薄桃色のブラウスを着たある女性の証言
あー、はい、瀬戸鈴音なら知ってますよ。小学生の時、同じクラスだった事何度かあるんで。
ええ、特別なことは……何もありませんでしたね。瀬戸さん、本当に普通の人だったし。私もあまり話したことなかったし。
ん、待ってください……あぁ、あったわ。すいません、一つありました。
え〜と、確か5年生くらいの時だったかなぁ? 通り魔がね、出たんですよ。皆危ないから気をつけて、固まって帰りなさいって。それで私、瀬戸さんと同じ方向だったんです。家が。よく一緒に集団下校してたんだけど、仲良くなった事は何にもなかったなぁ。
で、放課後とっても退屈だった日があったんです。友達と遊びたい気分でもなし、父は飲み会、母も残業で帰り遅くなるから、お家で独りぼっち。だったらちょっと違うルートで帰っても良いかなって思った日。ちょうど瀬戸さんと最後二人残ってたので。
バイバイって別れた後で、彼女の後をつけてみようって思いました。特に何の意味も無かったけど、元々彼女、どこか変な風に思えたんです。普通そうにしてるのに、どこかちょっと違和感を覚える、みたいな。解ります?
事件が起きたのはその時。二メートルくらい離れてついてってたんですけど、通りの角から男の人が出てくるのが解りました。背高くてダウン着て、青のニット被った人。その時、これアカンやつや、って思いました。だって、学校のプリントで見た、通り魔の特徴と一緒だったんですもん。直ぐ近くに家があったから、塀の陰に隠れて様子を見てました。
もうその後怖かったですよ、その人十徳ナイフみたいの出して、瀬戸さんをガッって切りつけてた。誰も見てなさそうな、暗い所だったから良かったのかな。その後も地面に引き倒して、頭ガンガン踏んづけてた。遠目から見てもヤバいって判りました。
私もう無我夢中で走ってた。誰か大人の人いないか、クラスメートがやられたって。救急車呼んで家帰っても、心臓バクバクでした。次の日学校行ったら、先生が、瀬戸鈴音さんは今朝早くに亡くなったって。
胸の塞がるような思いでした。友達だった事もなかった癖に。
でも本当に驚いたのは、その次の日。瀬戸さんが家にいたっていうんです。それも、私の友達の家。その子から聞きましたけど、瀬戸さん、無傷だったんですって。怪我も無いまま、その子の部屋の床で寝てたって。
だけどね、瀬戸さんが斬りつけられた所と、その友達の家は正反対の方向なんですよ。病院だって。なのに、何でだと思います?
そこから後? すいません、あの人それから学校来なくなって、別の学区に転校してったから解んないんですよ。
〈つづく〉




