわす。寝るときは布団は大きめの夫婦用のでいいでごわすか?」
「別々の布団をおねがいしますわ!あと、なるべくなら寝室は別にしてください!」
よっしーがそうなのでごわすか?ふたり、同じ布団がいいのではないでごわすか?と重ねて聞いてくるので、吉祥は無理やり話を元に戻す。
「そんなことより、その第10回目の会合で何が起きたのか、説明をおねがいするわ。一体、その日、何があったの?」
「ふむっ。簡単に言うと、大神が介入したのでごわす」
「また、高千穂が現れたってことかしら?そして、邇邇芸さまが降りてきたの?」
「違うのでごわす。簡単に説明しすぎたのでごわす。その場に少なくとも、5柱が降りてきたのでごわす。そして、契約をかわせと、いきなり言われたのでごわす」
「なんですって?なんで会合の場にそんなにもの数の大神たちが一度に現れるの?そんな話、僕の経験上では少なくとも、聞いたことも見たこともないよ?」
「だよなあ?俺と吉祥が旅をしてきた感じだと、畿内では、信長のおっさんところくらいだよな。以上に大神が集まってるなんて話。まあ、【土着神】を含めるなら、京の都の周辺にはごろごろいたけど」
ああ、そう言えば、失念していたわ。信長さまというか、織田家に仕えてる大神の多さは、はんぱなかったわよね。でも、それとは違うのよ、万福丸。
「万福丸。いい?ちゃんと聞いて?僕の女の勘がささやいてるの。九州の三大勢力の会合には、大神と合一を果たしたモノは、その第10回目の会合まで存在しなかったのよね?よっしーさま」
吉祥は、よっしーが【契約をかわせ】と言っていたその言葉からそう感じたのである。
「ふむっ。つくづく勘が良い、きっちゃんなのでごわす。きっちゃんの言う通り、おいどんたちは、あの日の前まで、普通の人間だったのでごわす。だが、あの会合の日、あの大神たちが現れたことにより、この地、九州は状況が一変したのでごわす」