ある無名ギタリストと、ボーカルの証言
リンネちゃん? 瀬戸の方のリンネちゃんっすよね。それ、うちのリーダーの彼女だった人。リーダーも良い人連れてきたと思ったっすよ~。チックショウ羨ましいなぁ、紹介したの俺なのに!
「ヒロよォ、関係ある事話さねェ? おめェの愚痴こぼす場じゃねェんだから」
あ、すいませんリーダー。変わりましょうか。リーダーの彼女サンの事だし。
「じゃ、そうしてくれ」
オレァこの「PinkBeard」っつうバンドのボーカルでよ、桃井玄也ってンだ。で、ついた仇名が「桃ヒゲ」。海賊桃ヒゲって映画、昔あったろ? あいつに似てたからだとよ。うちのバンドの名前もそこから取ってンだぜ、憶えて帰ってくれよ。
ほンで、瀬戸鈴音がオレの彼女。付き合い始めたのは……高校ン時だ。確か。お互い別の学校でさ。あ、でもよ、小学校くらいから友達だった筈だぜ。席隣だったから、教科書借りたり給食交換っこしたりよ、一緒にゲームして遊んだりよ。すげェうまかったんだぜ、あいつ。
でもあいつ何かやらかして、小五の時どっか行っちまったけど。そンでもオレ、手紙は毎月書いてたぜ。
「柄でもないことしてたんですね」
(てめェ後で覚悟しろよ、ヒロ。おめェのギターで頭ぶん殴ってやる。)
その努力が実ったのかなァ。遂に――遠距離恋愛だったがよ――お付き合いできる事になったって訳さ。どうだ、羨ましいか?
だが恋の試練ってェのかねェ、ちょっと面倒クセェトラブルが起きたんだ。
リンネの奴、オレと付き合ってた頃から、母ちゃんと喧嘩ばっかりだったと。
確かあいつ母子家庭だったろ。元々女二人だと面倒クセェ事も多かったんじゃねェのか。
「ま、それを更にややこしくしたのが、こんなちゃらんぽらんな彼氏なんですけどね。リンネちゃんも大変だったろうな」
(さっきから本当何だ、ヒロ。嫉妬してンのか知らねェが、余計な事ばっか言いやがって)
兎に角、二十歳だかそこら位の頃だったか――オレの所駆け込んできた時には、リンネの状況は相当ヤバかった。話聞いてみりゃ何だ、母ちゃんが殺しにきてるんだと。包丁持って。
どうやら……えーと、その、まぁ、アレな宗教ハマっちまったみてェでよ。唯一神様の教えに従わないクソ野郎は、家族だろうが指の一本詰めてでも信じさせろとか、相当ヤベェ所まで来てたって。
「神の裁きを受けなくちゃいけないんですって。特に、悪魔に憑かれたロクデナシは」
ここまで言ったと思ったら、あいつスゲー悲しそうな顔すンだよ。全部私が悪いの、って風に。そンで何て言ったと思う?
「桃井君は、ゾンビとか、そういうの信じる?」
だとさ。リンネは、自分がゾンビだって言い出しやがったンだ。今までに何度もそういう事があったンだと。確実に死んだ筈なのに、一晩経つと生き返ってンだと。だから自分にゃ悪魔が憑いてるなんて言うんだ。オレァそういう話は噂とかで聞いた事あったが、目の前でそんな奴を見たのは初めてだった。
それから暫くうちで匿ってた。あいつ部屋の隅で暗い顔して、ボロっちいゲーム機ばっかやってて……
かなり直ぐだったかなァ、オレらが別れたのって。あいつ、誰にも言わずにどっか行っちまった。置手紙だけ残してさ。どこかは判んねェ。
アンタ――何つゥ団体だっけな――その失踪したリンネを探してるんだろ。もう見つかったのか? リンネの居所。
もし会えたら伝えてくれよ、PinkBeardのニューシングルが出たって。あいつに聴いてもらうの、オレ達楽しみにしてンだから。
〈つづく〉




