① 百道夫婦の新しい一歩ー2
「それでよかったんじゃないの。そのおかげで伸一さんは、今も生きている…。出世していたら、今頃、ここにいなかったかもしれないよ」
「えっ?」
またしても妻に意表をつかれて、伸一はどう答えていいかさえ分からずにいた。このところ、毎日、桃子の新しい一面を見せられているようで戸惑いをかくせない。
「私が、志恩を野心的な男になるように育てたから、志恩が違う世界へ行ってしまったのよ。きっと…。案外ね、健芯みたいにマイペースにやっていける人の方が、細く長く生きていけるんじゃないかな…。最近、健芯を見ていたら、そう思うの」
「だから、そんなに自分を責めるんじゃない。あの事故は本当に残念だった…。しかし、志恩はやりたいことをやれたんだから、案外、あの世で満足していると思うけどな…」
どうにかして、うまく話をいい方向へ持っていきたいのだが、桃子の母としての自責の念が思った以上に強くて、伸一は思わずたじろいてしまった。
このまま続けていても活路が見出せない…。ここで伸一は切り札を出すことにした。室見川から、ぜひ進めるように言われたNPO法人コンティーゴの親睦会の話である。
「そう言えば、十月最後の日曜日にコンティーゴの親睦会があるらしい。一緒に行って、志恩が見て来た世界を一緒に共有しないか…」
「そうね。伸一さんがそう言うなら、一緒に行きましょうか。それにしても不思議よね…」
「何が不思議なんだよ…」
伸一は、突然不思議と言われて、またしてもたじろいでしまった。妻のまなざしが思いの外、真っすぐで力強くて、押しつぶされそうになりそうな錯覚を覚えたほどだ。
「もし、こんなことがなければ、伸一さんは知り合いの会社に再就職していたでしょう。私は、私で好き勝手やっていただろうし、志恩もさらに活動にのめり込んでいったでしょうね。そして、健芯は誰にも気付かれることなく、家の中で孤独のまま過ごしていたかもね…」




