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デッドエンドストーリー 〜不死の勇者の死物語〜  作者: ガブ
第五章 「追憶編」

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第百十五話「拳」

 アインは憂鬱だった。


 リーベの操る馬車は荒れ果てた荒野を駆け抜け、振動がもろに伝わってくる。寝かされたリヴの体が小刻みに跳ね上がるたび、アインの眉毛も吊り上がる。ルルは気が気でないといった表情で赤いおさげ髪を手の先でくるくるといじり、ジークですら額に冷や汗を滲ませている。


「おい、もう少し丁寧にできないのか」


 リーベを刺激したくはなかったが、リヴが座席から転がり落ちそうになるとアインも黙ってはいられない。リヴの体を支えながら馬にまたがるリーベを睨みながら声をかけるが、かけられた本人はなぜそんな事を言われるのか分からないといった様子だ。


「なんだ、早速いちゃもんか? 大人しく座っていろ」


 振り向きこそしないが、眉毛をつり上げているのが容易に想像できる声色が返ってくると、チッと小さく舌打ちをして席に座り直すアイン。


「エーデルは優秀な騎手だったんだね」


 身体が揺れているせいで声も震えるジークに賛同するようにルルも小さく頷く。


「実際のところ、彼女のことはどうするつもりだい?」


 リーベに聞こえないようにアインに近づいて小声で話すジーク。


「あいつはあれでも軍人なんだろう? お前は何とかできないのか」


 ジークの大佐という地位でリーベを御することを期待するアインだったが、その期待を打ち砕くようにジークは首を横に振る。


「それは無理だよ。彼女がまだ軍に属しているなら命令することもできるけど、軍を去ったなら僕の言うことなんて何の効力もない」


 そうアインに告げながら、ジークは最近全く軍の活動をしていないことに気が付く。本来ならバルトーレでの騒動を収めたあとオルドと共に帝都に帰還するのが正しい選択だった。犯罪者を護送するのがオルド一人となれば尚更だ。アインと行く気満々だったジーク本人が言い出さなかったのはもちろんそうだが、オルドもジークに付いてきてほしいとは一言も言わなかった。


「僕、必要とされていないのかな」


 突然のジークのよどんだ言葉に、アインもルルも首をかしげる。


「何を言い出すんですか大佐。あなたが必要じゃないなんて思ったことは一度もないですよ」

「ルルの言うとおりだ。お前がいなければ俺はこうしてここにいない」


 何の含みもない素直な二人の気持ちを受けたジークは小さく笑う。


「ありがとう。そう言ってもらえると少しは心が晴れるよ」


 そうは言ってみたものの、職務を放棄して自分の意思を優先している事実に変わりはない。それでもジークに引き返すつもりは微塵もない。アインとリヴを助けたい、力になりたい。その気持ちのほうが遥かに大きかったからだ。



「気に食わないな」


 アインたちの和気あいあいとした気配を背中んで感じながら、リーベは苦虫を噛み潰したような顔をして小さくつぶやく。


「やっぱり殺しておけばよかった」


 消えてくれないアインの首の感触が残った手で馬の手綱を握りしめ、リーベはイライラをぶつけるように馬を強引に走らせていく。





「休憩だ」


 日が暮れ始め、辺りに赤みがさし始めた頃、リーベはそう告げて馬を止める。いつの間にか草原と荒野を抜け、一行は洞窟らしき入り口に到達していた。

 

「いやぁ、すっかり体が固くなってしまったよ」


 腰を押さえながらジークが馬車から出てくる。リーベの大胆な操縦は彼の体中を隅々まで刺激し、ジークは激戦の後のような疲労感に苛まれていた。


「私の方がまともにできるんじゃないでしょうか」


 ジークに続くルルも顔に疲れが見えている。苦言を呈した所をリーベに睨まれてしまい、そそくさとジークの影に隠れる。


 数時間の間リヴがダメージを負わないように支え続けたアインにも相当の疲れが溜まっており、アインは馬車から降りずにそのまま馬車の中で一息つく。


「……それで、お前たちは何をしているんだ?」


 馬を木に繋いで休ませたリーベは、地面に腰掛けて体を伸ばすジークとルルを見下ろしながらそう告げると、どこから取り出したのか瓶と鞄を二人に投げつけた。


「ちょっと……!」


 投げつけられた物から身をかわすルル。だがその後ろにいたジークは、ルルが影になっていたためリーベの投げた瓶が後頭部に直撃してしまう。


「あいた」


 鈍い音とジークの小さな悲鳴にルルが振り返ると、ジークの金髪に滲む赤い染みに彼女の目が大きく見開かれる。


「大佐!!」

「大丈夫だよ。かすり傷さ」


 ルルは慌ててジークの頭に手を当て、傷の具合を確かめ始める。幸い見た目ほど傷口は大きくなく、ジークも飄々としている。


「ふん、どんくさい奴だ」


 ジークの出血に多少顔をしかめたリーベだったが、大事がない事がわかると二人を置いてどこかへと行こうとする。たが当然リーベのそんな態度をルルは見過ごさない。


「いい加減にしてください! 私たちに文句があるのは分かりますが、一緒に行動するなら少しは歩み寄ったらどうなんですか!?」


 ルルの反撃に対して一瞬体が硬直するものの、リーベも黙ってはいない。


「歩み寄る? 何を勘違いしているんだ。私はお前たちの仲間じゃない。同行者でもない。監視者だ。文句があるなら暴力で解決したらどうだ? アルトラ様たちにしたように」


 言葉がルルの心の芯に突き刺さる。が、ここで引いてしまったらこの先もずっとリーベとの関係はこのままだ。そしてきっとリーベはリヴが目覚めたらリヴを傷つけるだろう。


「そんなのっ……」


 許せない。

 手を出すことが解決にならないのは分かっている。関係がもっと悪化するのも分かっている。でも自分たちがリヴにしたことを棚に上げて被害者面しているリーベに対しての怒りを抑えることは出来ない。


「二人とも落ち着いて。僕は何ともないから」


 二人の仲裁に入ろうとジークが駆け寄ってくるが、ポタポタと頭から流れ落ちる血がルルの怒りをより一層掻き立てる。

 ルルはジークの血がこびり付いた拳を強く握りしめる。

 


 ガコッ!


 次の瞬間、ルルの拳はリーベの頬を完璧にとらえ、リーベは受け身を取ることすらできず地面に倒れ込んだ。

 

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