1 餌(エサ)にならない世界で
第一話 脂の焦げる匂い
肉の焼ける匂いがしていた。
どこか香ばしく、食欲をそそるような脂の匂い。だが、それが自分自身の体から漂っているものだと理解するまでに、ほんのわずかな時間がかかった。いや、脳が現実を拒絶していたと言うべきかもしれない。
じゅうじゅうと音を立てて脂が爆ぜる。
鼻腔にねっとりと絡みつく焦げた臭気。
それが自分の皮膚であり、肉であり、生きて血を通わせていた体の一部であると認識した瞬間、田中佐紀の思考は極寒の氷床に叩きつけられたように凍りついた。
「まだ生きてるな、こいつ」
「新鮮な方がいいんだってさ。腐りかけたやつは腹壊すからな」
耳元で交わされる声。どれもこれも、嫌というほど聞き覚えのある声だった。
目を開ければ、そこにはかつて「仲間」と呼んでいた顔ぶれがあった。
崩壊したマンションの隣の部屋に住んでいた、気弱そうな若い男。
自分の食料を削って何度も乾パンや缶詰を分けてやった、小さな子供を持つ女。
冷え込む夜、冷たくなった床の上で肩を寄せ合い、励まし合いながら一緒に明日を越えた同志たち。
そのはずだった。
「やめ……て……っ……」
掠れた声が、ひび割れた喉の奥から漏れ出る。
連日の飢餓と乾きで喉は砂漠のように干からびており、まともな音を結ぶことすら難しい。
体は一ミリも動かなかった。両腕は男たちの体重で床に押しつけられ、両脚は太い縄で頑丈に縛り上げられている。逃げ場など、最初からどこにも用意されていなかった。
世界に終末が訪れてから、どれほどの時間が経過したのだろうか。
暦も時計も機能を失い、正確な年月など知る由もなかった。太陽が昇り、沈み、また昇る。ただそれだけの反復の中で、電気も水道も秩序も急速に失われていった。
人間が人間としての尊厳を剥ぎ取られ、ただの「けだもの」へと成り下がっていく醜悪な過程を、佐紀はこの目で嫌というほど見せつけられてきた。
最初は違ったのだ。
皆、まだ「人」だった。
どんなに貧しくとも食料を分け合い、怪我をした者がいれば介抱し、不安に押し潰されそうな夜には言葉を掛け合って支え合っていた。
佐紀もまた、その一人だった。いや、人一倍「善き人」であろうと必死だった。
――自分が少しだけ我慢すれば、誰かが今日を生き延びられる。
――優しさを示し続ければ、いつか世界が戻った時に後悔せずにすむ。
本気でそう信じていた。そう信じなければ、壊れそうな世界で己の正気を保つことができなかったのだ。
「優しい人ってさ……ほんと最後まで残るよね」
「そうそう。人を疑わないからさ、誘導するのも簡単だし、土壇場でも油断してくれて助かるよ」
女が薄笑いを浮かべながら、手にした包丁の刃先を佐紀の太ももに押し当てる。
刃が滑る。
肉が裂ける。
自分自身の肉が、切り出されていく。
熱と、狂おしいほどの痛みが、遅れて脳髄を灼いた。
叫び声をあげる気力すら奪われていく中で、痛み以上に佐紀の心を塗りつぶしたのは、あまりにも冷酷な「理解」だった。
なぜ、こうなったのか。
答えはあまりにも単純で、救いようがないものだった。
空腹。
ただそれだけだ。
どんなに美しい言葉を重ねようと、どんなに深い人間関係を築こうと、腹が満たされなければ何の意味も持たない。飢えという根源的な欲求の前では、友情も、愛も、積み重ねた信頼も、すべて胃袋を満たすための単なる「飾り」に過ぎなかったのだ。
(私が……間違っていた……)
歪んだ視界の中で、温かい涙が頬を伝う。
それは太ももを削ぎ落とされる痛みのせいではなかった。己の愚かさに対する、怒りと悔しさと後悔だった。
(助けなきゃよかった……あんな奴ら……)
あの時、貴重な缶詰を分け与えてやった自分。
怪我をして動けなくなった者を捨て置けず、背負って走った自分。
浮かべられた感謝の笑顔を、本物だと疑わずに信じてしまった自分。
全部、全部、反吐が出るほどの間違いだったのだ。
(突き放せばよかったんだ)
もっと冷酷になればよかった。
もっと他人を疑えばよかった。
もっと――誰よりも残酷に、餓鬼のように生きればよかった。
視界が急速に黒く染まっていく。意識が遠ざかる。
太ももから溢れ出る血の温もりも、じゅうじゅうという不快な音も、焦げた臭気も、激痛も、すべてが薄霧の向こうへと消えていく。
(もし……もしも、やり直せるなら……)
薄れゆく意識の底で浮かんだのは、神への祈りなどではない。呪いに満ちた執念だった。
(次は絶対に……お前たちを……)
次の瞬間、世界が、ぐらりとひっくり返った。
第二話 三十年前の覚醒
「……はっ!?」
肺が猛烈に酸素を求め、佐紀は跳ね起きるようにして意識を浮上させた。
眩しい。
まぶたの裏に、柔らかな光が差し込んでいる。ゆっくりと目を開けると、そこにあったのは、見慣れた白い壁紙と天井だった。
「……あ……?」
声が出た。掠れていない。乾いていない。驚くほど自然に、喉が振動して音を紡いだ。
喉の渇きも、太ももを削ぎ落とされた激痛もない。身体が信じられないほど軽い。終末の数年間、骨の髄までこびりついていたあの重苦しい倦怠感も、絶望的な疲労感も、どこにも存在しなかった。
佐紀はゆっくりと自分の両手を持ち上げ、眼前にかざした。
皺がない。垢や乾いた返り血で黒く汚れてもいない。爪はきれいに切り揃えられ、皮膚には瑞々しい張りがある。指先までしっかりと力が入る。
ドクン、ドクン、と心臓が脈打つ音が部屋に響く。呼吸が激しく乱れた。
「……違う……これは……」
鏡を見に行かずとも解かった。これは、あのアパートの死体置き場で転がっていた時の自分ではない。
もっと若く、ずっと昔の、健康そのものの肉体だ。
佐紀は震える手を伸ばし、ベッドの脇に置かれていたスマートフォンを掴んだ。
画面をタップすると、日付と時間が鮮明な液晶の光とともに表示される。
表示された数字を目にした瞬間、彼女の思考は完全に停止した。
「……三十年……前……?」
現実が追いつかない。
あまりの落差に、夢を見ているのではないかという疑念が脳裏をよぎる。だが、手触り、匂い、肌を撫でるエアコンの微風、そのすべてが克明な実感としてそこに存在していた。
ここは過去だ。
あの地獄のような終末が訪れるよりも、ずっとずっと前の世界。
まだ何も壊れておらず、誰もが平和な日常を疑わずに貪っている時代。
「……戻ったの……? 私……」
呟いた声は、自分でも驚くほど弱々しかった。
しかし、呆然としていたのはほんの一瞬だった。
胸の奥底から、ドロリとした黒い感情が激流となって湧き上がってくる。
笑いだった。
腹の底からこみ上げてくる、乾いた、歪んだ笑い。
「は……ふふ……はははっ……!」
戻ったのだ。
やり直せる。
あの惨劇を、あの飢餓を、あの人間が人間を喰らう地獄を、もう一度最初から。
いや、違う。
「やり直すんじゃない……」
佐紀は掠れた声で呟き、ベッドから起き上がった。
「やり直させるんだ」
今度は、私が。
その瞬間、佐紀の頭の奥で不意に異物感が弾けた。
脳の過熱した神経を直接引っ掻くような、小さなノイズとざらついた感覚。
『――起動確認』
「……なにも?」
反射的に室内を見回す。だが、六畳一間のワンルームには誰もいない。鍵のかかったドア、閉ざされた窓。窓の外には、ただ穏やかな昼下がりの街並みが広がっているだけだ。
『対象:田中佐紀。逆行者として認定』
無機質で平坦な声だった。感情の欠片すら含まれない、精巧な機械音のような響きが直接頭の中に響いてくる。
「……死に際に見ている幻覚? それとも、頭がおかしくなったの……?」
自嘲気味に吐き捨てたが、頭の中に残る強烈な違和感は消えない。
『システムを開始します』
その音声と同時に、佐紀の目の前の空間がぐにゃりと歪んだ。
空気が水面のように波打ち、そこに一枚の半透明な青い光のパネルが浮かび上がる。
まるで最新のSF映画か、オンラインゲームのユーザーインターフェースそのものだった。
「……は……?」
あまりに唐突な現象に、思わず間の抜けた声が漏れる。
しかし、その半透明のボードに表示された日本語のテキストは、紛れもなく明瞭だった。
【初心者パックを受け取りますか?】
【 YES / NO 】
指先がわずかに震える。
あまりにも現実離れしている。だが、一度惨殺され、三十年前に時間を巻き戻されたという超常現象を経験した直後の佐紀にとって、パネルが一枚現れた程度で狼狽え続ける理由はなかった。この世界はすでに、彼女の知る「常識」の枠組みを外れているのだ。
佐紀は意を決し、ゆっくりと手を伸ばして【YES】の文字に触れた。
指気に微かな温もりのある感触が返ってくる。確かにそこに存在している。
選択が完了した次の瞬間、濁流のような情報が佐紀の頭脳へ直接流れ込んできた。
構造。
使用法。
概念の定着。
『スキル【空間収納】を獲得しました』
「……っ……!」
佐紀は思わず息を呑んだ。
空間収納。
その言葉が意味する絶対的な価値を脳が理解した瞬間、彼女の胸の鼓動が一気に跳ね上がった。
佐紀は視線を部屋のローテーブルの上に向けた。そこに転がっていた一本のプラスチック製ボールペンに歩み寄り、手に取る。
「……収納」
ただ、頭の中でそう強く意識した。
一瞬だった。
手にあったはずのボールペンが、消えた。
「……あ……」
手の中には何もない。部屋のどこにも落ちていない。
だが、なくなったわけではないことが、感覚で理解できた。
脳裏の別次元のような暗闇の中に、ぽつんとボールペンが一つ、完璧な状態で静止して浮遊している感覚。
「出ろ」
意識を向けると、次の瞬間には掌の上にボールペンが戻っていた。
「……本物……幻じゃない……」
声が震える。
夢でも、精神異常の生み出した幻覚でもない。
これは紛れもない、手に入れた現実の力だ。
呼吸が浅く、速くなる。
これがあれば。
この力さえあれば。
かつての終末において、人間の命よりも重く、そして人間を最も容易に狂わせた最大の要因。
食料。
綺麗な水。
医療品や消耗品。
それらすべてを、誰にも奪われることなく、腐らせることもなく、無限に持ち運ぶことができる。
「……勝てる……」
ぽつりと零れ落ちた言葉には、揺るぎない実感がこもっていた。
パネルの表示が効果音とともに切り替わる。
【デイリークエスト】
・水を10リットル確保せよ。
・食料を20日分確保せよ。
【達成報酬:スキル【未来視(初級)】】
「……未来視……」
その二文字を見た瞬間、佐紀の全身の毛穴が立ち開くような衝撃が走った。
未来を見る力。
何が起きるか、誰がどう動くかを事前に察知する絶対的な情報アドバンテージ。
もし、それが本当に手に入るのだとしたら。
「……ふふ……」
漏れ出た笑いは、もはや抑えようがなかった。
「あはは……あはははは……っ!」
乾いた部屋に、狂気を含んだ高笑いが響き渡る。
理解してしまったからだ。この理不尽な状況が持つ本当の意味を。
時間を遡る逆行。
己を補佐するシステム。
物質の概念を無視する絶対的な収納スキル。
そして、これから手に入る未来を予知する力。
「負けるわけがない……絶対になにひとつ……!」
あの地獄の結末を知っている。
人間がいつ、どのように狂い、どんな手段で惨劇が始まるのかを知っている。
その上に、未来を覗き見る力まで与えられるというのだ。
「……今度は、違う」
佐紀は笑いを収め、静かに、氷のように冷たく呟いた。
かつて、皆のために自分を削っていた愚かな「田中佐紀」は、あの死体置き場で完全に死んだのだ。
「優しくなんて……絶対にしてやらない」
脳裏に、かつての顔ぶれが鮮明に浮かび上がる。
私を押さえつけていた男の手。
楽しそうに笑いながら太ももの肉を切り取っていた女の目。
名前も、声も、顔の傷も、臭いすらも、すべて覚えている。
「忘れるわけないでしょ……」
低く、怨念の籠もった声が室内に満ちる。
「一人残らず……全員……」
握りしめた拳の指先がわずかに震える。
それは恐怖でも、戸惑いでもない。
永劫の暗闇から引きずり出された、純粋で確定的な殺意だった。
第三話 圧倒的な猶予と時間の停止
部屋の空気は、やけに軽かった。
あの世界では、空気そのものが重かった。腐臭と煙と血の匂いが混ざり合い、吸うたびに肺の奥がざらつくような感覚があった。それに比べれば、今のこの部屋はあまりにも無垢で、あまりにも安全すぎる。
窓を開けると、柔らかな風が入り込んできた。遠くで車の走る音。誰かの笑い声。テレビの音。
すべてが、遠い過去のように感じる。
だが実際には、これこそが「過去」なのだ。
「……三十年」
小さく呟く。
終末が訪れるまで、あと三十年ある。
あの時とは違う。切迫した数ヶ月や一年ではない。圧倒的な猶予。圧倒的な準備期間。
「……余裕がありすぎるくらいね」
ゆっくりと息を吐く。
焦る必要はない。だが、油断もできない。
三十年という時間は、使い方次第で“神”にも“凡人”にもなる。
「まずは確認」
佐紀は意識を集中させる。
空間収納。
先ほど入れたペットボトルの水と食料を思い浮かべる。
(取り出す)
瞬間、床の上に水と袋が現れた。
キャップを開け、水を一口飲む。
「……普通」
当然だが、問題はない。
だが、もう一度収納し、今度は沸かしたての熱湯を注いだカップ麺を仕込み、しばらく待ってから取り出す。
温度と状態に意識を向ける。
「……変わってない」
外気に触れていたはずなのに、水は冷たいままだった。そしてカップ麺からは、収納した瞬間と寸分違わぬ激しい湯気が立ち上っている。麺も全く伸びていない。
「時間停止……」
ぽつりと呟く。
理解が追いついた瞬間、背筋に電流のようなものが走った。
「これ、やばいでしょ」
思わず笑みがこぼれる。
劣化しない。
腐らない。
乾かない。
凍らない。
つまり――
「何でも“そのまま”保管できる」
終末で最も厄介だった問題。
それは“保存”だった。
食料は腐る。水は汚染される。医薬品は劣化する。燃料は揮発する。
どれだけ集めても、時間が敵になる。
だが、このスキルはその概念を否定している。
「……無限に備蓄できる」
三十年という時間がある。
その間に、あらゆる物資を集め、蓄え続ければいい。
そして終末が来た瞬間、自分だけは“完全な状態の物資”を持っている。
「勝ち確定じゃない」
小さく笑う。
だがすぐに表情を引き締める。
「……いや、まだ甘い」
油断は命取りだと知っている。
終末では、どれだけ準備しても足りなかった。
「量も質も、桁違いにする」
そのためには――
「金が必要」
視線をスマートフォンに落とす。
未来視。
先ほど得たこの力が、すべての鍵になる。
目を閉じる。
意識を集中する。
すると、再び“見える”。
数字。
チャート。
企業名。
数日後、数週間後、時には数ヶ月後の値動きが断片的に流れ込んでくる。
「……やっぱり来る」
ある銘柄が急騰する未来。
理由は完全には見えない。だが、結果は確定している。
「これでいい」
理由なんてどうでもいい。
重要なのは“結果”だ。
アプリを開き、証券口座にアクセスする。
残高はわずか。
だが、それで十分だ。
「最初の一手」
指を動かし、銘柄を選択する。
迷いはない。
未来はすでに見ている。
「全額投入」
タップ。
注文が確定する。
その瞬間、奇妙な静けさが訪れる。
まるで、すべてが予定調和で進んでいるかのような感覚。
「……これで数日後には増える」
投資を重ね、雪だるま式に資金を増やしていく。
「一年もあれば、億はいける」
三十年ある。
その時間をすべて使えば、国家規模の資産すら夢ではない。
「……そうなれば」
思考が次の段階へ進む。
物資の確保。
ただ買い溜めるだけでは足りない。
「拠点」
安全な場所が必要だ。
終末では、場所がすべてだった。
人が来ない場所。侵入されにくい構造。水源が近く、逃げ道がある。
「……山か、それとも地下か」
候補はいくつもある。
だが、今すぐ決める必要はない。
三十年あるのだ。
「ゆっくり選べばいい」
その余裕が、何よりも大きい。
第四話 隣人の怪物と静かな殺意
ふと、視線がドアに向いた。
隣の部屋。
そこに住む男。
今はただの一般人。
笑って挨拶もするし、ゴミ出しのタイミングが同じになることもある。
「……まだ普通」
だが、その“未来”を知っている。
笑いながら、自分の肉を切っていた男。
「……あんたも、三十年後には化け物になるのね」
ぽつりと呟く。
怒りは、不思議と湧かなかった。
それはすでに通り過ぎた感情だった。
代わりにあるのは、冷たい理解。
「あの世界じゃ、仕方なかった?」
首を傾げる。
否定も肯定もしない。
どうでもいい。
「でも――」
静かに目を細める。
「私は忘れない」
それだけは、絶対だ。
恩も、恨みも。
すべて覚えている。
「順番に、やる」
誰から、どうするか。
それを考えるだけで、妙に頭が冴えていく。
だが――
「今はまだ早い」
三十年ある。
復讐は急ぐものではない。今すぐ動けば警察に捕まり、未来の準備が途切れてしまう。
「一番いいタイミングでやる」
そのためにも、今は力を蓄える。
金。
物資。
情報。
すべてを集める。
「準備がすべて」
それは、あの地獄で学んだ最も重要なことだった。
第五話 奪い返すためのカウントダウン
ベッドに腰を下ろす。
静かな部屋。
安全な空間。
だが、その静けさの奥に、確かに“終わり”の気配がある。
誰も気づいていないだけで、確実に未来は崩壊へ向かっている。
「……楽しみね」
ぽつりと漏れる。
狂気じみた言葉だった。
だが、それを否定する気はない。
恐怖ではない。
絶望でもない。
「今度は、私の番」
ゆっくりと目を閉じる。
三十年。
長いようで、短い時間。
だが、そのすべてを使えば――
「世界なんて、どうとでもなる」
田中佐紀は、静かに笑った。
その笑みは、かつての優しさを知る者が見れば、決して同じ人物だとは思えないほどに冷たく、鋭いものだった。
喰われるだけの「餌」だった過去は捨てた。
三十年の猶予は、世界と奴らからあらゆるものを奪い返すために与えられた時間だ。
そしてその日から、彼女は少しずつ、確実に。
世界を奪う準備を始めていくのだった。




