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心を自然解凍  作者: あまやま 想
第6章 人生は踊る されど進まず
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④ 社内選考の結果ー1

 十一月二十日は社内選考の合格発表日であった。ななみは全く結果を期待していなかった。あのような面接試験で受かったら大変である。だから、課長の小笹に呼ばれた時も、かえって小笹に申し訳ないと思ったほどだ。


「七隈君、残念ながら、社内選考を通過しなかったようだ。まあ、このような機会は今後もあると思うから…。引き続き、コールセンターの仕事を続けながら、チャンスを狙って下さい」


「課長、そんな気になさらないで下さい。私が至らなかったばかりに、人事部長との面接で大ポカをしてしまったのです。こうなることは試験が終わった瞬間に分かっていました…」


 小笹が首をかしげるので、ななみは試験当日に何があったか、分かりやすく手短に説明した。すると、小笹は符に落ちない顔をする。


「コールセンター一筋でやって来ている人に、商品開発のことを聞くなんて変ですね…。すると、今回の選考は、商品開発センターに充てる人材を探していたと言うことかな…」


 ななみにとって、そんなことは、もはやどうでもよい。この結果を受けて、ここでの仕事を辞めて、NPO法人コンティーゴの現地ボランティアを挑戦しようと言う思いが、さらに強まった。


 不安定な日常では、ポッカリ空いた心の穴をとてもじゃないが埋められない…。


「まあ、今さら、あれこれ考えても仕方のないことです。今は目の前の仕事を大切にしたいと思います」


「ああ、その通りだな。今の言葉を、人事部長に聞かせてやりたいよ〜。何で七隈君みたいな優秀な人を正職員にしないかな…」


 せめてもの救いは、小笹のような理解のある人の元で、三年間も働けたことだろう。ななみは直属の上司に恵まれていた。


 それにしても、小笹のような人がこのような所に飛ばされる会社と言うのは、いかがなものだろうか。ななみのひいき目もあるだろう。まあ、それを差し引いたとしても、小笹は本社の人事部長と会えるぐらいの力と人脈を持っているのだ。


 それに小笹は臨時職員を見下すことなく、一人一人の契約社員を正社員と同じように扱っていた。


 名前も思い出したくもない、先代の課長が契約社員を人と扱わないような扱いをしていただけに、小笹の人格者ぶりが際立つ。しかし、小笹のような人格者をもってしても、ななみの密やかな思いは、もはや止められない。


 夕方六時過ぎにようやく仕事を終えて、ななみは車に乗り込む。十一月も中盤を過ぎると、外は六時前にもうすっかり真っ暗になる。


 日の出も日の入りもすっかり南寄りになり、昼間の太陽も高くは上がらず日差しも弱い。夏に七時半過ぎまで明るかったのが、嘘のようである。


 ななみは、鳥肌実の公開ライブCDを聞きながら車を運転する。『ニイタカヤマノボレであります』『皇居に向かって敬礼』『欲しがりません。勝つまでは』などと書かれた白スーツを着て、右寄りのシュールなネタで笑いを取る、知る人ぞ知るマニアックな芸人である。


 他にも綾小路きみまろの『有効期限の切れた亭主・賞味期限の切れた女房』の公開ライブCDも聞いていた時期もあった。

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