第10話 ポンペイ遺跡、青の洞窟
もう6月最後の日である。
早いものだ。7月28日の『スイス・アルパイン・マラソン』まで、4週間になった。気になるのはトレーニング量だ。結局今月は134km しか走れていない。困ったものだ。
朝チェックアウトしようとしたがフロントがいない。暫く待っていたが、誰も戻ってこない。支払いはチェックイン時に済ませているので、パスポートさえ預けてなければこのまま出て行って良いのであるが、困った。
少しイラついてきて、そこらに掛けてあるキーで引き出しを開けてみようとしたら、フロント係が戻って来た。待っていると戻って来ないのに、セルフサーヴィスに切り替えた途端、戻ってくるとは何と間が悪い。30歳ぐらいの太った黒人の女性で、えらい剣幕で怒られた。すぐにイラつくのが日本人の悪い癖だ。反省しなきゃ。
それにしてもこの怒り方、どっかで見た事あるようだと思ったら、『ローマの休日』でアン王女が新聞記者の部屋でシャワーを使っている時に入ってきた、掃除の黒人のおばさんの怒り方にそっくりだった。太った黒人女性が怒ると、みんなこうなるのかな?
ソレントにやって来た。ソレントと聞くと中学時代だったかな、『走れ、ソレントへ』という小説のタイトルが頭をよぎる。教科書に掲載されていたが、内容は憶えていない。
ホテル探しに2時間を費やした。安いホテルは全て満室。やむなく妥協して2度目の電話でやっと9万リラのホテルがキープでき、一安心である。8700円にしてはイマイチだが、リゾート地だからこんなものであろう。
午後からポンペイ遺跡に行ってみる。その大きさ、昨日のエルコラーノ遺跡の比ではない。これで入場料が同額とは! 4時間かけてゆっくり観て周った。亡くなった時のままの人の姿の遺体が何とも痛ましい。
ホテルに戻ってすぐシャワーを使った後、着替えようとして脱衣所に移動したら床が水浸しになっている。下の階に漏れたら大変とタオルで拭いていたらノックの音有り、万事休す。下には漏れなかったようだが、水は脱衣所の外の廊下に及んでいた。
50代ぐらいのおっちゃんが怖い顔して立っており、ここでもかなり怒られた。ただ、今朝のナポリのホテルと同様、早口の英語はさっぱり分からなかったのはラッキーと言うべきか。
シャワー室と脱衣所の間にドアーがなく、シャワーも固定しているのが良くない。だから今朝と同様、あまり真剣には謝罪しなかった。”Sorry." と1~2度言うだけにした。ただ、今朝は苦笑いしながらだったが、流石に今回はそれはできなかった。
夕食はホテル周辺を歩き回った挙句、隣のレストランで摂ったが支払い時に、「サーヴィス料は含んでいませんので…」と、暗にティップを要求された。
さて、今日から7月。
その早々に、思い切りムカつく目に遭った。釣銭ごまかしである。
『青の洞窟』を観たいとカプリ迄のティケットを購入しようとした。窓口で乗船賃を訊いたところ、”Fifty thousands." と聞こえた。往復5万リラ(約4800円)か、少々高いがそれだけの価値はあるのだろう。
10万リラで支払おうとしたら無いので、1万リラを手にしたまま5万リラ札で払おうとした。ヤツはそれを受け取った後、両替すると言って1万リラも受け取り5千リラ2枚を両替した。何の為の両替か分からないが、別に損も得もしていない。
ところがその後、乗船賃を確認したら、片道Fifteen thousands となっている。1万5千リラである。往復だと3万リラであり、2万リラ(約1900円)ごまかされた事になる。
購入から10分ぐらい経っている。大勢の観光客が並んでいる。相手は釣銭ごまかしの専門家だ。くそっ腹が立ったが、諦めるしかなかった。
整理してみる。
自分には”Fifty thousands." と聞こえたが、"Fifteen thousands." と言ったのか?
ここで、自分が往復で3万リラ支払えば、問題なかったのか。
仮に5万リラ札で支払おうとすれば、こちらが5万リラと勘違いしていると判断すれば、当然同じ方法を使ってくる。
往復3万リラと認識していると判断すれば、それでも同じ方法を使ってくるのだろうか?
両替云々はこちらの気をそらす為および、引っかからなかった場合のごまかしの言い訳にするつもりだろう。
その前に、5千リラ札を2枚返す事で、2万リラ返したように錯覚させようとしたか?
自分の失敗は事前に乗船賃を確認しておかなかった事につきる。最初から5万リラだと思ってたのだから、釣銭ごまかしに引っかかったというより発音に引っかかったというのが正しい。私が数字でイタ公ごときに騙されるわけがない。
(旅日記を読み返しながら当時の出来事を思い出し、改めて怒りを感じています。今なら、躊躇なくすぐ抗議をします。英会話も判断力も気も弱かったように思います)
気を取り直して青の洞窟探訪の手漕ぎボートに乗り込みます。水面ぎりぎりの小さな出入り口目がけて漕ぎ手がタイミングを見計らって飛び込みます。観光客全員、頭を低くして飛び込みます。成功した後、一斉に拍手。
今まで一度も見た事のない何とも言えない真っ青で神秘的な洞窟がそこにありました。ボート代もティップも高かったが、それに見合う価値は十分だと思いました。
ただ、洞窟内に留まっている時間はわずか5分でした。30分ぐらい留まれるのかと思っていたので、ちょっと物足りなかったような気がします。
その後、アナカプリ山上に登ってみました。山上からの展望は絶景のひと言である。
夕食時に25歳の日本人男子と一緒になった。退職して1か月のヨーロッパ旅行中との事である。1時間半日本語でしゃべり、怒りの気分がかなり回復した。




