第98話 ダンジョン②
中に入れば、いくつかの冒険者パーティーがウロウロしている広間が目の前に広がる。ここは確か……
「ここ、階の最初にあるセーフティーゾーンってやつです?」
私の質問に案内人のレイブンさんは素直に答えてくれた。
「その通り。事前に調べてきたようで何よりだ。中には禄に調べもせずに入ってすぐ『何だ、魔物なんていないじゃん!』とか叫ぶ奴もいるんだよ……」
「うわ~、目に浮かぶ~」
例の田舎から出てきたガキんちょ共や、チンピラ三兄弟みたいなのが頭の悪そうな笑い方で言っている姿が簡単に浮かぶ。
「セーフティーゾーンは唯一、ダンジョンに住む魔物が寄りつかない場所だ。基本は階につき二カ所、階段がある少し広めの場所だけとなる。この第1階の場合は入り口から入ってすぐのここと、地下2階へと続く階段がある場所だな。Cランク冒険者たちが行くような中層からはセーフティーゾーンが二カ所以上ある所もあるぞ。その分、階が広かったり危険な罠があったりするんだけどな」
「へぇ~……事前に調べた時も思いましたけど、ホントにこのダンジョンって人為的に作られたモノじゃないんです? セーフティーゾーンといい、たぶんこのあと説明の入るお宝の事といい、自然発生したと考えるにはどうも無茶があるような……」
「オレにそんなこと言われてもな。まぁ、何らかの意思の元にダンジョンが存在するのは確実なんだろう。ただ、これは考えても切りが無いことだ。今は頭の隅っこにしまっておくだけにしとけ」
「うぃーっす」
レイブンさんの言う通り、今考えても仕方がないことか。
最下層に行けば何か分かるかも知れないけど、未だに辿りついた冒険者がいないというね。資料には仲の良いSランク冒険者が2人で制覇を目指したけど、途中で諦めたとあった。体力と精神力が底をついて、帰りの道のことまで考えると今引き返さなければ命が危ないと判断したとある。ちなみに、最終到達階層は地下92階とのこと。地下100階まであると仮定したら、そりゃ引き返すか。
てか、ダンジョンがクリアさせるつもりないだろって件。
「ユキナさんも中層を目指すのか?」
「え? あ、はい。とりあえずの目的としては」
ここで何故かレイブンさんがマジメな――どこか不安そうな顔つきになる。
え? どったの急に?
「……しばらくは上層だけで活動することをオススメするよ」
「えー、そんなこと言われても……」
上層にいたら魔王教団も襲ってこないじゃん。
私が囮としての役割をするなら人が少なくなる中層からでないと。
「今の中層は、その、少し危険なんだ」
「というと?」
「……しばらく前から中層での冒険者の死亡率が上がってきていたんだが、ついに大規模の冒険者パーティーが全滅する事件があったんだ。そのパーティーはずっと中層で活躍していた奴らだったから、何年も活動していた場所で全滅するなんて考えられなかった。絶対に何か異変が起きてるはずなんだ……!」
レイブンさんは悔しそうに俯いている。
「知り合いがいたんですか?」
「あぁ、良い奴らだった」
そのまま黙り込むレイブンさん。
きっと、さっき会ったばかりの私が踏み込んで良い話じゃないんだろう。
少しそっとしておくのが人としての情ってやつだ。
しかし、ずっと活動していた場所で大人数の冒険者が全滅ねぇ?
なーんかきな臭いなぁ。
帰ったらギルドの方でもう少し踏み込んだ情報を聞くべきか。
「すまないな。こんな暗い話して」
「あー、いえ。こっちのこと心配してのことなんで」
今日は浅い層の行ける所まで行くことにしているから、関係ないはずだよね。中層は明日以降になるだろうし、その時にはレイブンさんもいないから私が気をつければ良いだけの話。わざわざ「中層には後々絶対に行きますんで!」と言って無駄に心配させる必要もない。“沈黙は金”ってやつだ。
「では、改めてダンジョンの探索を行おう。地図は持ってるな?」
「はい。上層の分は全部買いました」
当然だけど、ダンジョンと言うだけあって中は入り組んでいる。
浅い層――現在いる第1階から地下10階まではそこまでじゃないけど、降りて行くにつれて複雑さが増す。上層と呼ばれているのは第1階から地下30階まで。地下31階からが中層と呼ばれる。
で、ダンジョンへ入るに当たって絶対に必要となるのが地図。
それぞれの階に目印になるモノがあるので、それをたよりに地図を見て、現在地を確認するわけだ。
ぶっちゃけ私には『聖獣の森』の時に取得したスキル:マップがあるから地図なんていらないんだけど、ダンジョン潜るのに地図が無いのがバレたら怪しまれるし、今後来ることになるかもしれないステラに渡す分として考えれば痛い出費でもないかなーと。
そんなこんなで、他にはポーションの類いはあるのかなど軽く確認したらセーフティーゾーンから先に出る。
ここからは魔物が出現するんで気を抜けない。
スキル:探知も使って周囲を警戒する。
「Dランク冒険者ならそこまで警戒しなくてもいいぞ。第1階に出没するのはララビットとコモン・スライムだけだから」
「マジで雑魚だけですね」
ララビットは私が初めて殺した魔物だな。一般家庭で普通に食べられる肉がこれだ。捌くのが上手い冒険者は素材を売らず、その日のうちに食べたりする。
で、コモン・スライムは……ララビット以上に弱い魔物なんよ。
ドラ〇ンクエストのスライムと同じ枠組み――いや、それ以下だな。
可愛らしい目や口はなく、本当にただのプヨプヨしたスライムだ。大きい個体でも私の膝ぐらいの高さしかない。さらに、ズルズルと体を引きずって雑草や虫の死骸を体内に取り込み時間を掛けて消化するぐらいしか能力がない。飛び跳ねることもできなければ体当たりすら使えない。ポ〇モンだったらコイキ〇グ以下の存在となる。
しかも、どう殺そうと役に立つ素材が一切無い。
冒険の途中で立ちはだかってもちょっと邪魔な障害物扱いで殺されるという、哀れみすら出てくる魔物だ。
一応ララビットにしても、コモン・スライムにしても、同じ系統の上位種は強いらしいんだけど、まだ会ったことがないので何とも言えん。
スライム系統は最近の再評価で“物理無効”とか“強力な酸攻撃”とか使ってくるイメージはあるんだけど、ララビット系統の上位種ってどんなのだ? やっぱ定番の角ウサギとかかな?
「あ、ほら。噂をすればだ。最初の魔物だぞ」
レイブンさんに言われて通路の先を見れば――コモン・スライムが。
「オマエかぁ……」
ほんの少し青みがかった透明なゼリー状の体。目も口も無いし、頭のてっぺんも尖っていない丸いゼリーの見た目そのままな魔物――コモン・スライム。
それがノソ~~~と、こっちに向かってくる。
……うん。遅い。時速何キロだよ?
まだ片手で数える程度しか出会ったことないけど、本当にこちらを襲う意志があって向かって来ているのか疑問に思う。
「コモン・スライムと会ったことはあるんだよな」
「えぇまぁ。憐れな魔物っすよね」
「じゃあ武器でも魔法でもいいから、適当に片付けておいてくれ。コモン・スライムが相手でもオレは手出ししないからな」
「うっす」
いや、コイツの倒し方って超簡単なんだけどね。
武器も魔法もいらないし。
まずはコモン・スライムに向かって普通に歩きます。
コモン・スライムが目の前に来たら、次の一歩で力強く踏みつけます。
――グシャッ! ――「ピギィ!?」
そのまま普通に歩いて通り過ぎます。
……以上!
「………………いや、まてまてまてまてまてまてまて」
「? どうしました?」
レイブンさん、来ないなら置いていきますよー?
「え? え? ユキナさん、今、何したの?」
「コモン・スライムを倒しました」
「いやそうなんだけど、歩いただけだよね?」
「踏みつける時は力強い一歩で歩きましたよ?」
「武器は? 技は? 魔法は?」
「あのゼリーにそこまでする価値ってあります?」
そりゃあスキルの効果もあって私ってば見た目よりパワーはあるんだし、歩きながら踏みつけて倒せるんなら時間短縮にもなるでしょ?
そう言ったら、
「………………そうか」
レイブンさん? 何その、釈然としない顔。




