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カフェオレ  作者: ヤマト〆
第2章 共に
14/19

父親とは

「いやぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ザクッ!ドカッ!ドン!


森の木で傷を負い、地面に体を酷く打ち付けて、ステラはいきなりボロボロの体になった。


「何なのよもう!!」


今や箒が恨めしい。ステラは睨みつけながら近くに落ちていた箒を睨みつける。


すると、ある事に気付く。


「え…折れてる…」


何と箒の柄の部分がポッキリと真ん中から綺麗に折れているのだ。


「ど、どうしよう…これって直るのかな?」


箒の柄の中は普通の木材に見えるが、もしかすると違うものかもしれないし、直すのに多額のお金がかかってしまう高級なものかもしれない。


「考えててもしょうがないか…取り敢えず戻さなきゃ」


「戻れ…箒…」


先程の恥ずかしさが出てきて、今度は小声で言ってみた。


すると今度は時間差も無く、その箒はすうっとまるで幻のように直ぐ消えた。


「便利ねこれ…」


なんて感心しつつ、ステラは辺りを見渡す。


見渡す限り森。これは最初四人で地面に降りた時と変わらない。


「そう言えば皆大丈夫かな…?いきなり殺されたりなんてしないよね…?」


バタバタして心配するのを忘れていたが、今になってどうなったか気になり始める。


もし仮に処刑になって、三人にもしもの事があった場合、ステラはどうすればいいのか。


そんなものは簡単なこと。自分も死ねばいいのだ。これが最大の贖罪だと、ステラは思っているから。


「早く済ませなきゃね」


ステラの目に迷いは消えた。


ステラはポケットにあった地図を取り出すと、広げて位置を確認する。


そこである事に気づく。


「え…もしかして…」


その古ぼけた地図は大雑把だが、場所は分かりやすく書かれている。赤いバツ印が書かれたその目的地は、今いる場所から遠くない。


寧ろ、場所の把握が間違っていなければ、恐らく__


「あれ…?」


ステラは遠くに、見慣れぬ物がある事に気付いた。


先程パッと見たときは分からなかったが、遠くに黒いの門のような物が見える。


「あれかな…?」


位置的にも申し分ない。もしかすると、あれが家に入る入り口なのかもしれない。


ステラは取り敢えずそこに行ってみる事に。遠くでは分からなかったが、この扉はかなり大きい。ステラの三倍位の大きさはある。


首を上げなければ上が見えない程だ。


「何だか不気味な趣味してるわね…私の父親ってこういう趣味なのかな…?」


真っ黒い不気味な門を見て、ステラは少し自分の父親に不安になる。


それに、それは唯の門ではない。門には薔薇が美しく彫られており、門の上辺には数センチ程の黒い槍の様な鋭く尖った物が横一列に取り付けられてある。


「ハイセンスにも程があるわね…」


いまいち理解できない装飾に首を傾げながらも、ステラはゆっくりとその扉を開けた。


その先には__薔薇があった。


「嘘でしょ…何これ…!」


声が出ないとは正にこの事だ。


扉を開けた先には、沢山の色とりどりの薔薇が咲き乱れていた。


咲き乱れているならまだ良い。薔薇が咲き乱れているなんてとても美しい光景だ。一望できて嬉しいという感情はあっても、恐怖は出てこないだろう。


ステラの絶句は、恐怖の方でだ。


嬉しさなど一ミリたりともそこに存在していない。


何故なら__


「大きすぎる…でしょ…」


今のステラの二倍ほど大きいからだ。


先程の扉よりは少し低いが、それでもかなり大きい。これではゆっくり眺めたいとも思えない。


「何でこんな大きく…品種改良でもしたのかな…?それにしても悪趣味!!」


ステラが思い描いていた父親の理想像とはかけ離れた異質な趣味。自分の父親はいつもこの大きすぎる薔薇の群れを手入れしているのかと思うと笑えない。


「イヒヒ…」


「え…?」


何か、くぐもった声がステラの耳に届いた。ステラは周りを見渡すが、誰も居なければ気配もない。


「何…怖い…」


感情を口から吐露して、ステラは一歩一歩後ろへと下がっていく。


刹那__開けっ放しだった扉はガシャンと大きな音を立てて閉まり、鍵が掛かった。


「嘘でしょ…?」


怖い。


ステラはその感情に苛まれながら、不自然に閉められたかぎをこじ開けようとするが、その錠は固く、開けられる気配はない。


「何これ何これ何これ…!」


薄気味悪い雰囲気がどんどんステラを包み込んでいく。


だから気付かないのだ。


ステラの背で流動する漆黒の薔薇の姿に。


「イヒヒ…!」


「え…!」


ステラが後ろを向いた瞬間、その黒い薔薇は一気にその花弁と茎を揺らし、何かを吐き出すような動きを始める。


すると、その薔薇の花弁の奥から真っ黒い何かが、ニョキニョキと生えてくるように飛び出してくる。


それは徐々に顔、首、胸とニョキニョキと姿を現し始め、上半身が剥き出しになった所で止まる。


「嘘でしょ…?」


その全てが真っ黒の人に似た“何か”は、色付き始めた。


髪は桜色に、肌は人間同様肌色に、唇は淡いピンク色に変化していく。


唯一違うのは目だ。その目には瞳孔が無い。ただひたすら黒で塗りつぶされている。


ステラの見開かれた瞳孔に、彼女は笑った。真っ白い歯を妖しく見せながら。


「ショクジ…キタ」


「っ…!」


急に強烈な脳の痛みが迸り、ステラは顔を歪める。脳を手で掴まれて揺さぶられているような感覚に苛まれ、平衡感覚を失い、ステラは地面に座り込む。


「一体何なのよこれは…!」


激しい船酔いに似たその感覚は、ステラの立ち上がる気力を失わせる。


「ス…ラ…」


「__!!」


一瞬誰かに呼ばれた気がして、ステラは俯いた顔を上げた。けれど、周りを見渡してもその声の主らしき人物はいない。


だが、ステラはその声のお陰なのか分からないが、少し落ち着いた。


まだ頭がくらくらするが、先程よりは大分マシになった。


そして、ここの状況を少し整理してみる事にした。


現在、ステラがいるのはこの魔女の国から上を見下ろして北東の辺りだ。ここに来たのは魔女の館で会った大婆と呼ばれる魔女の長らしき人物。


その大婆に言われてここに来たものの、大きすぎる薔薇の花や、ましてや人がその中から出てくるという異常事態。


今現在、父親らしき人影は無し。というより、まず普通の人にすら会っていない。


この事実を鑑みるに、ステラはある結論を出す。


「騙された。これが一番正しい解釈なのかな」


あの大婆とやらに一本取られたのだ。何故そうしたかは分からないが、そう考えないと辻褄が合わない。


それともう一つ。何故、ここに連れて来たのか。


単に殺そうとするだけなら此処じゃなくても良いはずだ。言うならば、館の中でも良かった筈だ。


ここが処刑台ならともかく、よく分からない花園に連れてこられたのだから、大婆の意図はまだ分からない。


となるとやる事は一つ。


「ねぇ…貴方は何者なの?」


首を上げて、その目線の先にいる動かない上半身だけ花から出ている女性を見つめる。


こうなったら、人でも何でも情報を聞き出すしかない。


「フフ…ワタシハクロマジョ。アワレナマジョヨ」


「黒魔女ですって…!?」


ステラはその名を知っている。黒魔女とは、俗に言う犯罪を犯した魔女に送られる忌み名だ。


単に犯罪を犯したと言っても、その罪の名や罰の重さはピンからキリまであるだろう。


その中で一番黒魔女として扱われる罪は、同族殺しだ。


要は身内を殺したり、仲間を殺したりすれは、問答無用で黒魔女認定される。


そして黒魔女に認定された魔女には二つの生き方がある。


一つは一生牢獄の中にいること。死ぬまで一生牢獄だ。一見、終身刑と変わらないが、大いに変わってる部分が一つある。


それは食事が与えられないこと。これは、死刑より残酷な死刑宣告でもあるのだ。


そしてもう一つが、人為変態。謂わば人ならざる者に姿を変えてしまうこと。


この刑は余りに重い罪を働いた者にしか言い渡されない処刑宣告だ。


人を人で無くす。これは、この世界の秩序にとっては例外中の例外である。差し迫れば背徳だ。


神によって与えられたその命を違う物に変えるのだから、これは神の反逆だと捉えられてもおかしく無い。


そう__おかしく無い筈なのに。


「一体…何をしたの?そんな姿に変えられてまでした事は何だったのよ…?」


「____」


黒魔女は答えない。ただ沈黙するだけだ。


「答えなさいよ!一体貴方は…何をしたかったのよ!!」


先程の怖さは、怒りに上書きされてどこかに消し飛んだ。体が熱い。


「カンケイナイ…オマエニハ!!カンケイナイ!!」


突然、黒魔女は叫び出して、体をぐねぐね捩らせた。それに呼応して、花自体も左右に動く。


そして、それが止んだと思うと、彼女は此方を凝視し、赤い舌を出して唇をペロリと舐めた。


「オマエヲ…クウ!!」


すると、今度は花の中から手が出てきた。悪魔のように長いその爪は、この際刃物と言っても過言では無い。


それを上に掲げ、彼女は飛び上がった。


彼女には下半身は無かった。あるのは花弁と上半身を繋ぐ真っ黒い筒状の何かのみだ。


それをバネのように利用して、此方に猛進した。


「きゃ!!」


ステラが間一髪跳んで避けると、黒魔女はそこに激突し、凄まじい砂嵐を巻き起こした。


「イヒヒヒヒ!!」


砂煙の中から、楽しそうな笑い声が聞こえてくる。


ステラは、その声に肝を冷やしながら、砂嵐の中を見つめる。


すると、砂嵐から飛び出るように黒魔女は“走って”きた。


勿論、足が付いた訳ではない。爪を地面に叩きつけて、その体を移動させているのだ。この場合、這うと言った方が正しいかもしれない。


「ニゲルナ…!」


黒魔女は地面に深々と刻印を刻みながら、ステラ目掛け猛進してくる。


ステラはその単調さに安堵しながらも、この展開をどう変えていくか四苦八苦している。


思考しているのかしてないのか定かでは無いが、先程から攻撃は直進だけなので、避けるのは容易い。


けれど、このままでは埒があかないのも事実で、その打開策が見えてこないのだ。


取り敢えずここは様子を見て__


「ニガサナイ…ニガサナイ!!」


突如、黒魔女の顔が恐ろしく変容した。顔に筋を浮かべて、口から出る八重歯というには余りに鋭い歯をギラつかせながら、彼女は突然動きを止めた。


一体何をするのかと、考えるより先に黒魔女が動く。


__黒魔女は分裂した。


花と上半身を繋ぐ真っ黒い筒から、横に二本何かが飛び出してこようとするかのように伸びた。


それは一本の棒から姿を変えて、もう一つの体を作り上げた。それは逆に伸びた棒にも然りだ。



要は原本合わせて計三つの上半身黒魔女が出来上がった訳だ。


ステラは唖然としながら宙にニョロニョロと浮かぶ三つの上半身を見つめる。


「イクゾ」


三つの声が木霊して、重なり合いながらステラの耳を刺激する。こんな所、早く抜け出したい。










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