ある平凡な兼業主婦の証言
瀬戸鈴音さん、か。う~ん……何というか……暗くて近寄りがたい感じの人だったなぁ。目はいつも据わってた。この世の不幸全部貰ったみたいで、いつも浮いてたような……
――あ、ちょっと待ってください、確かそろそろ夫が買い物から帰ってくる筈ですから。
「……ただいま、冬美さん」
アキ君! 御帰りなさい。あのね……
「牛乳と卵、ちゃんと買ってきたよ。半額になってて良かった、きっと沢山使うんでしょ」
半額! それは良かったです。今晩はオムライスにしようと思ってて。ふんわりしたのできるかな~……
「ところで冬美さん。……俺に何か聞きたい事、あるんじゃないの? さっき何か言いかけてたけど」
あぁ、そうでした。実は、アキ君に訊きたい事があるんですけどね。私の会社の方で、前話したでしょ? 瀬戸鈴音さんって女の人。
「……うん、言ってたね。そんな事」
彼女、アキ君の中学で同級生だって言ってるんですよ。今、ナントカ調査団って所から、彼女の事でインタビュー受けてるんですけど、何か知ってたり……
「……さぁ? 俺は何も知らないし、中学での事も忘れかかってる」
そうですか……あの人、会社来てないけど、大丈夫なんでしょうか。
「じゃあ俺、今度の同窓会で訊いてこようか。再来月に母校近くの料理店でやるんだって」
それだったら、お願いします。知ってる人もいるかもしれませんし。
――すいません、遅くなりました。今お話ししますね。
瀬戸さんは、職場の上司でした。今は健康上の理由で休んでますけど。
さっき言った通り、かなり暗い人でしたよ。それこそ、こっちから話しかけるの面倒くさい位。
いつも生ける屍みたい。血色悪いし、表情全然変わらない。
後は、手。触った事があるんですが、まるで氷でした。冷え症とかそういう部類じゃありませんね。それから、手首に対して垂直な切り傷が沢山できてた。
自分一人の絶望の世界に沈んでいて、会社の人とは殆ど会話らしい事はしてなかったです。飲み会とかにも出ないし、会議に出席しても終始無言でメモばっか取ってました。
昼休みには偶に屋上で、落ちるんじゃないかってギリギリに立ってたり。熱心に液晶ガン見してゲームやってたり。
いるかいないか判らないって、社内ではよく言われてますよ。
でも一度だけ、あの人と仕事以外の会話をした事があるんです。もっと話がしたい、とか、そんなような事を。
「死ぬ程辛いってどういう事か、知らない貴女には解らないでしょ」
それで終わりです。瀬戸さんの顔の皺は、余計深くなってました。使い古されたゲーム機に、また視線を戻して。
彼女、死ぬつもりだったりとかしませんよね。あれリストカットの痕でしょ。死ぬ程辛いって言ってたでしょ。
近いうちに死んだりとかないか、一応心配なんです、同じ会社の人だから。
〈つづく〉




