力の代償
ミノタウロスとの戦いを終えたロニール及び戦闘団は、死骸を回収した後、早急に中層へ向かった。
日が暮れた深層。ミノタウロスという脅威を排しても尚、その道は日中と比べて一段と険しかった。
夜に活発になる魔物の《闇魔法》、それに対抗するための《光魔法》を夜の森に煌々とばら撒く一団。やっとの思いで中層まで戻り、その後フロンタへと帰還したのだった。
ミノタウロスとの戦闘からの一連の状況において、幸いにも死者は出なかった。重傷者はある程度の療養期間を必要とするが、それだけで済んだということだ。
フロンタの戦闘団全体として、ミノタウロスは霊峰の個体であるという見解で一致した。
その危険個体討伐の最大功労者としてロニールが挙げられ、彼は狩りの成果報酬とは別の褒賞が与えられることとなった。
魔力的ドーピングをした上で最終的に横取りしたような形になったロニール。彼は後ろめたさを覚えつつ、成果報酬を辞退した上でミノタウロスの魔石を褒賞として希望し、それが認められた。
黒に見間違えるほどに深い紫色をした宝玉。それは資産というより、彼にとっての戒めだった。
ドーピングの副作用のため、ロニールは霊峰に挑むことなくサイルへと帰還した。
副作用が無かったとしても、あの戦いを思えば霊峰は明らかに実力不足だ、と彼は思っていたが。
同様に実力不足を痛感したのだろう第1分隊の面々も、ロニールがフロンタを離れることをすんなりと受け入れた。
サイルに戻ったロニールはトレーニングと戦闘訓練に没頭しつつ、霊域の浅層から中層までを駆け回った。素の身体能力とスキルを伸ばすために。
今後は《身体強化》に頼ることが出来ない彼は、それに代わる新しい戦闘能力を獲得しなくてはいけなかった。
ロニールはあのドーピング以来、魔力を完全に喪失していた。
魔石を取り込んで全盛に至った魔力量は、ミノタウロスとの戦闘を終えた頃から減少し始め、やがて元の水準に戻ってからも止まることなく徐々に減り続けた。フロンタに帰還する前の浅層の段階ですでに魔力量はゼロになり、その後回復の兆しは全くない。
しかし、彼は後悔しているわけではなかった。あの時、あの場で勝たなければならなかったから。
なけなしの魔力を代償に己の存在意義を守り、そして仲間の命も守ったと考えれば、悪くはないトレードだったのだ。
むしろ良かったのかもしれない、とも彼は考える。
フィジカルを人生の信条に掲げていながら、結局のところ魔力に頼っていた。《身体強化》だって魔法の1つであることには変わりない。
ファンタジー世界に浮かれてしまって、己が本質を見失っていたのではないだろうか。
魔力を失おうとも、フィジカルとスキルがある。例えスキルの恩恵が封じられることがあろうとも、最終的にはフィジカルで全てを解決する。
そうでありたいと、彼は思うのだった。
霊峰踏破の目標は健在。
王都での入校を控えるロニールだったが、トレーニングや訓練の時間は確保できるだろうし、王都にはダンジョンもある。
成長のために出来ることは山ほどあるのだ。成すべきを成す。
魔力を失ってもなお前向きなロニールは、決意を新たにしていた。
※あとがき
1章完結となります。
ここまで拙作を読んで頂き、本当にありがとうございました。
「拙作」というのは謙遜や定型的な表現ではなく、文字通りの意味です。
現段階のストーリーの要旨が、結局のところ「登山」という薄さ。
序盤の掴みが弱く、全体を通して起伏に欠ける展開。
「のっぺりドライ」とでも表現できる作品となりました。
意味の通る文章を並べて物語にしたところで、面白い作品が出来上がるわけではないということを身をもって痛感しています。
反省点は多々ありますが、1章の修正に時間を費やすつもりは今のところありません。
それよりもストーリーを前に進めることに注力していきたいと思います。
「質」というものは、1つのことに時間を費やすよりも、量をこなした中から生まれるそうです。そして、量は上達速度にも通ずるところがあります。
今後もそのマインドで、創作意欲が続く限り書けるだけ書いていきたいと思います。少なくとも2章完結までは書き切ります。
2章は学校生活とダンジョン攻略を軸としつつ、終盤は霊峰に挑む予定です。短期的な起伏に留意しつつ、ストーリーを展開していきたいと考えています。
更新は8月以降になるかと思いますが、今後ともお楽しみ頂ければ望外の喜びです。




