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第十一話:気になるあの人は小さな巨人

第十一話

 学園の外で何かする場合は羽津学園の生徒としての規律を重んじ、社会の一員として行動をするように。

 それが俺の通っている羽津学園園長の有り難いお言葉である。

 要は悪い事をするなと言うことだ。

 俺も特別悪い人間と言うわけではないので休日はだらだらと過ごしているだけ。日によっては千鶴たんと一緒に遊んだり、亜子、その他と一緒に遊んだりする程度だ。

 そもそも、この寒空の下わざわざうろつく奴の気持ちがいまいちわからなかったりする。お部屋のこたつでごろりと過ごす……素晴らしい休日ではないだろうか。

 百々から買い物に行って来てほしいと頼まれ、メモ帳片手に歩いている。傍から見たら尻に敷かれている嫁の言う事を聞いている旦那みたいである。

「あれは……」

 繁華街辺りまでやってきて別段珍しくない光景を目にした。

「ねぇねぇ、きみ可愛いね」

「え、そ、そうですか」

「このあとおれらとお茶しない?」

 ナンパ、である。

 チャラい男の二人組……ではなく、いがぐり頭の野球部っぽい感じの二人組だ。他の学校の生徒だろうか。

 ナンパされているのは四季先生だ。可愛いねとか言われてへらへら笑っている。

「……先生が年下の子におだてられて騙されているのは可哀想だな」

 何だか、見ていて非常に心が痛くなった。

 助けずにこのままいがぐりにさらわれて行ったほうがもしかしたら四季先生も本望かも知れない。

 それでも、もしものとき……たとえば、この光景を羽津学園の誰かが見ていたらちょっとした話題にはなるだろう。

 この後の作戦を心の中で打ち立て、周囲に聞こえる大声で先生に手を振った。

「せんせー、待ちました?」

「あれ? 夢川君?」

 二人のいがぐりに相対するような形で先生を見る。

「先生だって?」

「あれだろ、家庭教師のバイトでもやっているんじゃないのか」

 近くで見たらいがぐりは非常に大きかった。二メートル超えているんじゃないのか。

「二十五歳、独身の羽津学園二年B組、四季先生。この前の金曜日一緒に参考書選んでくれるって約束していたじゃないですか」

「二十五歳?」

「女子大学生じゃないのか……行こうぜ」

「ああ」

 あっさりと見限っていがぐり二人は去っていった。その肩にかけられていた『羽津中学野球部』という文字に俺は思うところがあった。

「……人はみかけによらないな」

「うう、見かけによらなくってごめんね」

「あ、先生の事を言っているんじゃありませんから安心してください。ところで四季先生」

「何、夢川君」

 未だ傷心中の四季先生に言うのは酷だったが、注意は必要だろう。

「あの、さっきものすっごく締りの無い顔で笑っていましたけどあんな年下におだてられて舞いあがるのはまずいですよ」

「え……嘘、そんなに締りのない顔してたかな」

「こんな感じでした」

 写メを見せると更に落ち込んでしまった。

「……これ、後でいいからちゃんと消しておいてね」

「わかりました。四季先生は今日、何してたんですか?」

 しょうがないとはいえ、四季先生の気持ちを沈ませたのは俺にも責任があるので話を変えることにした。

「特に用事もないからぶらぶらしてたかな」

「あ、そうなんですか」

「うん、そうだよ」

 ここで会話終了となりそうだったので俺はそれならと続けた。

「さっきも言った通り、参考書買うの手伝ってもらえませんか」

「暇だからいいよ」

「じゃあ、お願いします」

 二人で書店へと出向き、参考書コーナーで数十分かけて四季先生にどれが良くてどれが悪いのか教えてもらった。

「大学進学を考えているのならこれかなぁ」

「何故ですか」

「ここのやつはね、大学で出された問題を例として取り上げていて引っかかりやすい場所、素早く解くポイントは何かを書いてるからね。それなら他も一緒じゃないのかって思うかもしれないけれど……ここは実際に宛先に送付したら無料で問題集を送ってくれたりするんだよ」

 これこれ、こういう理由で……四季先生からちょっとした授業を受けている気になった。俺は急に頼りがいのあるお姉さんに変わったのに驚いていた。

「何でそんなに驚いた顔になってるの?」

「あ、すみません。何だか四季先生が大人びた感じになったんで……」

「えぇ? もう大人だよ?」

「そうですよね。変な事を言ってすみません」

 その後、俺と先生は一緒に昼ごはんを食べて別れた。ファミレスで問題集を広げるなんて生まれて初めてで、四季先生の指導にも熱がかなり入っていた。

 綺麗だったはずの参考書は結構書き込まれて少しくたびれていた。

「じゃ、また学園でね」

「はい。四季先生帰り道気をつけてくださいね」

「夢川君もね」

 手を一生懸命ふってくれる四季先生はどうみても俺と同じくらいの少女にしか見えなかった。


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