ある五十がらみの中年男性の証言
初めて読んでくださる方へワンクッション。
この物語は、
登場人物が「主人公及びそれに関する事件」についてコメントし、それを記録した、という
極めて特殊な形態をとっています。
それに併せ、各話のサブタイトルも「〜の証言」のように表記しています。
かなり読みづらいと思われますが、あらかじめご了承ください。
作者より。
瀬戸鈴音がどうかしたかですって。ええ、僕の大切な、可愛い一人娘です。誕生日は四月の八日。お釈迦様と同じなのが祝福されているようで。
つやつやした黒い髪の毛に、ぱっちり開いた目。別れた妻にそっくりなんですよ。
でも一番可愛い所は声かなぁ。鈴の鳴るような、聴いていて心地よくなるような。だからリンネなんて名前つけたんですよ。鈴の音、って。我ながら良いセンスだと思いませんか。
で、本題に入りましょう。貴方が仰りたいのは、その鈴音についての何か、情報が無いか、という事ですね。
あの子は、普通の子と何ら変わりがありません。勉強もそこそこ、体力テストだって平均値でした。ゲームが好きで、僕が誕生日にあげたゲーム機を、いつも持ち歩いて大事に遊んでいました。
――ただ、何と言えば良いのか――驚くほど元気なんです。死んでも死なないで、一人で家に帰っちゃうんです。
落ち着いて聞いてください。いいえ、僕の頭がおかしいんじゃありません。あの子が特別なだけなんです。昔から怪我一つせず、大きな病気もしない子でしたが……
それを初めて見たのは、鈴音が三歳くらいの時でしたね。まだ物心がつく前の事だったかなぁ。公園で、僕と遊んでいたんですよ。ボールを投げてあげたら、小さな鈴音が一生懸命手を伸ばして、でも届かなくて道路に転がってっちゃいました。
それであの子が取りにいこうとしたんですが、来てたんです。トラックが、角を曲がって。結構大きいやつ。だから僕は、危ないから行かなくて良いって言ったんですけど……もう遅かった。トラックは急停車したけど、間に合いませんでしたね。鈴音は轢かれた。
即死でしたよ、病院に行って判った。その時は僕も妻も信じられなかった。それで遺体は霊安室に行って、さぁ業者さんが来たって時に、事件は起きました。
遺体が霊安室に無かった。
驚くでしょう。実際こちらも大騒ぎでした。さぁ誰が持ち出したのかって。
病院も、予約した葬儀場も、心当たりのある所は全部探して、そうして見つかったのが我が家の鈴音の部屋。なんと布団でぐっすり寝ていて、今はピンピンしてるっていうんです。
目を疑ったのなんの。どういう間違いかと思いましたよ。
鈴音が中学に上がる頃妻とは離婚しましたが、それまでは特に娘には何もありませんでした。そこから先は解りかねますが。
僕が鈴音についてお話しできるのはこれだけです。
〈つづく〉




