SS 龍の化身は昔を思い出す
・2024/08/10
一部修正
【side.龍の爺さん】
転移の魔法がまさに発動する直前じゃった。
「こんの……覚えてろよおおおおおおおおおおおおおおおっ!!」
雪菜の叫び声が森に響く。
だが、次の瞬間にはいなくなっていた。
森に静けさが戻る。
「……行ったか。最後まで騒がしい娘じゃったのぅ」
もうこの森のどこにも娘たちの姿はない。
10年近く共に過ごしたリルも、笑顔のまま消えていった。
「これで良かったんじゃろ――剣二や」
まぶたを閉じれば、ついこの間のように思い出す。
剣二が赤子のリルを連れてきた日のことを。
『爺さん、いるか? いたら返事をしてくれ』
『何じゃ一体……ぬぅ? お主は、もしや剣二か?』
『あぁ。20年ぶりぐらいか。元気そうで何よりだ』
『ほう、しばらく見ん間に随分と心も体も成長したようじゃな』
『世間じゃオッサンって言われる年だよ。それに今じゃオレも息子と娘を持つ父親だ。しかも何やかんやで国を引っ張っている、な。……いやホント、この世界に来たばかりの自分に言っても絶対に信じられない展開になったなー。ガチの異世界成り上がりとかどんだけぇって……』
『話し方が若い頃に戻っとるぞ?』
『――って、そうじゃない! ……爺さん、後生の頼みがある。この子を――リルって名前の赤ん坊を爺さんの【時空系魔法】で戦争のない時代にまで連れてってくれ。爺さんなら、1人くらい時間を止めたまま生かせるって言っていたよな? 頼む! この通りだ!』
『ぬぉ!? これこれ頭を上げんか。というよりも、先程から抱えていた布の塊は赤子だったのか。獣人のようじゃが……はて? この子の種族は……?』
『何というか、訳ありの子なんだ』
『……両親はどうした?』
『……ん……だ……』
『は? 何じゃって?』
『死んだんだよ……この子を残して、死んじまったんだ。オレが、オレがもっと早く駆けつけていればアイツらは……!』
『………………』
『あの2人の最後の願いなんだ。初めて会った時からの、まだガキんちょだった頃からの願いなんだ。今の時代じゃ、オレがどんなにがんばったって願いを叶えてやることができねぇ。オレはリルの両親を救えなかった。だったらせめて、この子だけは、世界中どこへ行ったって、クソったれな戦争を知らないで済むようにしたい。平和な世界を見せてやりたいんだ』
『………………』
『頼む。そうでなきゃオレは、アイツらに会わす顔がないんだ……』
あの時の剣二は、後悔しかない顔じゃった。
話の流れからするに剣二は、リルの両親が幼少期の頃からの知り合いなんじゃろう。そして、リルが生まれてすぐ両親に何かがあり、駆けつけた剣二は間に合わなかった。死に際の願いを聞くことしかできなかったんじゃろう。
戦争のない、平和な時代。
それが“いつ”になるのか、龍のワシには分からなかった。
もしかすれば人が滅ぶその時まで来ないのかもしれんのだから。
それ程までに人は永い歴史の中で争ってきたのだから。
だが、ワシは了承した。
剣二からリルを託され、時を止め続けた。
偶然か奇跡か戦争がなくなり、しかし一時のことやもしれんと可能な限り情報を集め、様子を見て、ついにリルの時を動かし――
「ふふ、まさか剣二の同郷の者が側にいてくれるとは……」
今までの永すぎる時に比べれば一瞬であった10年。
しかしその10年は、これまでの生で最も心が満たされた。
――爺さまー!
ワシの耳にはリルの声がしっかりと残っておる。
次に会えるのがいつになるかは分からぬが、生きていれば必ずまた会える。雪菜やステラが一緒ならばリルも心身共に成長するじゃろう。
そう考えれば寂しさを感じることもない。
「ブルルッ」
「おぉそうじゃった、そうじゃった。オマエさんを雪菜の元に送る準備をせねばな。ついでに“おつかい”とやらも頼まれておるしの」
まずは雪菜が掘った跡、埋め直したという穴を掘り返すか。
確か滅多に人前には出ない、土の中で生活しておる聖獣がいたはず。そやつらに掘り直して貰おうかの。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
次の日には聖獣の森の外へと出たワシと松風。
森の外に出るなどいつぶりじゃろうか?
「まさか全個体が協力してくれるとは……」
聖獣の森の下。地中で暮らす聖獣ドラモール。
種族的に気難しい性格の個体が多いのじゃが、なぜか今回の件を快く引き受けてくれた。むしろ「ドンとこいや! オレたちの穴掘り魂を見せる時だ! いつかあの穴掘りに負けねえ頂に到達してやるぜ! なあ、野郎共!!」と、誰かと張り合うかのように掘り進めたのだ。
何となく雪菜が関わっていそうな気がするのぅ……
「早く用事を済ませるか。行こうかの松風や」
「ブルルッ!」
ワシは余り森から離れられん。
本体のある森から遠く、永く離れすぎると影響が出るやもしれんから。
遠い遠い昔、まだワシ以外にも古龍と呼ばれる存在が数多く生きていた時代。もう記憶も曖昧になる程の昔。まだ古龍の中で最も若く、世界を知らなかった頃のワシは世界がとんでもないことになっとる時に逃げてしまった。臆病風に吹かれてしまった。
結果、仲間たちはいなくなった。皆、死んだ。
ワシは……孤独になってしまった。
それをどれだけ後悔したことか。
だからワシは当時唯一生き残った世界樹に取り込まれるように本体を眠らせた。寂しさを紛らわすために。世界の行く末を最後の古龍として見届けるために。
それから時がどれくらい過ぎた頃じゃったか?
世界樹の周りにある地脈が変化し、動物とも魔物とも違う生き物が生まれ始めたのは。いつしかそこが『聖獣の森』と呼ばれるようになったのは。
永い時の中で世界が変わったからか、ワシが世界樹と半ば融合するような形で存在したことが原因かは分からんが、いつしか森には聖獣が溢れ、ワシは分体を作れるようになり、寂しさはなくなった。
さらに時は流れ――
剣二と出会い、
リルを育て、
雪菜に救われた。
「まさか、生きてて良かったと思える日々が来るとは」
「ブル?」
「いや、なに。お主のご主人はどんなことをしてくれるのかと、な」
雪菜は剣二に似ておる。
ならばこの世界に来たのにも意味があるのだろう。
今後、どのように人生を謳歌するのか楽しみじゃ。
「それでは用事を済ませて、お主を雪菜の元へ届けるかの」
まずは巡回兵とやらに裏切り者の情報を渡し、ユニコーンの角などの素材をベルちゃんという女の子へ届ける。そのまま冒険者ギルドへ松風を帝国にいる雪菜へ送り届ける依頼を出すのじゃったな。
……そういえば、
「のう松風。雪菜から金銭は受け取ったが、とりあえずこれを渡せばよいのじゃよな? 人の使うお金の価値がイマイチ分からんのじゃが……」
「ブルルッ」
雪菜は「おつりは松風に預けてよ」と言っておったが、“おつり”とは何のことじゃろうか? もう少し詳しく聞けばよかったのぅ。
ワシは手の中にある1枚の“王貨(日本円価値で約100万円)”とやらを弄りながら足を進めることにした。
そりゃ森の中にいたら、金銭の価値やら関係なくなります。
~その後~
【ギルド内にて】
爺さん「ではこれで松風を頼む(王貨を渡す)」
受付嬢「かしこまりま――え!? こ、これが依頼料ですか!?(王貨を見ながら)」
爺さん「うむ。その金で必ず松風を届けてくれ(何を驚いているのじゃ?)」
受付嬢「わ、分かりました。必ず! 最高の護衛と共に届けます!!(帝国にいる個人に馬を届ける依頼だけで王貨! これはギルドの用意できる高位の、それも信頼できる冒険者を使ってでも確実に! 無事に! 絶対届けろということですね!! その挑戦、受けて立ちます!)」
爺さん「? うむ、よろしくな(えらく張り切っておるのぅ)」
※受付嬢の気迫に飲まれ掛けておつりのことはスッカリ忘れました(笑)




