ー改変の章11- 【分御霊(わけみたま)】
「おうおうおう。神酒がこぼれちまったでもうす。勿体ないでもうすなあ?」
天手力男神はそう言うと、地面に散らばった神酒を口でずずずうううう!と飲み干すのである。
「す、すまないのである。我と合一を果たしたニンゲンが失敬なことを言ったので、つい、キレかけてしまったのである。こいつ、あろうことか、我を【悪】に見えると言ったのである」
「ガハハッ!おい、ニンゲン。それは失礼なのでもうす。波旬は見た目、すっごく悪い奴に見えるでもうすが、【理】においては【善】であり【祝い】なのでもうす」
(うーん。人間、見た目で判断をしていけないと言うのは大神でも同じことだと想えば良いのでしょうか?)
「そう言うことである。ニンゲンの眼に映るモノは限られているのである。大神の神力を使えば、その大神が【祝い】なのか【呪い】なのかは一目瞭然なのである」
「なあ。波旬。そろそろ、そのニンゲンに神気と神力について説明したほうが良いのではないかでもうすよ?」
「うーーーむ。こればっかりは口で説明したところでどうにかなることでは無いのである。これはニンゲンが呼吸をし、食べ物を口に入れ、それを栄養にする。そして、休息のために寝るなどと同じことなのである。それを口で説明したからと言って、できるのか?と言うことである」
(うーーーん?波旬くんの言いたいことがよくわからないのですが?)
「我の言っていることが理解できないのだから、そう言うことなのである。仕方がないのである。神酒を飲み終わったら、意識を返すのである。ちょうど、天手力男神が居るので、付きあってもらうのである」
「んんん?我輩なんかが手伝っていいのでもうすか?余計にそのニンゲンが頭を悩ませることになるのでもうすよ?」
「口で説明できない以上、筋肉でしゃべる貴様のほうが相手としては適任なのである。誇って良いのであるぞ?」
「そんなに褒めるではないでもうす。ほら、まだまだ、神酒は残っているでもうす!さあ、夜が明けるまで飲みまくろうなのでもうす!」
波旬と天手力男神が酒を酌み交わし、気分が良くなった波旬はさらに、つまみも具現化する。そして、酔った天手力男神はういいいひっく!と言いながら【はっけい】を放って、その辺の大岩をぶっ壊しまくるのである。
「ふむっ。いくら第六天が殺風景だからと言って、岩で出来たオブジェを造るのはどうかと想うのである。ヒック」
「ガハハッ!これが中々に力加減が難しいのでもうす。月読さまを彫刻しようと想ったら、顔面をぶっ潰してしまったのでもうす!ヒック」
(このひとたち、本当に先生に教える気があるんですかねえ?ってか、この飲み会は一体、いつになったら終わるんですか?)
「ニンゲンよ、慌てるではないのである。もうそろそろ神酒も尽きるのである。これは貴様にとっても重要なことなのである。ヒック」
「まーた、見えないお友達と会話をしているのでもうす。いい加減、それ、どうにかしないと、波旬の持ちネタだと想われてしまうのでもうす。ヒック」
「それはそれで困るのである。では、こうしようなのである。おい、天手力男神よ。我とそっくりの彫刻を造るのである。ヒック」
「んんん?【分御霊】をするのでもうすか?まあ、ここは第六天だから波旬がそれを行っても影響はほとんどないと想うでもうすが。ヒック」
ううむと唸りながら天手力男神は手ごろな大岩を見つけて、よいしょっと持ち上げて、波旬の目の前にどすうううんと置く。
「うーーーむ。これくらいの力加減でもうすかなあ?我輩は造形を司る大神ではないのでもうすから、出来には期待しないでほしいでもうす」
良いからやるのであるとの波旬の一言のあと、天手力男神は【はっけい】をその大岩に数度、叩きつける。
「ふむ。似てはいないが、そこそこのモノには仕上がっているのである。感謝するのである」
「まあ、言った通り、上手くできなかったでもうすが、文句は言わないようなので良いでもうす。では、そろそろ、新米の大神に指導を開始するのでもうす」
(ん?よくわかりませんが?とりあえず、先生に意識を返してもらえるんでしょうか?)
信長がそう言ったと同時に自分の意識が身体の表面に戻っていく感触を覚えるのである。
「ぷはあっ!はあはあはあっ!あああ、深く眠っているところを無理やりたたき起こされた気分ですよ!ったく、戻すなら戻すと一言お願いしますよ!」
「ふむ。それは済まないのである。今度は気をつけさせてもらうのである」
「って、波旬くんの声が先生の脳内じゃなくて、外から聞こえるんですが?」
「こっちの方を見るのである。今、貴様と我は【分御霊】を行っているのである」
また、何か良くわからないことを言っていますねえ?と信長は想いながら、声のする方向を見る。だが、そこには、人型と言っていいのかもわからないような岩の像がある。だが、確かにこの岩の像から波旬の声が聞こえるのである。
「うわっ!なんでこんな岩の像がしゃべっているんですか?気持ち悪い!先生、もしかして、とうとう気がふれてしまいました?」
「心配するなである。少し待っておれなのである。もう少し、見れたものに形を変えるのである。ふんっ!」
波旬がそう言うと、岩の像がバキッバコッメリッと音を立てて、破片をまき散らす。信長がうわっ!と想うと、数分後には、自分に瓜二つの岩の像が出来上がるのである。
「おおお。波旬くんって、意外となんでも出来るんですね?先生そっくりの岩の像を造れるなんて思ってもいませんでしたよ」
「貴様が望んだ姿に変わっただけなのである。しっかし、本当に貴様は自分が大好きなのであるな。いくら貴様の欲望を元にしたからと言って、ニンゲンがここまで自分の姿を正確に把握していることが不思議でたまらないのである」
「ん?言っていることがよくわからないのですが?自分の姿なんでしょう?そこに正確性も何もないんじゃないですか?」
こいつは事の重大さを本当に理解していないのである。まったく、何て奴だと波旬は想う。
「ガハハッ!波旬が言いたいのは、ニンゲンと言うものは欲望まみれだから、自分の姿を見るときも欲望によって歪むと言いたいのでもうすよ」
「ああ、なるほど。しっかし、波旬くんは何でいちいち、わかりにくい説明なんですかね?天手力男神くんのほうがよっぽど頭が良いんじゃないのですか?」
「う、うるさいのである!とにかく、神気と神力の使い方を覚えることを優先するのである!そろそろ、伊弉冉による【改変された世界】が完成するのである。そうなれば、お前は強制的に現世に戻ることになるのである。それまでに、貴様は学ばなければならないのである!」
「はいはい。わかりましたよ。じゃあ、その神気と神力?でしたっけ。先生にご教授お願いします。あっ、でも、痛いのはやめてくださいよ?」