① 母の奇行の原因ー1
兄貴を突然奪い去ったあの事件から、一ヶ月経った。母は相変わらず、兄貴の仏壇と共に生活していた。兄貴は母のゆがんだ愛情表現をどのように思っているのだろうか。きっと、天国で苦笑いして見ているに違いない。
父と話し合った末に、母のことを専門家に相談することに決めた。健芯は父が七隈家に行った直後に言い出したことを少し苦々しく思ったが、こんなことは誰それと相談できることではないから仕方ないと自分に言い聞かせる。
まず、父が専門家の室見川先生の所へ相談に行った。その結果は驚くべきものであった。
「いいか、健芯。専門家に言わせると、志恩の死はきっかけに過ぎないそうだ。もともと、母さんの中にはそのような引き金があったらしい…」
「何だって?」
「そして、その原因は、父さんにある可能性が高いらしい…」
健芯は絶句した。何が何だか、さっぱり分からない。まあ、兄貴の生死に関係なく、母の愛情表現がゆがんでいることだけは確かだろう。
兄貴が、母の愛情を一手に引き受ける一方で、冷遇され続けた健芯には痛いほどよく分かる。兄貴がこの世界からいなくなった今でも、残酷なぐらい母には健芯が見えていない…。
「母さんとは、もともと社内恋愛の末に結婚したんだ。当時、母さんが総務課にいて、父さんは今と違って、人事課で出世街道まっしぐら…なんて言われていたなあ…」
健芯は頭に?がいくつも浮かんだ。なんで、父と母のなれそめの話を聞かないといけないのだろうか…。それよりも母がどうして、あんな風になったのかが今は重要である。たまらず、横やりを入れる。
「父さん、ちょっと!」
「ん? 健芯、どうした?」
「どうした…じゃないよ。なんで今さら、なれそめの話なんて聞かないといけないの?」
「父さんだって、好き好んで話している訳じゃないんだ…。しかし、今回の原因が遠い昔の出来事にあるから、仕方ないだろう」
「だったら、そこだけ、かいつまんで話してよ…」
「だから、もう既に本題に入っているんだよ。健芯、気持ちは分かるが、ここは恥を忍んで話している父さんに免じて、一つ最後まで聞いてくれないか?」
そこまで言われたら、健芯は何も言えない。父の部屋で茶の間にいる母の目を盗むようにして話す二人。あの日を境にして、母のことを話す時は、父の部屋で話すことがすっかり当たり前になってしまった。こんな日が来るなんて、誰が想像しただろうか?
父の話は思いの外、要点がまとまっていなくて長かった。恥ずかしいのは分かるが、もう少し分かりやすく話して欲しいものである。




