助け
苛立つ赤毛の男の声に答える声は上がらなかった。だからか、赤毛の男はますます激昂していった。激昂した感情の対象になるのは私らしい。
私に冷酷な目を向けてくる。そして、ナイフを振り上げ、私に向かって振り下ろした。
一連の流れを、私はただ見ている事しか出来なかった。私の身体が恐怖で固まってしまい、動けなかったのだ。
ーもうダメっ!!
振り下ろされるナイフに、私は思わずギュッと目を瞑った。
だけど、いくら待っても痛みは襲ってはこなかった。不思議に思い、私は赤毛の男とナイフがどうなっているのか確かめようと、そろそろと目を開いた。
すると、私の前に男の人の背中が見えた。その背中には、銀色の髪が見える。
ーま、まさか。
いや、銀色の髪っていうだけで決めつけるわけにはいかない。けど、似てると感じた。
ー顔が見たい。確かめたい。
そう思った時、まるで私の想いが通じたかの様に、銀髪の男の人が分からないの方を振り向いた。
ーやっぱり。
その人の顔を見て、私の予想は確信に変わった。
「レイさん…。どうして、ここに…?」
私の疑問は小さな呟きだったのだけど、レイさんには聞こえたようで、私の疑問に答えてくれた。
「それはもちろん、エミリアを助けに来たんだっ!!」
レイさんは、『来たんだっ!!』と力を込めて言った。
それは、今まで赤毛の男の持つナイフを剣で止めていたのを、弾いたからだった。今、2人は間合いを取って対峙している。どちらも武器を構えながら。
「エミリア、話は後だ。今は、逃げろ」
視線を赤毛の男に向けたまま、レイさんは私に言った。私は床に倒れ込んだ体勢のまま、レイさんの背中を見上げて言う。
「で、でも…」
『ここで私1人が逃げるのは、ちょっと……。』と思っていると、レイさんが私にお願いしてきた。
「こっちは大丈夫だから。頼む。これ以上、心配させないでくれ…」
レイさんにそう言われ、私は胸が苦しくなった。
ー心配、してくれたんだ。
こんな時なのに嬉しく思ってしまう。私が体勢を立て直して、そっとレイさんの横顔を見ると、レイさんは険しい表情を浮かべていた。
もしかしたら、赤毛の男は手練れなのかもしれない。私を守った状態で戦うのはレイさんが不利になる。私がいると邪魔になるのかもしれない。
レイさんに心配事をなくして万全の状態で戦って貰うには、私はレイさんの言う通りに逃げるのが一番だ。
今は、素直にそう思えた。
だから、私は助走なしの一足飛びで船べりに降り立つと、ミレイアさんに向かって叫びながら船から飛び降りた。
「ミレイアさぁーーーーーん!!!」
ミレイアさんは私の声に応えて急降下してくれた。けど、私が落ちる方が早いかもしれない。
私は、目を瞑って海に入るのを待ち受けた。でも、その前に私の身体はガシッと掴まれ、落下は急停止した。
「ミレイアさん!!」
目を開けて見上げると、ミレイアさんの顔は私の予想よりも上の方にあった。どういう事かと言うと、私はミレイアさんが掴んでくれたんだと想像してたんだけど、実際はそうじゃなくて、ミレイアさんが掴んでいるアリシアさんが私を掴んでくれていたのだ。
「アリシアさん!!」
「大丈夫ー?」
「何とか……。お2人共、ありがとうございます。危険もあったのに助けて下さって」
私がお礼を言うと、2人は言った。
「そういうのは後よ」
「そう、そうー」
「はい!!」
ミレイアさんが高度を上げようとしたから、私は下を見下ろした。すると、私の足のつま先は海面すれすれにあった。
ーあっぶなー。ギリギリセーフ!!
少しタイミングがずれていたら、私は海に落ちていただろう。私が海に落ちていても、ミレイアさんとアリシアさんの2人は私を助けようとしてくれたかもしれない。
けど、それは大変だと思う。だから、海に落ちる前で良かった。
高度が上がってくると、私は今まで乗っていた船を見た。そこには2隻の船がある。
今、戦闘が行われている船と、レイさん達が乗ってきたであろう船だ。レイさん達の船には甲板に人がいるものの、戦闘は行われていない。
「あのー、ミレイアさん、アリシアさん。あの船のマストの影に私を降ろして貰えませんか?」
「えっ?危ないんじゃない?」
「うーん。少しは危険があるとは思いますけど、あの船は私を助けてくれた人の船だと思うんです。だから、あそこで少しでも援護したいです」
私はレイさんが勝つって信じているけれど、戦っている最中に他からの攻撃がないとは限らない。だから、私はあの船に降りたいのだ。




