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土埃と砂塵を大量に含んだ突風が、ひなたを襲う。目を開けていられないほどの強風はわずかに熱を帯びており、風の中に混じる細かい塵の感覚が、肌や髪越しにひしひしと伝わる。痛みこそ感じなかったが、ひなたには言葉にできないほどの不快感があった。
土煙に呑まれてから十秒ほどが経っただろうか。顔に風が吹き付ける感覚が収まり、ひなたはおそるおそる目を開ける。土煙の波は、既に掻き消えていたようだった。彼女の後方で、ピエロの声が響く。
「みんな、無事かい!?」
ピエロの呼びかけを聞いたひなたは、返事をしようと口で息を吸う。その瞬間、乾いた空気が流れ、口内が一気にカラカラになった。声を出すことを躊躇いたい気持ちが一瞬脳裏をよぎるも、ひなたは負けじと乾いた唇を動かす。
「わたしは、大丈夫です!」
目いっぱい声を張り上げてそう言うと、ひなたは辺りを見回した。ラクダの行列はほとんど乱れておらず、サーカスのメンバーたちも口々に無事だ、大丈夫、と返事を返す様子が見て取れた。
対して、十二単の女性が乗っていた牛車は混乱しているようだった。土埃を浴びた黒いウシ牛は、全身が白っぽい姿に変わっており、低い鳴き声を上げながらじたばたその場で暴れていた。牛飼童がウシの暴走を必死で制御する様子が窺える一方、女性が座っていた牛車は御簾が完全に下がっており、中にいる女性の様子を見ることはできなかった。
「誰か、助けてミィーッ!」
声変わりする前の男子を思わせる声が、ひなたの耳に届く。ひなたが声の聞こえた方角へ顔を向けると、見慣れない小動物がひなた目掛けて飛来する様子が目に入った。
「ちょっ……!」
ひなたが静止する間もなく、小動物は彼女の顔にぶつかった。勢いよくぶつかった反動で、ラクダを引っ張っていた手綱が少女の手から離れそうになる。咄嗟に半身を前へ揺らすことで、ひなたはどうにか体勢を立て直した。
「イタタ……何なの、もう」
じんわり痛む顔を押さえながら、ひなたは辺りを見回す。ふと見ると、小動物がふわふわとその場で浮かんでいる様子が見て取れた。チワワほどの大きさをした小動物は、外見は黒っぽい子ライオンに似ており、背中には天使を思わせる形をした小さな水色の翼が付いている。そして、腹の周りで小さな白いポーチを身に着けていた。
初めて目にする不思議な小動物はひなたを見て、黒い大きな目をうるうる潤ませた。
「あわわ、ごめんなさいミィ! ケガはありませんかミィ!?」
「わたしはとりあえず大丈夫だけど……えっと、あなたは?」
ひなたは鼻の辺りを押さえたまま、目の前に浮かぶ小動物へ質問する。小動物は落ち着かない様子で前後左右に目を配りながら、早口で応じる。
「ぼくの名前はコラプサーですミィ! あの、今ぼく事情があって、悪いヤツに追われてるんですミィ! すぐ逃げないと……あぁっ!」
コラプサーと名乗る小動物は、自分の後ろに目を向けたところで、短い悲鳴を上げた。ひなたも、コラプサーが見つめる方向へ顔を向ける。
そこはコラプサーが最初に落ちてきた場所だった。落下地点の辺りは、土煙が発生した影響か、うっすらと蜃気楼が発生している。その蜃気楼の奥から、人影がゆっくりと歩いてくるのが見て取れた。
蜃気楼を抜けて、徐々に鮮明となる人影の姿を、ひなたは凝視する。人影は、自分と同じ、あるいは少し年下の少女だった。赤と黄色のブラウスに、黒色のミニスカートを纏う少女は、オレンジ色の長いポニーテールを揺らしながら、徐々にコラプサーとの距離を縮めていく。彼女の両手には、SF映画で見たような銃火器――ランチャーを思わせる鉄の塊が握られていた。
「とうとう追い詰めた。逃げ足の速いしぶといヤツ。観念して『ヘリオスナイト』の欠片を渡しなさい」
遠くから歩いてくる少女の目が、宙に浮かぶ黒い子ライオンの姿を捉える。コラプサーは震え上がったまま、その場から動くことができないでいた。ひなたは、そんなコラプサーを見て思わず自分の胸に抱き寄せる。オレンジ色の髪の少女は、眉間にしわを寄せながらひなたへ声をかける。
「ちょっとあんた、どういうつもり? あたしはコラプサーに用があるんだけど」
「乱暴はやめてください。怖がってるじゃないですか」
ひなたは、近づいてくる少女へ精一杯声を張り上げる。ランチャーを持ったまま徐々に距離を詰める少女に対し、ひなた自身怖い気持ちこそあったが、腕の中でぶるぶる小さく震えているコラプサーのことを思えば、放っておくことはできなかった。
「部外者のくせに。邪魔をするつもりなら、あんたもただじゃ済まさないわよ。痛い目見たくないなら、大人しくそいつを渡しなさい」
「嫌です。確かにコラプサーとは会ったばかりで、何があったのかは分かりません。でも、だからと言って、黙って見過ごして酷い目に遭わせたくもありません」
「……ああ、そう。意地でも渡さないってわけ。分かったわ」
少女は悟ったような口ぶりでそう言うと、ランチャーの銃口をひなたへと向けた。生まれてから一度も、おもちゃの銃ですら向けられた経験の無いひなたは、思わず身を震わせる。それでも、胸元に引き寄せたコラプサーを放そうという気持ちは湧かなかった。
「じゃあ、覚悟しなさい」
「ひなた、どうしたんだ! 何があった!」
ひなたの後方から、ピエロが声を上げた。それとともに、只事でない状況と悟ったサーカス団のメンバーたちが、ラクダに乗ったままひなたの元へ駆け寄ろうとする。
その光景を前に、少女はランチャーを構えた。それに気が付いたコラプサーが、ひなたの胸元から飛び出し、慌てて周りへ声を上げる。
「みんな、急いでここから離れるか、目と耳を塞いで伏せてくださいミィ! 早く!」
「コラプサーーーーッ!!!」
オレンジ色の髪の少女は苛立ち交じりにそう叫ぶと、手に持ったランチャーを発射する。鈍い発射音と共に放たれた砲弾は、ひなたと少女の中間辺りまで飛来したところで、着弾することなく空中爆発した。眩い光が放たれると同時に、衝撃波がラクダの行列を襲う。
砲弾が発射された時点で、ひなたたちは既にその場で上半身を伏せ、瞼を閉じていた。ラクダの背中に顔を埋める傍ら、精一杯塞いだ耳元に轟音が届く。爆音に混ざって、ラクダたちやウシの鳴き声、サーカス団のメンバーや、近くにいる牛車の牛飼童たちの悲鳴や、驚きの声があちこちから上がるのが聞き取れた。
伏せたままの体勢になってから十数秒が経過し、衝撃波が落ち着いたところで、ひなたはおそるおそる顔を上げた。爆音の影響で聴覚がにわかに麻痺しているような、気持ち悪い感じを覚える。だが、そんな気持ちはすぐ目の前に立ちはだかるオレンジ色の髪の少女を前にして、あっという間に霧散した。
「さあ、これで分かったでしょ。あたしは本気。まだ抵抗するなら、次は本当に当ててやる」
薄橙色をした少女の紅色の瞳は、変わらずひなたとコラプサーを見据えていた。少女の怒りに満ちた表情を目の当たりにしたひなたは、恐怖心からその場で身動きが取れなかった。ふわふわと宙に浮いていたコラプサーは、今度はひなたの肩の後ろに隠れる。ぷるぷると小さく震える感覚を肩口に覚えたところで、後方からピエロの声が響く。
「そこから逃げるんだ、ひなた! 手綱を目いっぱい引っ張って!」
ピエロの言葉ではっと我に返ったひなたは、言葉通りにラクダの手綱を目いっぱい引っ張った。刹那、ラクダが驚いて激しく走り出す。思いもしない行動に怯んだオレンジ色の髪の少女は、その場で短い悲鳴を上げて目を伏せる。
ひなたが後ろを振り返る。体勢を整えたオレンジ色の髪の少女が、声にならない声を発しながら急いで再度ランチャーを発射するも、今度は違う方向へ向かって発射している様子が見て取れた。焦燥のあまり地団駄を踏む少女と、ラクダたち一行の姿が徐々に小さくなる。
サーカス団や牛車の人たちには、特に目立ったケガは無い様子だった。ひなたが安堵する気持ちを抱く一方で、ラクダはひなたの予想を上回る速さで、砂上を駆けていく。まるで止まる様子の無い気配に、ひなたは徐々に焦りを抱き始める。
「ちょ、ちょ、ちょっと……! これ、どうやって止まったらいいの~っ⁉」
ひなたの叫びもむなしく、ラクダは黄色い砂漠の中心を疾走していた。
***
ひなたとコラプサーを乗せたラクダは、きいろい砂漠の上をしばらく走り続けた後、切り立った大きな峡谷に出た。左右に聳える高さ数十メートルはある赤っぽい岩壁を見て、ひなたは学校の授業で目にしたキングスキャニオンの写真を連想する。砂漠自体も先ほどまでの砂だらけとは打って変わって、岩石が数多く混じるようになってきた。
全力疾走を続けてきたラクダは、峡谷の影に入ったところで突如前脚を折り曲げたかと思うと、続いて後ろ脚を折り曲げて、その場で座り込んだ。ひなたは咄嗟に鞍を掴み、重心が前後に揺れる感覚に耐える。ラクダが落ち着いたところで、ひなたも一息吐きながら、茶褐色をしたラクダのたてがみをそっと撫でた。
「ごめんね、ずっと無理をさせて。ここまでありがとう」
ひなたは、長時間自分とコラプサーを乗せたまま走り続けたラクダを労わるように撫でた後、ラクダの背中からそっと降りた。靴が無いソックス越しに、地面の熱が直接伝わる。お風呂の熱湯を思わせる熱さに、ひなたはその場でつま先立ちになる。幸い影の中だったから良かったものの、これでは影の無い場所はどれぐらい熱いのか――想像しただけで、ひなたは自分の靴がとにかく恋しくなった。
空を見上げると、空は変わらず青いままで、太陽の姿はやはりどこにも見当たらない。あれからどれぐらいの時間が経過したのか、今この世界が午前中なのか午後なのか、この後夜は訪れるのだろうか。考えてもひなたには分からないままだ。また、ピエロや女性たちに別れを告げられずここまで来たことに、一抹の心残りもある。自分が逃げた後で、オレンジ色の髪の少女に悪いことをされていないかどうか――ひなたがぼんやり考えていたところで、横からコラプサーがひなたの顔を覗き込む。
「ここまで逃げたら、流石に追っては来られませんねミィ。どうもありがとうございますミィ。えっと、確か……」
「ひなただよ」
「ひなた……さん?」
「うん。それがわたしの名前。あなたはコラプサー、だったっけ? さっきの人と、一体何があったのか聞いてもいい?」
ひなたの問いかけに、コラプサーは一瞬身を強張らせる。少しの間逡巡した後、コラプサーは意を決したかのように、腹周りに着けていたポーチを開き、山吹色に輝く小さな円錐の欠片をいくつか取り出した。
「コラプサー、それは……」
「これは、『ヘリオスナイト』の欠片ですミィ。さっきの悪いヤツが狙っていたものですミィ」
ひなたが驚くのを前に、コラプサーは身振り手振りを交えて続ける。
「ぼくは、この世界における太陽の妖精の一人ですミィ。ですがある日、あの悪いヤツがぼくたちの故郷に突然現れて、太陽の力を持つヘリオスナイトを奪ったんですミィ。それから、ぼくたち太陽の妖精みんなでヘリオスナイトを探しましたミィ。太陽の力が無くなってしまったら、太陽の妖精だけじゃなく、生命が豊かな星々にも悪い影響が出てしまうからですミィ」
コラプサーが、短い手足を振りながら、時折早口で話を進める。ひなたもまた、そんなコラプサーの話に相槌を打つ。スケールが大きすぎてまるで理解が追い付かない、というのが彼女の本心だったが、先ほどから続く現実離れした出来事の数々を思えば、どこか納得できる部分もあった。
「それからしばらくして、ぼくはこの辺りの宙域でヘリオスナイトを見つけて、悪いヤツから取り戻そうとしたんですが……あとちょっとのところでヘリオスナイトが不慮の事故で割れてしまい、この星のどこかに散らばってしまいましたミィ」
「それで、コラプサーはこの星に? コラプサーひとりで来なくても、ほかの仲間を呼べば……」
ひなたの言葉に、コラプサーは首を左右に振ってみせた。そのまま、コラプサーはさらに話を続ける。
「遠くの宇宙にいる仲間にも急ぎ連絡をしたのですが、この星に到着するまで何ヶ月もかかってしまうそうなんですミィ。その間に、悪いヤツがヘリオスナイトの欠片を探し出して、悪用する可能性もありますミィ。このヘリオスナイトは太陽本来のパワーを持っているだけではなく、一欠片だけでも星一つを破壊できるほどの強大なパワーを持っていて、欠片が全て揃ったら宇宙を支配することも夢じゃないほどの代物になるんですミィ」
「そんなに……ヤバいものなの、これ」
ひなたは息を呑んでヘリオスナイトの欠片を指さす。コラプサーは小さく頷くと、小さな身体をひなたへと向けた。
「この星に散らばる間際、何とかこれだけは回収できたのですが、さっきみたいにいつまた危険な目に遭うかも分かりません……だからどうかお願いします、ひなたさん。またこの世界に太陽を取り戻すため、ぼくと一緒にヘリオスナイトを集める手助けをしてくださいミィ!」
コラプサーはそう言うと、ひなたに向かってぺこりと頭を下げた。ひなたは、目の前にいる小動物の行動に困惑する。
「そ、そんな……わたしじゃコラプサーの力になれないよ。集めるって言っても、そんな簡単じゃないだろうし」
「いいえ、ひなたさんであれば間違いなく力になれますミィ。ヘリオスナイトの欠片に、手を近づけてみてくださいミィ」
コラプサーに促されるまま、ひなたはヘリオスナイトの欠片へ手のひらを翳す。すると、円錐状の欠片がほんのりと熱を放ち、眩い虹色の光が辺りに輝いた。驚くひなたのそばで、コラプサーが告げる。
「もしかしたらと思いましたが、ぼくの予想通りでしたミィ。ひなたさん、別世界の住人がヘリオスナイトの欠片に手を近づけると、こんな感じで光を放つんですミィ。理屈はぼく自身もよく分からないところですが、ヘリオスナイトには、この世界と別世界を繋げる不思議な力もあるんですミィ。欠片の状態でも、自分が好きな場所へいつでもワープする力がありますミィよ」
自分が異世界の人間だと気づかれたことに驚くよりも先に、ひなたはコラプサーの言葉に希望を感じた。その希望を、直感的に口に出す。
「それってつまり、この世界から帰れるってこと? 元の世界に?」
「はい。全部揃ったら、ひなたさんを元の世界へお返しします。だからどうか、ぼくと一緒にヘリオスナイトの欠片を探してくださいミィ」
コラプサーはそう言うと、眼前の少女へ再度頭を下げた。ひなたは、こちらへ頭を下げる黒っぽい子ライオンの姿を前に、少しの間考える。そして程なく、彼女はコラプサーの頭と同じ高さに顔を合わせて屈むと、返事を返した。
「分かった。わたしで良いなら、協力するよ。よろしくね、コラプサー」
「ありがとうございますミィ!」
「どういたしまして。それから、わたしに敬語は使わなくていいよ。一緒に頑張るんだし」
「分かりま――分かったミィ! こっちこそよろしくミィ、ひなた!」
コラプサーはバンザイするかのようなポーズを取りながら、満面の笑顔でひなたの顔を見つめた。互いににこやかにいたところで、岩陰から声が響く。
「あっ、いた。ようやく見つけたよ」
ひなたとコラプサーが、声のした方へ同時に顔を向ける。岩陰から、白い手袋を身に着けたピエロの手がゆらゆらと揺れるのが見えた。そして、ピエロが半ばふざけた様子で岩陰から現れ、さらに黒いウシがモ~、と鳴きながら牛車を引く姿が見て取れた。
ひなたは喜びと安堵の混じった表情を浮かべ、ピエロと牛車の元へ駆けていく。コラプサーもまた、ヘリオスナイトの欠片を慌ただしく自らのポーチへ運んだ後で、ひなたの後に続いた。
「良かった、無事だったんですね!」
「ああ。サーカスの仲間やラクダたち、みんな無事だよ」
牛飼童が、閉じていた御簾をゆっくりと上げていく様子を尻目に、ひなたはピエロへ問いかける。
「あの人は……? わたしたちを襲った、あの女の子は」
「あの女童であれば、貴方がたが逃れた後、何処かへ去りました。御簾越しで見ても分かるほど、たいそう悔しそうでしたよ」
ひなたが声の聞こえた牛車へと顔を向ける。牛車の御簾は完全に上がっており、中では十二単の女性が落ち着いた様子で座っていた。
「そうでしたか」
「ええ。然して、そちらの散楽のお方から、貴方……ひなた様に、お渡ししたきものがあるとのことで」
「え?」
女性がピエロの方へ顔を向けるのに合わせて、ひなたも顔を向ける。ピエロは気恥ずかしそうな様子でその場で両人差し指の先端をつんつん、と合わせた。そして、意を決したように両手を後ろに向けたかと思うと、すぐさまひなたへと差し出す。その手には、茶色いローファーが握られていた。
「さっき約束してた、キミの靴だ。言っただろう、この砂漠で出会ったのも何かの縁だ、って。その証だと思ってくれると嬉しいな」
「ピエロさん……」
ひなたはピエロからローファーを受け取ると、早速その場で履いてみた。ローファーはひなたの足にぴったりと馴染み、元の世界で履いていたスニーカーと変わらない履き心地を実感する。そして、ひなたはピエロへ深々と頭を下げた。
「ありがとうございます、ピエロさん。大切に使います」
「どういたしまして。ところでひなた、これからどうする? ラクダは疲れてるみたいだし、落ち着いたら出発しようか」
ピエロの提案を聞いたひなたは、後ろでふわふわと浮かんでいたコラプサーへ顔を向けた。半ば残念そうな面持ちで首を左右に振る子ライオンの表情を前に、ひなたはコラプサーが言いたいことを静かに察し、再びピエロに向き直る。
「ごめんなさい、一緒には行けません。わたしはこれから、コラプサーと一緒に、元の世界へ戻る旅をしようと思います。ピエロさんたちには、いろいろとお世話になりました。ここまでありがとうございました」
ひなたの言葉を聞いたピエロと女性は、驚いた様子で宙に浮かぶ子ライオンへ同時に顔を向ける。その瞬間、コラプサーはポーチからヘリオスナイトの欠片を取り出し、淡い虹色の光を輝かせた。
「さっきは、ぼくが逃げる際の攻撃に皆さんを巻き込んでしまって、本当に申し訳ありませんでしたミィ。ヘリオスナイトの欠片の力でワープができるのは、ひなたとぼくだけなんですミィ。そういうわけで、ひなたとぼくは互いの目的のために、一緒に行くことにしましたミィ」
先ほどのひなたへのそれとは打って変わって、コラプサーは二人への説明を簡素な形で済ませた。十二単の女性が、怪訝な表情でコラプサーの顔をじっと見つめる。ピエロもまた、しばし呆気に取られながらも、落ち着いた素振りでひなたへ問いかけた。
「……もう、行くのかい?」
ピエロの言葉を聞いて、ひなたは真っ直ぐ彼の顔を見て小さく頷いた。彼女の茶色い瞳に、迷いの色は見られなかった。
「そうか。だったら、ボクにできるのはキミの旅の安全を祈ることだけだ。短い旅だったけど、楽しかったよ。どうか、元気で」
「ピエロさん、お世話になりました。牛車の人も、ありがとうございました。お元気で」
ひなたはそう言って、二人へ右手を振った。ピエロもまた、ひなたに右手を振り返す。女性は牛車の中に座ったままの姿勢で、コラプサーからひなたへと視線を移す。
「ひなた様、貴方の旅路が決まっているのであれば、私に止める理由はありません。ですが、どうか――」
女性が言いかけたところで、ひなたの手にヘリオスナイトの欠片を持ったコラプサーの手が触れる。刹那、少女と子ライオンの身体は眩い虹色の光に包まれた。
空まで伸びる光の柱を前に、ピエロたちはその場で瞼を閉じる。再び瞼を開いて顔を向けると、そこにひなたとコラプサーの姿は既に無く、彼女たちを乗せていたラクダだけが、岩石混じりの砂漠の上で静かに座っていた。




