花園は
最初の攻撃は黒魔女初号の攻撃だ。以下は原本が初号、右が一号、左が二号と略す。
初号の攻撃は単調で、ステラ目掛けて突進してくるのみだ。
これなら避けれるとタカを括ったステラだったが、完全にそれが罠だった。
「きゃ!!」
ステラが跳んで避けたその先に、一号が待ち構えていた。その後ろには二号が待ち構えており、ステラは挟み撃ちにされたのだ。
ステラは一号二号に舐められるように回りを旋回され、挙句、その黒い筒に絡み取られるように縛り上げられてしまった。
「う…!!」
黒い筒で締め上げられた体は、苦痛と閉塞感で満たされる。気を抜くと気絶してしまいそうだ。
「サァテイタダクゾ」
初号が若干言葉をうわずらせながら、舌で唇を舐め回す。その顔に、感情は見えてこない。
(死ぬ…のかな…)
ステラは迫り来る死に対して、泣き喚くことはしたくない。一度は死ぬと決めてしまった身だ。
ここで泣き叫んで命乞いは格好悪いにも程がある。
「…ほうよ」
「__!?」
また、何処からか声が聞こえた。薄れゆく意識で周りを見渡しても、何も見つけられない。
「魔法を放ちなさい」
「__!!」
今度はハッキリと聞こえた。そして、否応無しにステラは魔法を唱えようとした。
「__爆発…しろ!!」
手に力を込めて、ステラは途切れ途切れに叫んだ。
「ナニヲ…?」
その直後、ステラの手から熱い何かを感じた。だが、感じたのも束の間、それは激しい爆発を起こし、黒い筒を木っ端微塵に破壊した。
「きゃあ!!!」
爆発の衝撃と地面に強く叩きつけられた衝撃の二つに襲われ、ステラは地面にうつ伏せになりながら咳込んだ。
出来た。魔法という物を始めて使った。
無論、それは記憶を無くした後の話で、記憶を無くす前は使っていたのかもしれないが、それは置いておく。
「オ、オノレ…」
花と上半身を繋ぐ黒い筒を破壊され、黒魔女は動けなくなっていた。
「これで…終わりよ」
もう一度先程の力を込めて、今度は黒魔女の眼の前で、それを爆発させた。
先程よりも小規模であったが、そこには黒い灰しか残っておらず、それもフワリとした風に乗って消えていった。
「はぁ…はぁぁぁぁ〜」
途端に、体の力が全部抜けた。
倒したのだ、ステラはあの変な怪物を。人間ざる何かを。
これにすっかり安堵して、ステラはその場に座り込んだ。こんなにも全身の力が抜けるのは初めてだ。
ステラはそこで暫くボーッとした後、この花園を歩くことにした。
まだ、ステラは入って直ぐの所しか見ていない。それに、後ろの扉は未だ閉まりっぱなしだ。
前に進むしか策はない。
ステラが一歩一歩前へ踏み出していると、何やら異変を感じた。
「はぁ…はぁ…身体が重い…」
先程からヤケに体が重く感じる。何が原因なのだろうかと思考していると、直ぐに答えは出た。
魔法を使ったから、これしかない。
魔力を使うのがこんなにも力を使うなんて思ってもみなかったと、ステラは思う。
どうか、これは初回だったからこんなに体が重いのだと教えて欲しい。
これがもし普通だとしたなら、世の魔法使いは相当身体が強く出来てるに違いない。
そんな事を考えた後__視界が揺らいだ。
「え…!?」
ステラは立てなくなるほどの歪みを感じて、その場に一度立ち止まった。何かが変だ。
最初、体に来ていた疲労が頭に行き、視界を揺らがせたのかと思ったが、それは間違いだった。
ステラの視界を揺らがせた原因は、地面にある。
「な…!!」
ステラの足元から急に隆起してくる地面は、まるで生物かのように動いている。
ステラは慌ててそこから移動すると、その隆起はどんどん高くなり、次第に近くの薔薇を巻き込み、更に更に大きくなっていった。
「まさか…これ全部が黒魔女なの!?」
近くにある薔薇を巻き込みながらどんどん肥大化してくるそれは、明らかに自然的になるものではない。
どう考えてもこれは、人工的な事柄によって引き起こされてる超常現象だ。
どんどん肥大化していくそれは、やがて人の形を成していった。
だが、その体躯はまるで影のように黒く、髪すらも黒く染め上げられていた。
これを一言で言うならば、亜人と言うべきだろう。顔も黒で覆われてはいるが、凹みによって顔のパーツの部分が薄っすら分かるようにはなっている。
「アァアアア!!」
声にすらならない叫びが一つ放たれ、それは一歩一歩歩き出す。
歩き出すとは言え、地面から離れてる訳ではなく、くっ付いたまま滑ると言った表現の方が正しいのかもしれない。
ステラは自分の五倍はあるであろう大きな体躯を見て、硬直した。
何をすれば良いのか、何をしなければならないのか、逃げればいいのか、戦えばいいのか。
思考が動いてるようで停止しているような感覚に陥り、ステラは頭が真っ白になった。
「たす…けて…」
思わず溢れたその吐息のような声に、誰かの反応はない。
その間にも、黒魔女は近づいてくる。しかと拳を握りしめながら。
「たすけて…」
鼓動が速くなる。もう、黒魔女は目の前だ。
手が振りかざされた。
「たすけて…!アレン!」
搾り取るように叫んだその声と同時に、無残にもその拳は振り下ろされる。
「____」
短いようで長い沈黙が続き、ステラはふと目を開けた。
目の前にいるのは、白く大きな翼が生えた黒髪の青年だった。この姿は、以前に見たことがある。
思わずステラは涙を溢した。
「アレン…!?アレンなの!?」
目の前にいるのはアレンで間違いない。それ以外の何物でもない。
「おう!ステラ!危なかったな!」
此方にくるりと首を向かせ、アレンは笑った。その手には、刀が握られている。そしてその近くに真っ黒い何かが落ちていた。
「オ…オオオォ!!!!!」
その叫びで、黒魔女の方を見ると、片方の腕が、半分から下が根こそぎ切断されていた。
「大丈夫かステラ!?体がボロボロだぞ!?」
「あ、うん大丈夫。自爆みたいなものだし…それよりどうしてここに…?」
「あ、あぁ。ちょっと色々な」
アレンは苦笑いして、斜め上に視線を向けた。
ステラもそれに乗じてその方角を向くと、そこには箒に跨った誰かがそこにいた。
きっとあの人に連れてきて貰ったのだろうが、どういう風な経緯でこうなったのか理解ができない。
「つーかそれよりあれなんだよ!?人間…な訳ねーだろうけど」
「多分、元人間だよ。正確にいうと、重罪を犯した魔女の行く末って感じかな」
その言葉に、アレンはあまり驚かなかった。逆に冷静になり、落ち着いたように見えた。
それがどうしてなのか、ステラは何故か聞けなかった。
「そうか…そういうことか。よーく分かった。反吐がでるなおい」
「一体どういう…」
「ステラ__あれはお前の母親だ」
嫌な風が吹いた。そして、嫌な汗が滲んでくる。この汗は、何の汗なのかステラ自身分からない。
聞きたいようで、聞きたくなかった。そんな言葉がいきなりステラに舞い降りたのだ。
「混乱するよなそりゃあ。だから俺が、取り戻してやるよ」
「え…?」
ステラが困惑している最中、アレンは刀を鞘に収め、無手となった。
「一体何をするの…?」
「まあ見てなって」
アレンはそう言って、一つ呟いた。
「来い、白弓」
刹那__光と共にアレンの手に握られたのは、真っ白い弓だ。汚れ一つないそれは、白なのに輝きを放つ黄金のようにも見える。
「これって__」
「ヤァァァア!!!」
疑問を引き裂かれ、大人しかった黒魔女がまたもや暴れだした。
「ステラはそこで見てろ」
「え…でも…」
「必ず、ステラの母親は救ってみせるから」
「__うん。分かった」
言い返せない。だってアレンはそれを信じて疑わない、そんな瞳をしているから。
全部任せろと訴えかけてくるならば、全部投げ出す勇気が必要になる。
これはそう、信頼だ。
あの日を境に、ステラは彼を信じると決めていた。今がその時だ。
「任せたよ」
「あぁ」
一言頷いて、彼は宙を舞った。
その姿はまるで天からの遣いのようで、眩しく、彼女の瞳に焼き付くのだった。




