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終末配達ロボット、君の町へ  作者: 非常口
case.1 オジイチャン
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15/16

No.14 黒翼

終末世界でロボットは、さらなる強者と出会う。

少女は、壁一面に並べられた武器をゆっくりと見上げていた。


 その数は圧倒的だった。

 自分の身長の何倍もある棚に、ぎっしりと武器が並べられている。黒い銃身の機関銃、刃渡りの長いブレード、銀色の円筒型爆弾、用途すら分からない機械装置。中には、マイルズの腕に取り付けられているものと似た形状の武器もあった。さらに奥には、人間が持つことを前提としているとは思えないほど巨大な大砲のような兵器まで固定されている。


 白い照明がそれらを照らし、冷たく鈍い光を反射させていた。

 まるでここだけ、世界が滅ぶ前の「戦争」がそのまま保存されているようだった。


 少女は棚の手前に置かれていた小型の銃を手に取る。

 片手で持てるほどのサイズだったが、金属部分は異様なほど滑らかで、ほんのり熱を持っていた。


 「……なんだろう、これ」


 少女は呟きながら、構えることもなく、何気なく引き金を引いた。


 次の瞬間。


 ――バシュンッ!!!


 轟音ではなかった。

 だが、それ以上に危険な音だった。


 銃口から、目を焼くようなピンク色の閃光が一直線に走る。

 発射と同時に、銃口の周囲に光の輪が広がった。空気そのものが弾け飛んだような衝撃波が室内を駆け抜け、少女の髪が後方へ大きくなびく。


 閃光は倉庫の奥の壁へ激突した。


 そして――消えた。


 着弾地点を中心に、およそ十五メートルほど。

 そこにあった棚も、箱も、床も、壁も、まるで最初から存在していなかったかのように、綺麗な円形に消失していた。煙すらない。ただ空間だけが抉り取られている。


 少女の髪がゆっくり元に戻る。

 静寂。


 少女は、ぽつりと呟いた。


 「……すごい」


 その声は、驚愕というより、どこか淡白だった。


 少女は何事もなかったかのように、その小型銃を自分のポケットへしまう。


 そして何気なくマイルズの方を見る。


 ――少女は数秒、固まった。


 マイルズは、いつの間にか全身に武器を装備していた。


 両腕には大型銃器。腰部にはブレード。脚部には小型ミサイルのようなものまで取り付けられ、肩には爆弾のような装置が複数固定されている。さらに背中には、彼の体格にまったく見合っていない、異常なほど巨大な大砲型のスナイパー兵器まで背負っていた。


 完全武装。


 もはや配達ロボットではなく、歩く兵器庫だった。


 少女はその姿を見上げ、真顔で言った。


 「……一個にしなさい」


 マイルズは何も言わなかった。


 ただ、数秒ほど静かに下を向く。

 そして次の瞬間、ガシャガシャガシャ!!と金属音を立てながら、一斉に武器を床へ下ろし始めた。


 巨大な銃。ブレード。爆弾。装甲。

 次々と床へ置かれていく。


 最終的に、マイルズは数発の爆弾と数丁の銃だけを内部格納スペースへ収納すると、再びいつもの姿に近い状態へ戻った。


 少女は満足そうにうなずいた。


白い照明の下で、少女は床に座り込みながら、例の半透明のエメラルド色の羊羹を食べていた。


 外側はつるりとしていて、光を受けるたび宝石のように透き通る。噛むと柔らかく、柑橘系の甘さがゆっくり口の中へ広がっていく。少女はすっかりこの味を気に入っていた。


 少女は羊羹を片手に持ちながら、ぼんやり周囲を眺める。

 少し離れた場所では、マイルズが先程の充電装置に接続され、静かにエネルギー補給を行っていた。オレンジ色の光が規則的に明滅し、低い電子音だけが静かな倉庫に響いている。



 ふと少女は気づいた。


 先程までマイルズの周囲で充電していた犬型ロボットたちがいない。


 少女は立ち上がり、羊羹を右手に持ったまま周囲を見回した。

 棚の隙間。

 武器庫の近く。

 通路の奥。


 だが、どこにもテリも、ペリも、メリもいなかった。


 少女は少し不安そうな顔をして、マイルズへ近づこうとする。

 その瞬間。


 背後から、低い機械音が聞こえた。


 少女はびくりと肩を震わせ、振り返る。


 そこには、一体の犬型ロボットが立っていた。


 しかし、それは今までの三体とは明らかに違っていた。


 以前のHC-47たちよりも一回り大きく、装甲は滑らかな黒金属で構成されている。関節部には緑色の光が走り、頭部の形状も鋭い。四脚には細かな補助パーツが追加され、背部には折り畳まれたアンテナのようなものまで見える。


 そして何より、その目は、以前の単純な光ではなく、どこか“意思”を感じさせる橙色を宿していた。


 しばらくその姿を見つめたあと、少女は尋ねる。


 「……ペリたちは?」


 その犬型ロボットはすぐには答えなかった。

 頭部の側面が小さく明滅し、内部で何かを処理するような電子音が鳴る。


 そして、少ししてから口を開いた。


 「記憶データの解凍完了。第三倉庫、中級管理ロボットのマゼランです。」


 少女は黙って聞いている。


 「個体名、テリ、メリ、ペリの管理者の指示により、個体の統合およびマゼランへの記憶データ移行が完了しました。」


 少女は一瞬きょとんとした顔をした。

 何を言っているのか、全部は理解できない。


 けれど、マゼランと名乗ったそのロボットをよく見ると、脚部の一部にはペリの傷跡のようなものがあり、耳の装甲にはテリと同じ欠け方が残っている。背中側のパーツには、メリにあった古い擦り傷まで見えた。


 三体が、確かにそこにいた。


 少女はしばらく無言で見つめたあと、小さく呟く。


 「……そう。マゼランっていうのね」


 マゼランは静かに少女を見つめ返した。


 マゼランはそれ以上何も言わず、少女の横を静かに通り過ぎた。


 黒い装甲が白い照明を鈍く反射する。

 そして、そのまま倉庫の出口へ向かい、地下施設の階段を上がっていく。


 少女はしばらくその背中を見ていたが、やがてその姿が階段の向こうへ消えると、不安になったように立ち上がった。


 「……マゼラン?」


 返事はない。


 少女は羊羹を片手に持ったまま、急いで後を追った。

 階段を駆け上がる。


 すると――。


 ガギィィィン!!!


 一瞬、外から凄まじい金属音が響いた。

 まるで巨大な鉄板同士を高速でぶつけたような音。


 少女は思わず足を止めそうになるが、そのまま階段を駆け上がる。

 そして地上へ出た瞬間、目の前の光景に息を呑んだ。


 鳥居の近く。

 石畳の上に、二体のロボットが転がっていた。


 見た目は、機械仕掛けのコウモリのようだった。

 黒灰色の金属外殻。鋭く折れ曲がった翼。細長い頭部には赤い単眼が並び、翼の内側には無数の小型スラスターのような機構が見える。


 だが、その二体はすでに動いていなかった。


 身体ごと、綺麗に真っ二つに切断されていた。


 断面から火花が散り、内部配線がバチバチと青白く弾けている。切断面は異様なほど滑らかで、まるで高熱で一瞬にして断ち切られたようだった。


 そして、その少し先。


 マゼランが立っていた。


 その背中では、巨大な“羽”のようなものがゆっくり折り畳まれていく。


 それは剣だった。

 だが普通の剣ではない。


 漆黒。


 光を反射しない黒。

 翼のように何枚もの刃が重なり合い、展開時には巨大な片翼のように広がっている。刃の縁だけがわずかに暗紫色に発光し、周囲の空気が揺らめいて見えた。


 マイルズの使う発光ブレードとはまるで違う。

 もっと静かで、もっと禍々しい武器だった。


 マゼランはその黒い翼剣を背中へ格納していく。

 ガシャン、と金属音が鳴り、完全に収納されると、マゼランの赤い目がゆっくり緑色へ変わった。


 そして、何事もなかったかのように言う。


 「登録されていない、偵察ロボットの排除に成功。」

読んでいただき、ありがとうございます。評価やブックマーク、感想等をいただけると励みになります。1日1話更新を目指しています。気分でもっと高い頻度で更新するかも。

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