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カフェオレ  作者: ヤマト〆
第2章 共に
9/19

その記憶は

「さてさて…取り敢えず説明は終えた。ここで、これより交渉に入ろうと思う」


「な!?金を請求するのか!?」


カイルの意味深な発言にアレンは慌てふためく。もしかすると莫大なお金を取られるのかもしれない。


だが、それはとんだ勘違いだった。


「違う違う。俺達とお前等二人に価値がある交渉だよ」


そう、前置きして、カイルは続けた。


「ステラ、俺達は君の記憶探しの手伝いをしよう。その代わり、俺達の仕事を手伝ってくれないか?」


「俺達の仕事って探検家の!?」


カイルの交渉に、先程まで怪しげな表情だったアレンが好奇心満々な顔に変化する。


今骨を投げたら口に咥えて取ってきそうだ。


「まあ、そう急くなよ。ステラの答えはまだだぜ?」


「記憶探し…考えてなかった…」


ステラは素直に驚いていた。記憶を取り戻す__そんな事考えてみても無かったからだ。


「俺達はきっとステラの役に立つはずだ。どうだ?この話、乗ってみないか?」


ステラはそっとアレン横目で見た。するとアレンは満面の笑みで笑った。


その笑みで、答えはもう既に出ていると訴えかけるように。


「分かった。その話乗ってみます」


「よし!そうこなくちゃな!」


「ステラ!俺も出来る限り力になってやる!」


アレンは任せろと胸を張って拳を胸に置いてポーズを決める。その絵面にステラはそっと笑う。


けれど同時に、不気味な程の寒気が襲っているのも事実だった。


(大丈夫…だよね?)


胸の内から溢れるその寒気の正体は見当もつかない。それどころか、増す一方だ。


「どうしたステラ?体調悪いのか?汗が凄い気がするけど?」


「…大丈夫。ただ、少し不安なだけ」


鳴り止まない心臓の鼓動を感じる。ステラは胸に手を当てて、落ち着けと、心に言い聞かせる。


「ステラ」


「え__」


急に、そっとその手が上から覆い被さるように握られた。


温かい__ステラはそう感じた。


「安心しろ。俺が必ずどうにかする。どうにかしてみせるから…ってどうにかするって言ってばっかだな…」


照れたように片手を頭の後ろに持って行くアレンの顔は少し赤い。


「大した事は言えないけど…取り戻そうな、記憶」


「…うん!」


ステラは少し目尻に何かが溜まったのを感じた。こんな確信のない言葉で揺らいでしまう程、ステラの心は崩れそうだったのだと自ら思う。


「ありがとう」


いつの間にか__心臓の鼓動は収まっていた。




「いやぁ、お熱いですねぇゼロ奥様」


「そうですわね愛らしい愛らしい」


そんな二人を奥様の痴話を再現するようにして、カイルとゼロがおほほほほと笑う。


まあゼロの表情は何一つ変わってないが。


「あ、いや…バカにすんな!」


「そんな事ねーよ。ただ初々しいなぁって思っただけだよ」


少しだけ、少しだけ哀愁漂わせるカイルに、アレンはある疑問をぶつけた。


「え、カイルさんって彼女いないんですが?」


「え!?あ、あぁ…まあな」


アレンの当然であれば当然の質問に、カイルは一瞬ギョッと目を丸くしながらも、軽くあしらった。


「つーかカイルでいいよ。まあ取り敢えずその話は置いといて、ステラの話をもっと詰めよう」


「俺もゼロでいいぞ。さっさと終わらせて寝よう。眠くなってきた」


ゼロは欠伸を一つして、眠そうに目を擦る。そんな人間味ある姿を見て、アレンは少し安心しつつ、話を戻す事にした。


「記憶を取り戻すって言ったけど、具体的にどうするんだ?」


口では簡単に言えるが、策を講じるとなると中々難しい。


記憶を司る脳は、現代でもまだ分かっていない部分が多い。なので、専門の人に委ねるという策は上策ではない。


「それはもう考えてある。魔女の故郷__ローズランド、ここに行くしか方法はない」


「ローズランド…」


ステラは呟くように言った。どこかで聞いた事あるような言葉は、心中をざわつかせる。


「記憶が無くなったというのにも、種類がある。脳への強い衝撃で無くなったのか、それとも魔法によって消されたのか」


「魔法で消す事も出来んのか!?」


「あぁ出来る。禁術ではあるけどな。でもその禁術なら禁術で対処法はある。それは過去と交わりが深い所への強い干渉だ」


「だから魔女の国に行くのか…ステラはそれで大丈夫なのか?」


アレンは恐る恐るステラを見る。だが、彼女の顔は曇っていなかった。それどころかそれはまるで__


「行きたい…行ってみたいの。私の故郷に。そこで何か掴めるかは分かんないけど…」


最後は少し弱気なステラだったが、カイルは文句無し、と言った表情を浮かべる。相変わらずゼロの表情は変わらないが。


「記憶探しに故郷へ。これで決まりだな」


方針は決まった。だが、問題がある。


「問題はどうやって行くかなんだよなぁ…」


「え、場所知ってるんじゃないのか?」


カイルの口調から、場所は把握しているものかとアレンは思っていたが、どうやら違うらしい。


「俺達は結構色んな所を旅しに行くから、大抵の場所は知ってる。勿論、魔女の国がどこにあるかなんて噂は聞いた事ある」


「じゃあそこに行けば良いんじゃないか?」


単純明解な話だ。


「それがどうにも噂が噂を呼んでるのか、定まらないんだよ。噂は沢山聞いたんだけど、どれもバラバラなんだ。一つの場所に落ち着かないんだ」


「そういう事か…」


カイルによるならば、移動しているんじゃないかという説に辿り着いているらしい。


だが、それでは探しようがない。


どうにも手詰まりそうな雰囲気を醸し出した時__


「はぁーいお待たせぇーウチの自慢のお酒“驚い鷹”だ。良いネーミングセンスしてるだろう?」


ここの店主らしき人が捩り鉢巻きを額に巻き付け笑い飛ばしながら扉を開けて入ってきた。


それを見てカイルが不思議そうにすると、その店主らしき人は言った。


「辛気臭ぇ顔してるからサービスだ。何悩んでるか知んねーけど、これ呑んで全部忘れとけ。まだまだ、人生これから何だしな!」


鼻の下から伸びているピンとした髭を触りながら、まるで慰めてくれているような、ほっこりした感じがした。


「まあ確かに今ここでひたすら考えるより、間を取るってのも大事だ。てな訳で、ここから交友を深めるために、じゃんじゃん呑むぞー!!」


「お、おぉ!!」


「やったー!」


話は主にカイルとゼロの冒険の話だった。酒も入っているため、どこむでが本当でどこまでが嘘なのか見当もつかないが、こんなに楽しい夜は無いと、アレンはそう思った。


こうして夜が更け__







***


今日は満月だった。丸々と太ったその塊が、星達と共にぽっかりと浮かんでいる。


アレン達はそれぞれ宿を借りて寝る事にしたのだが、経費削減のため、アレンとステラは一つの部屋で泊まる事になった。


ベットは二つだったので、ステラはあまり気にしてなさそうだったが、アレンはそれでも少し寝るのに時間が掛かった。


そんな深夜__アレンはふと目が覚めた。


物音を立てないようにのそりと起きると、ステラが隣のベットに居ないことに気づく。


「あれ…?」


辺りを見渡しても、ステラの姿は無い。この宿にある温泉という事も考えたがこの時間は閉まっている。


アレンはベットから出ると、部屋の戸を開けた。


眩しさに目を細めながら、当てもなく歩いていく。


ついでに横の部屋で寝ているカイルとゼロの姿でも見に行こうかと思ったが、何となく嫌な予感がして止めた。


このまま歩いても仕方ない__そう思った時、上に続く階段を見つけた。


「ここって最上階じゃなかったっけ?まあ、二階なんだけど…」


ここの宿は二階建てだ。この上にあるのは多分、屋上か何かに繋がっているのだろう。


「行ってみるか…」


好奇心もあり、アレンはその階段を上って行った。


階段を登りきると取っ手がついた扉があり、外が少しボヤけているが見える。


やはり屋上のようだ。


アレンはゆっくり扉を開けると、冷たくひんやりした風が髪をなびかせ、アレンは身震いする。


まだ、夜になると冷え込む季節だ。アレンはそう思いながら扉を全開にした。


「…誰もいないな」


扉を開けた先__灰色のタイルで埋め尽くされたその屋上に、人影は無い。


「ここじゃないのか…?」


「____」


その時、何かが耳に聞こえてきて、アレンはパッと後ろを見た。そこには鉄格子があり、上に登れるようになっている。


アレンはそこには手をかけ、ゆっくりと音を立てないように登っていく。


「____」


女性の歌声だ。聞いたことのある声。


「ステラ…」


「わ!!ビックリした!!」


ビクッと体を震わせて、ステラは目をパチクリさせながら鉄格子から顔を覗かせてるアレンを見た。


「もしかして…き…聞いてた?」


「え?あ、あぁ…まぁ…」


アレンは目を泳がせながら頬をポリポリと掻く。少し顔が赤くなった気もするが、暗がりで見えることはない。


「ふふ…そんなとこに居ないでこっち来る?」


「あ、あぁそうだな」


アレンは鉄格子を登りきり、ステラの横に腰を下ろす。


「今のはね…殆ど残ってない記憶の中の唯一覚えてた歌なんだ。何か歌いたくなって、ここに来たの」


「そっか…なんか邪魔して悪かったな」


「いや…そんな事ないよ。ビックリはしたけどね」


クスリと笑うステラは夜空に映えた。少しミステリアスな彼女にぴったりの背景だ。


「なぁ…もう一度歌ってくれないか?あんまし遠くからだと聞こえなくて…」


「え…人前で歌った事なんて殆ど無いんだけど…」


少し困った顔をして、アレンは取り止めようと声を発しかけたその時__


「いいよ。助けてくれたお礼ね」


和かに笑って、喉の調整を始めた。ほんのりと顔が赤く見えるのは、気のせいではないのかもしれない。


「行くよ__」


少し緊張した面持ちで、彼女は歌い始めた。


それは綺麗に、華やかに、この夜空を豪華に装飾して行くようだった。


アレンは何も言わず聞いていた__夜空に映える可憐な少女を横目に。


「どうだった?」


「え?あ、あぁ…良かった凄く良かったよ」


「…本当に?嘘ついてない?」


「いや、これ本当だから!嘘なんてつくわけない!」


アレンは少し眉間に皺を寄せているステラを見て、慌てふためく。そんな調子のアレンを見て、ステラは笑う。


「そろそろ戻ろっか?風邪引いちゃうよこんな場所居たら」


「確かにそうだな」


こうしてアレンとステラは部屋に戻って行った。




__その頃、付近の屋根の上では。


「いやぁ、どうなるんだろうねぇゼロ?」


「何がだ?」


「あの二人が予言の子なのかって事だよ」


「まあ、そうとも限らないし、そうかもしれない。どちらにしろ、探っていくんだろう?」


「まぁな。危険な事に無関係な人間を巻き込むつもりはねぇしな。アイナの為にもな」


悔しそうに__彼は言った。


「黄昏の方程式を見つけ出すまでは、死んでも死に切れねぇよ」





こうして夜は終わり、朝日は巡る。



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