第二十四話「誘い」
並んで拠点へ戻る道すがら、私たちは互いに歩調を合わせて歩いた。
肩が触れそうで触れない。
けれど、もうそこに「距離」はない。
天幕が見えたところで、ジュジュさんと鉢合わせた。
私たちの姿を順番に見た彼女は、にやりと笑った。
「なんだ。いい顔になったじゃん」
リンは小さく、でも確かに頷いた。
私は、深く息を吸ってから答える。
「ごめん、ジュジュさん。もう大丈夫」
その言葉に、ジュジュさんは目を細めた。
「ふふっ。面白くなりそ」
その瞬間、通信石が淡く光った。
『全員、天幕に集まってください』
レスさんの声が聞こえる。
私とリンは視線を合わせ、同時に頷いた。
◇ ◇ ◇
天幕内に全員が揃うと、自然と空気が引き締まる。
レスさんは静かに全体を見渡し、口を開いた。
「第三層で発見された縦穴により、第五層には強大なモンスターが存在する可能性が高まりました」
レスさんは一拍置いてから、再度口を開く。
「想定討伐難易度は、最低でもAランク中位」
その言葉に、天幕内に緊張が満ちる。
だが、レスさんは揺るがない声で続けた。
「ですが、我々は進まねばなりません。この国の人々のために——ひいては、自らと……その守るべきもののために」
視線が、一人ひとりに向けられる。
「ここが正念場です。各員、覚悟を持って臨んでください」
「はい!」
短い返事が重なった。
◇ ◇ ◇
自然の光の無い第四層は、異様なほど静かだった。
事象が起きていないのはこれまでと同様だが——
「……何もいないじゃん」
ジュジュさんの言う通り、モンスターの気配すらない。
足音も呼吸音も聞こえず、ジュジュさんの索敵スキルにも引っかからない。
静かすぎる。
それが、何より不気味だった。
やがて、私たちは一体のモンスターにも遭遇することなく最奥にたどり着く。
「……なに、これ」
そこには、重厚な石の扉が鎮座していた。
古い意匠。けれど、傷一つない。
「いかにもって感じだね〜」
鼻で笑いながら、ジュジュさんが扉へと近づく。
そして扉に触れると——数瞬の後、眉をひそめた。
「……索敵できない」
「スキルが使えないの?」
「いや、扉に遮断されてる感じ」
地図上では、この先が第五層。
雰囲気からしても、この先が核心だと誰もが理解していた。
私は通信石を起動する。
「レスさん。第四層最奥で、巨大な扉を——」
その瞬間。
ザザ、と耳障りな音が走った。
『……ノイズが——』
レスさんの言葉が途切れる。
直後——背後から轟音が鳴り響き、洞窟が震えた。
振り返ると、今通ってきた通路が瓦礫に埋もれていた。
そして——重く、軋む音。
目の前の扉が、ゆっくりと内側へ開いていく。
冷たい空気が流れ出す。
明らかな「誘い」。
「ははっ。黒幕さんは、随分と演出家じゃん」
口調は軽く、しかし、鋭く目を細めながらジュジュさんは続ける。
「……舐められたものだね」
低くそう呟いた後、くるりとこちらを振り返った。
「行くしかないっしょ?」
その言葉に、リンも静かに前へ出た。
「……うん」
そしてリンは振り返り、私を見つめた。
その視線につられるように、全員が私を見据える。
私は、深く息を吸った。
……この場には二人の勇者がいる。
それでもなお、罠を仕掛けてくるということは——それだけの自信があるということ。
危険度は、最高レベル。
——でも。
ここで後ろを向けば、背後から襲われる可能性もある。
それに、レスさんはきっともう動いている。
そして、これが黒幕の誘導なら——この先には、黒幕へ繋がる何かがある可能性が高い。
……危険は大きい。
だが——価値もまた、大きい。
私はゆっくり息を吐き出し、闇に沈む扉の向こうを見据える。
「……行こう」
短く、そう答えた。
リンが頷き、ジュジュさんが笑う。
「よしきた」
千紫万紅のメンバーたちが、武器を構える。
私は再度通信石に手をかけた。
レスさんへは通じなかったが、リンとジュジュさんの通信石は反応を返した。
「……距離が近ければ、使えるみたい」
私の確認に、リンとジュジュさんが頷いた。
そして、私たちは一歩を踏み出す。
——第五層へ。




