No.15 少年
終末世界でロボットは、新たな記憶を辿る
後ろから、規則的な金属音が聞こえてくる。
少女が振り返ると、地下倉庫からマイルズが出てきていた。
オレンジ色の目を静かに光らせながら、神社の境内を見渡す。
視線は、真っ二つになったコウモリ型ロボットへ向けられた。
そして次に、その近くに立つマゼランへ。
数秒。
マイルズは動かなかった。
やがて、状況を把握したのか、何も言わずにそのまま地下倉庫へ戻っていく。
少女はマゼランを見上げる。
マゼランもまた無言だった。
少女は少しだけ困ったように笑い、
「……戻ろっか」
と呟く。
そして、少女とマゼランもマイルズの後について階段を降りていった。
◇
夜が明ける。
地下倉庫の白い照明は変わらず冷たいままだったが、入り口の階段から差し込む朝の光だけが、わずかに空気を柔らかくしていた。
少女は毛布代わりにしていた布の上でゆっくり目を覚ます。
ぼんやりした視界の中、まず見えたのは倉庫の入り口だった。
マゼランが、そこにいた。
入り口を背にして静かに座り込み、外を監視している。緑色の目が薄暗い室内で静かに光っていた。
少女が身体を起こすと、その少し奥で、マイルズの目にも光が戻る。
「スリープモードを終了します。」
いつもの無機質な声。
マイルズはゆっくり立ち上がると、そのまま外へ向かった。
少女もすぐ後を追う。
昨晩、少女は倉庫の棚を漁っている途中で、新しい記憶集積ポータルを見つけていた。小型で、表面には細かな傷が無数についている。だが内部の光はまだ死んでいなかった。
少女はそれを両手で持ちながら、外へ出たマイルズへ見せる。
マイルズは無言でポータルを受け取った。
そのまま胸部装甲の一部が開き、内部から伸びた細い接続端子がポータルへ接続される。
数秒後。
「……情報のコピーを完了。」
短くそう告げると、マイルズはポータルを少女へ返した。
少女はそれを受け取りながら、何も言わないマイルズを見る。
けれど、互いにどこへ向かうのかは、もう言葉にしなくても分かっていた。
朝の空気は澄んでいた。
崩れた都会の向こうへ、柔らかな光が差し込んでいる。
マイルズが先頭を歩き出す。
その後ろを少女が追い、さらにマゼランが静かに続く。
一行は神社の地下に眠っていた倉庫を後にした。
記憶地点は、意外なほど近くだった。
少女たちは神社の鳥居の前まで戻ってきていた。
朝の光が木々の隙間から差し込み、石畳の上にまだらな影を落としている。風が吹くたびに葉が揺れ、静かな音が境内に広がった。
マイルズが立ち止まる。
そして、頭頂部から淡い光を周囲へ放射した。
空間に粒子のような光が広がり、やがて立体映像が形を成していく。
三人の少年だった。
年齢は十代前半ほど。
ぼやけた半透明の姿で、神社の前に立っている。
「この神社、どっかに宝物あるらしいぜ!」
ひとりの少年が楽しそうに言った。
他の二人も目を輝かせながら境内を見回す。
そして三人は、神社のあちこちを探し始めた。
賽銭箱の下を覗き込み、床板を叩き、石灯籠の裏を確認する。
だが、不思議なことに、誰ひとり本殿の内部へ入ろうとはしなかった。
まるで最初から、探す場所を外に限定しているかのようだった。
少女は映像をじっと見つめる。
すると、一人の少年が本殿裏の木製手すりへ近づいた。
「あれ?」
少年が何気なくそこへ手をつく。
カチリ。
少女が見つけた時と同じ音が鳴った。
直後、石畳が重々しい音を立てて左右へ開き、地下への階段が姿を現す。
三人の少年は同時に目を丸くした。
「うおっ!?」
「なにこれ!?」
「やべぇ!! 本当に宝あるじゃん!!」
少年は興奮した様子で他の二人を呼ぶ。
三人は顔を見合わせながら階段を覗き込んだ。
少女もその映像を追うように、ゆっくり階段へ視線を向ける。
そして気づいた。
地下の巨大な門は、すでに開いていた。映像の中では、最初から門が開放されていたようだった。
マイルズも無言で倉庫の中へ入っていく。
少年たちも、その後ろを恐る恐る追った。
そして、地下倉庫の内部へ入った瞬間。
三人の少年は息を呑んだ。
そこには――大量のロボットがいた。
整列するように並ぶ機械の群れ。
黒い装甲。
オレンジ色のセンサー。
無機質な身体。
どれも、マイルズと同じ型だった。
数十。
いや、それ以上。
倉庫の奥まで、無数の“マイルズ”が静かに並んでいた。
読んでいただき、ありがとうございます。評価やブックマーク、感想等をいただけると更新の励みになります。1日1話更新を目指しています。気分でもっと高い頻度で更新するかも。(感想、評価待ってます!!)




