② 義父の来訪−3
「そうですか。それならいいけど…。いや、お恥ずかしい話だが、女房の奇行が最近ひどくてね…。いくら、最愛の息子を失ったとは言え、悲しみの表現が行き過ぎていて、困っているんです。それでななみさんに大丈夫だったか、尋ねたわけですよ」
「ところで伸一さん。もし、よかったら、桃子さんのこと、差し障りのない程度に話してくれませんか?」
伸一はしめたと思った。始めから妻のことを相談するために来たようなものである。相手から聞いてくれるなんて、願ってもないことである。伸一はこれまでのことを、いくつかかいつまんで七隈親子に話す。
二人は酒やつまみをつまみながら、桃子の想像を超えた行動にただ驚かされるばかりであった。
「確かに、それは大変ですな…。何より、健芯君がかわいそうですな…」
雅彦はしみじみと言った。ななみも父と同じことを思った。確かに志恩の突然死は悲しむべきことであるが、目の前にいる家族をないがしろにするのは明らかに行き過ぎだろう。
「それでは、義母さんは一日の大半を志恩がいる仏壇の前で過ごされていると言うことですか?」
「ななみさん、そうなんだよ。あの日から、女房は別人になってしまったのか、家のことを一切やらずに、ずっと茶の間にひきこっている。家のことは、私と健芯でどうにかしているけど、もう限界かもしれない。雅彦さん、女房を一回病院に連れて行こうと思うのですが、どう思われますか?」
雅彦はどう答えていいものかよく分からず、途方に暮れた。とりあえず、空になったグラスにビールを注ごうとしたら、ビールが切れていたので、冷蔵庫までビールを取りに行く。
その間もどう答えるといいか考えあぐねていた。しかし、急に良い答えなんて見つかるはずもない。
「さて、どうしたものですかね…。月並みなことしか言えず、申し訳ないのですが、とりあえず、伸一さんと健芯君で専門家を尋ねてみるのがよいかと思います。高校でも生徒の精神的な不調については学校カウンセラーと教員と家族が連携して、細心の注意を払って、対処するぐらいです。気持ちは分かりますが、桃子さんをいきなり病院へ連れて行くのは、かなり乱暴な気がします」
「私も父と同じ考えです。カウンセラーさんと事前に連絡を取り合った後に、自宅にカウンセラーさんを呼んで、桃子さんの話を聞いてもらうのがよいと思います。そう言うことはリラックスした状態の方がうまくいくらしいですよ」
「ああ、確かにそうですね。分かりました。ありがとうございます」
伸一はやっぱり月並みな答えしか帰って来ないか…と思った。今まで篠栗を始めとした何人かの人に聞いたが、誰もが似たようなことしか言わない。
まあ、突然の事故で息子を亡くした上に、母親が精神的に不安定になるケースなんて、そう滅多にないことなのだろう。結局、専門家に相談するしか方法がないのかと思うと、伸一は気がとても重くなった。




