珍名・田中さん
猫山駅の売店は、何匹かのアルバイトの猫が交代で店番をしています。そのうちの一匹が大きな目をした黒い巻き毛の女性の田中さんです。
私の名字は岸川ですが、田中さんは「珍名同士」ということで私に親しみを感じてくれています。
猫の世界の猫日国では、名字の九割以上は「猫」がついていて、それ以外もほとんどがニャガ島さんとかミヤ本さんとか猫っぽい名字ばかりです。
田ニャカさんなら特別珍しくはないのですが、田中さんというのはとても珍しいです。
田中さんが今日、その珍しい名字の由来を聞かせてくれました。
猫江時代の始め、大名家や旗本家の若殿や姫を招いて、将軍主催の仮面歌会が催されました。
その歌会で、猫田家の一匹息子と猫中家の一匹娘が恋仲になります。でも、お互い跡取りのため、両家の親は他家にはやれぬと譲りません。
二匹を添い遂げさせてやりたいと思った将軍猫川光家は、両家を説得し、二匹を結婚させて田中という家名を与えたのだそうです。
最初は両家の領地を飛び地で治めていましたが、その後の国替えで現在の猫葉県猫船市の一部を領地とすることになりました。なので、今でも猫船市を中心に猫葉県にはちらほらと田中さんがいるとのことでした。
売店の田中さんはお父さんが猫葉県の出身で、田中さんが子供の頃に仕事の関係で猫山県に来たそうです。
「ミーコ駅長の『岸川』にはどんな由来がありますか?」
と田中さんは聞いてきました。
「さあ、平家の落ち武者説があるけど、よくわからないです」
「えっ、ご先祖は猫だったんですか?」
以前ネットで見たままの怪しげな情報を私が答えると、田中さんはびっくりしていました。
平家というと、猫の世界では原平の合戦で知られる猫原氏と猫平氏のうちの猫平氏のことを指します。
そうではなくて人間の世界の平家だというと、田中さんは不思議そうにしていました。
ありえない話ですが、ご先祖が猫の世界の猫平氏だったとしたら、それはそれで面白い気がします。




