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レーベン王国 姉と弟 その壱




「何ですって!? セリーナの捜索!?」



 弟ハインツの言葉に姉シルビアは驚愕した。



「……そうです。これは国王陛下のご決断です」



 そしてそんな姉の態度を表情を、見逃さぬようジッと見詰めつつ答えるハインツ。

 シルビアはワナワナと震える両手を握る事で必死で抑えながら言った。


「……セリーナは死んだ、のよ……。どうして今更……っ! お父様も陛下も、いったいどうして……!」


 シルビアは独り言のように呟いてから、ハインツが自分を見ている事に気付く。



「いやだ……、どうしたの? ハインツ。……あなたもセリーナの捜索だなんて無駄な事だと思うでしょう? だってあの子は死んだのよ。それに誰よりもあなたがセリーナを疎んでいたのだものね。……陛下は、いったいどうしてこんな事を仰ったのかしら?」


 内心かなり動揺しながらもそれに微笑みを貼り付けて、シルビアはハインツに問いかけた。



「クリストフ殿下が仰ったのです。セリーナ嬢はきっと生きていると。……そして私もその捜索に加わる事になりました」



 ジッと姉の表情や動きを見ながら答えるハインツ。


「クリストフ殿下が……!? 婚約の……私との婚約のお話は進んでいるの? この美しい腕輪もそういう事なのでしょう? ……ああ! だから私を気遣って妹のセリーナを捜索だなんて言ってくださったのかしら。それならば、そのような気遣いは無用だと、それよりも国内の復興にお力をお使いくださいと、そうお伝えしてくれる?」



 シルビアは勝手な解釈をしたようだ。

 屋敷に帰ってすぐに『王家から』と言ってハインツが渡した美しい宝飾の付いた腕輪を大切そうに撫でている。

 ……そして本人は気付いていないのだろうが、全く妹セリーナを気遣う事なく話をしていた。



 ……姉は、こんな人間だったのだろうか。いや、私が今まで何も見えていなかったのか。

 そしてこれまで私もこの姉と一緒にセリーナを貶めていた。姉はいつも最初セリーナを気遣うフリをしながら最後には徹底的に貶めるのだ。


 勿論今まで自分も姉と一緒になってセリーナを貶めていたのだから、ハインツも人の事を言えた義理ではないのだとは……もう苦しい程に分かっていた。



「姉上。残念ながらクリストフ殿下は貴女との婚約は『ない』とハッキリ仰いました。……会議の議題にあがったのです。どうして母と妹だけが安全であるはずの地下室から出たのかと」


 ハインツがそう言うと、シルビアは最初怒りで赤くなりその後サッと顔色を青く変えた。


「……それは……! 何度も言ったでしょう、私はあの時の事は余りにも混乱していて覚えていないと。それに地下室も完全に安全という訳ではなかったわ。だからお母様は私達の為に身を挺して囮になろうと出て行かれたのだと思うの。……セリーナも、その時一緒に付いていったのだと思うわ」


 最後少し目を逸らし、そう答えたシルビア。


「……それよりも、その事で殿下との婚約が認められないの? 私は被害者なのに! 酷いわ」


 そう言って、シルビアは目を潤ませた。


 ハインツは一つ息を吐く。



「……姉上。アードラー子爵を覚えておられるか」



 不意に出された名前に、シルビアは眉を顰める。


「……思い出せないわ。急に何なの? その方が私を貶めているの?」



 ……覚えていない、か……。


「会議後、子爵に声を掛けられたのです。自分を覚えているか、と……。随分と大きくなったので驚いた、やはり父侯爵によく似ているとそう仰って……」


 自分の聞きたい事に答えず知らない話を続けられた事でシルビアは少し苛立っているようだった。


「昔の知り合い? その方がどうしたの? やはりその方が私と王子との婚約を壊そうとしているの!?」


 少し声が大きくなり攻撃的になった姉シルビアをハインツは冷静に見据えて言った。


「……覚えておられませんか? 姉上もよくご存知の方ですよ。何せ7歳だった姉上が父にどうしても嫌だと言って辞めさせた我が家の魔法の家庭教師だったのですから」


「…………え……?」


「クルト アードラー子爵。私達が幼い頃魔法を教えていただいた家庭教師の方です。……まあ私は当時まだ5歳でしたのでうろ覚えでしたが。……非常に優秀な方で母上も実家の公爵家でお世話になり、隠居するという子爵に無理を言って我が家でも教鞭を取っていただく事になったのだと聞きました」


 シルビアの顔は青白く、少し震えているようだった。


「……その後アードラー子爵は南方にある領地で隠居されていたそうです。それで一年前の北方から来た魔物達の災害は難を逃れたのだとか。そしてその後の魔法使い不足の為に現役に復帰され、魔法使いとして王都にいらっしゃるとの事でした」


 ハインツはジッとシルビアを見ながら話す。シルビアは変わらず震えていたものの、その視線に気付きまた笑顔を貼り付けた。


「……そう、懐かしいわ。アードラー子爵。私はまだ幼かったからかの方の教えに反発してしまって、申し訳ない事をしてしまったわ。……今度、是非そのお詫びに伺いたいわ。……どの辺りにお住まいなのかしら」



 ……シルビアは、決意した。

 あの頃の事を、アードラー子爵が今も詳しく覚えているのなら。

 あの日目覚めたシルビアの一際高い能力『封印』の事はあれから誰にも話していないし隠し続けている。彼によってそれが周りにバラされるのは困る。

 ……アードラー子爵には話が出来ない状態になってもらおう。



 ……そのまま、大人しく領地で隠居をしておけば良かったのに。


 シルビアは昏く嗤った。



 

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