鬼人ロニール
ソシトラス王国領、辺境の城郭都市サイル。
「冒険者の町」として知られるこの町で宿屋を営む夫婦の間に、第3子となる男の子が生まれた。
ヒト族の両親から生まれた彼の額には、2本の小さな角があった。
そんな彼を見た両親。
母のハンナは驚いたものの、父であるオルトは狂喜した。
先祖返りの鬼人として生まれた彼は、ロニールと名付けられた。
〇
「俺ってお父さんとお母さんの子どもだよね?」
家族で朝食を囲む中、食事の手を止めることもなく、おもむろに質問した3歳のロニール。彼の肉体は、すでにヒト族における6歳程度にまで成長している。
「ん?ああ。間違いなく、な。何か気になったか?」
ロニールの父親であるオルトが唐突な話題に驚きつつ、なんてこともない調子で返した。ロニール自身に深刻な様子が見られなかったから。
ロニールは目の前の家族を見回す。
オルトは浅黒い肌をした大男。宿屋の主人であるが、現役冒険者のような風貌だ。
母親のハンナはすらりとした、落ち着いた雰囲気の美人。普段の口数は多くなく、感情表現も豊かというわけではないものの、信頼性や安心感といった内面の魅力を感じさせる人だ。
そして2人の兄、長兄ウォレスと次兄マーガン。双子の彼らは母親似で、将来は美男子になるだろう。
全員ヒト族。
額に角が生えていることもなければ、他の亜人族的な特徴を持つ者もいない。……オルトだけは随分デカいが。
「そりゃあ気になるよ。だって家族の中で俺だけ角が生えてるんだから」
ロニールは家族から当然のように受け入れられ、愛されていると感じている。だからネガティブな雰囲気ではなく、普通に尋ねる。
「ずっと聞こうと思ってたんだけどさ。何で?」
「当然の疑問だな。まあ実は簡単なことだ」
答えたオルトは、心なしか誇らしげに続ける。
「俺が鬼人の血を引いているからだ。そしてロニール、お前は先祖返りというやつだ。鬼人の血が薄い俺はヒト族の域を出ないが、お前は歴とした鬼人だ」
「鬼人か……そうなんだ」
(ヒト族の域を出ない……?そのデカさは鬼人の遺伝だよ、きっと)
出生の疑問が解決したロニール。しかし、母の気持ちも気になるところ。
「お母さんは?生まれた俺を見てびっくりしなかった?」
「ふふっ、したわね」
当時を思い返した様子で笑うハンナ。
「でもすぐに受け入れたわ。オルトは昔から『俺は鬼人の子孫なんだ』って自慢してきたから。身体が大きいことで冗談を言っているのか、照れ隠しかと思っていたんだけど……生まれたロニールを見てとんでもない喜び方をしてね。色々と納得したのよね」
「え?信じてなかったのか?」
「実はね」
驚いた様子のオルトに、ハンナは笑いながら答えた。
仲良さげな両親に和みつつ、ロニールは新たな疑問を投げかける。
「鬼人って……どうなの?お父さんの様子から察するに、なんか凄い種族なの?」
「鬼人は凄いぞ」
オルトは揚々と答える。
「肉体派の極致のような存在だ。他の追随を許さない常識外れの身体能力。獣人に勝るとも劣らない五感。肉体は生半可な攻撃では傷も負わず、回復力も並外れ。絵に描いたようなフィジカルモンスターだ」
憧れかのように話す彼は、ひと呼吸置いて続ける。
「純粋な鬼人はかつての先祖ただひとりだから、いまや全て伝承だけどな!」
「へえ〜。聞く感じ、最高だね」
(最高の生まれじゃないか!遺伝子の宝くじ、大当たり)
父の話を聞いたロニールは、仕組んだかのように重なるアドバンテージに、内心感激した。
生まれの幸運。そして前世の記憶。しかし、と彼は考える。
全てが手中に収まるようには出来ていないのが人生というもの。いったい鬼人は、何を諦める必要があるのだろう。
「ところで、鬼人に出来ないこととか……不得意とすることは?」
彼は、鬼人の事情に詳しそうな父に聞いた。
「……魔法だ」
良いことばかりを聞いて調子に乗っても当然という状況で、即座に反面を探るように投げかけられた疑問に驚くオルト。
「鬼人は魔力の保有量が非常に少ないらしい。先祖は決め技として《身体強化》を短時間使うのみだったようだ。だから魔法使いの道となると……諦めざるを得ないだろう。しかし、戦いとなれば持ち前の身体能力があるし、魔道具も発達している現在は日常での不便もないだろう」
彼はロニールを真っ直ぐに見て言う。
「デメリットなど些細なことだ。得られるものの方が圧倒的に大きいと、俺は思うぞ。どんな道に進もうともな」
どんな道に進むか。どのような選択であっても、この家族は自分を応援してくれるのだろう、とロニールは思った。
(将来か……。どうであれ、鬼人としての強みは伸ばしていくし、前世の記憶を引き継いだ幸運も活かしていく。どんな道を進むにしても、筋肉はデカいほど良いし、フィジカルは強いほど良いんだから)
フィジカルは人生における大抵の問題を解決するのだ。たとえ異世界であろうとも。
この物語はフィクションであり、登場する人物、団体、組織名、世界は架空のものです。




