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【第14話】領地に戻る段取り

「ごちそうさまでした!」


「はい、おそまつさまでした」


 マリーの特製料理に舌鼓を打ったデンシン達は、後片付けを終えて団らんのひと時を過ごしていた。デンシンはこの穏やかな時間に身をゆだねながら、自分の身の振りをどうするか考えていた。


(こんなに良い親と環境にいられるなんて、ラピスも幸せ者だなぁ。怪しげな自分すらも受け入れて貰えた恩もあるし、あの人(恩人)を探すよりも先に、まずはこの素敵な方達に恩返しをしなきゃならんな。ラピスもまだ小さい子供だし、こんな幸せな環境から無理に引き剝がすわけにもいかない。そもそも俺自身この世界のことをもっと知らないとイカン。良い機会だし、しばらくはこの家についていこう)


 そう、デンシンはこの世界に転生してまだ半日も経っていない。言ってみればこの世界に対する理解度は、赤ん坊と良い勝負というレベルなのだ。

 前世の常識で恩を返すための行動をしたとしても、そもそもこの世界(アンブラシア)の常識では奉公に値しない、むしろ無礼となってしまう可能性もある。人となりを見るためにも、しばらくはこのラーズリー家に厄介になった方が良いと判断した。


 この先の行動指標をある程度固めていると、クリスがそういえばと話しかけてきた。


「デンシン、私たちは明日には自分の領地に戻る予定なんだが、身を守れそうな術はなにかないかい?」


「身を守る……いや、俺自身は今すぐ危害を与えられるような魔法は使えない。先ほど見せた細かい粒を作り出すことだけだ」


「そうか……まぁ気にしなくてもいいよ。移動するときの護衛は付いてるし、いざとなったら私やマリーが守ればいいからね」


「えぇ、あなたたち(ラピスとデンシン)はしっかり守り切るわよ」


「ちょっと待ってくれ。領地への移動ってのはそんなに危険なのか?」


「まぁ大丈夫だとは思うんだけど、念のため、ね。稀に破れかぶれになって襲ってくる連中がいるかもわからないから」


 良くも悪くも治安の良い日本で過ごしていたデンシンにとっては、いささか信じがたい話だった。護衛を伴う貴族への略奪をする輩がいるという発想がまず欠けていたし、万一いたとしても戦力差の激しさから、見た瞬間に引き返すことがほとんどだろうと思っていたからだ。


「むぅ、スマン……どうにか出発前には一つくらいなにかできないか考えておくよ」


「ハハハ、まぁそのときはキミの一つの案に頼らないようにどうにかするさ」


 クリスは何でもないことのように、笑いながら手をヒラヒラさせていた。そういえばクリスは辺境伯、つまりは貴族な訳だが、どうやって賊と戦うのだろうか?


「クリスさん、マリーさんは炎を使うからある程度戦力になりそうだが、アンタは精霊が付いていなかったはずだ。どうやって戦うんだ?」


 そう聞くと、クリスは両腕で力こぶを作りながら自信満々に言った。


「そりゃあもう、ラーズリー家でも随一のこの腕っぷしで守るんだよ。こう見えて結構強いんだぞぉ?」


 これはこの世界の人たちの一般的な兵器の武装レベルが分かる良い機会だと思ったデンシンは、少し踏み込んでクリスに質問を続ける。


「流石に素手で殴りかかるわけじゃないんだろう?どんな武器を使うんだ?」


「私が得意なのは剣と弓、あと投擲だね。特に剣ならこの国にいる騎士団長相手くらいなら絶対に負けないよ」


 やはり中世らしく剣や弓矢が中心のようだ。しかしデンシンの想像より、クリスはかなり腕が立つらしい。


「すごい実力じゃないか。騎士団長に負けないってことは、この国の中で一番強いんじゃないか?」


「どうだろう?騎士団に所属していない、特Sクラスの冒険者とかも含めたら流石に一番は厳しいかな」


 軍人の最高クラスの人材でも勝てないような人物が国内に存在し、あまつさえ騎士団に所属していないとは。しかし、どうも聞くところによると特定の組織に籍は置いているようだった。


「その特Sクラス冒険者っていうのは?」


「冒険者ギルドっていう、国家とは異なる枠組みの組織で指名された人たちだね。ドラゴンとも一対一で平気で倒せるとんでもない人たちだよ」


 ファンタジーにはそれほど詳しくないデンシンにはドラゴンがどの程度の強さかはいまいちピンと来ていなかった。だが、前世で息子たちがよくやっていたゲームに出てくる火を吐く恐竜のようなものがそう呼ばれていたことを思い出し、少なくとも常人ではないのだろうことは想像がついた。


「ドラゴンってのは、そんな少人数で簡単に狩れるモンなのか?それこそ騎士団が総力を上げて倒すような存在だと思うんだが」


「まさか。騎士団の規模によっては総力を上げても壊滅しかねないくらい強いよ。だから、単独で倒せるような人材を抱えてる冒険者ギルドはすごいんだ」


 その後、クリスが語り始めた冒険者ギルドができるまでの経緯の説明を要約すると、ファスタロット王国をはじめとする諸外国に点々と存在するダンジョン、ないし魔力溜まりの地域には魔物が出現するのだが、これらを放置すると魔物氾濫(モンスターフラッド)と呼ばれる現象が発生する。街はもちろん、規模によっては国が滅びるほどの勢いで大量の魔物が襲ってくるのだ。

 そうならないように騎士団を派遣していた時期もあったが、狭いダンジョン内では軍隊のような大人数で行動するのが非常に難しく、魔物を間引くこともままならないほどであった。かといって大掛かりな兵器などでダンジョンを破壊すると、魔物の落とす良質な素材が得られず、文明の維持発展が鈍化してしまうという懸念があった。

 よって、その両方を解決させる方法こそ冒険者という職業を作ってしまうことだった。素材を集めさせ、それを資金で買い取ることで生活するというサイクルを作れば、魔物は間引け、素材も集まると一石二鳥の方法だった。

 当然、魔物は動物狩りより過酷になるため、冒険者自体を管理、補助、支援する仕組みも必要になる。そのため、各国は冒険者ギルドを設立し、冒険者の実力に応じたランクを指定するようになった。特に特Sクラスに指名された者は、魔物氾濫の兆候が見られる地域への急行、鎮圧を単独で可能とされる人物と認定を受けるほどの実力者たちなのだ。


「……そんなわけで、冒険者、とりわけ特Sクラスの人たちがいるから、私たちがダンジョンを単なる魔物素材の出る鉱山のような扱いができるってわけさ。まぁもしほんとに魔物氾濫が起きたら騎士団も対応するんだけどね」


「ふぅん、そんなもんなんだな」


 ひとしきり長い話をしたが、デンシンが納得した顔を見てクリスは満足げだった。意外と人にものを教えるのが好きな性分なのだろうか。

 ともかく冒険者ギルドについては理解したデンシンだが、またしても疑問が生まれた。


「ところで、なんでそんなに冒険者ギルドの成り立ちについて詳しいんだ?クリスは貴族なんだから、冒険者ギルドの実情にはそれほど詳しくなくても当然だと思うんだが」


 デンシンの疑問を耳にした瞬間、クリスは目を輝かせつつ口元がニヤけ始めた。


「それはマリーが元冒険者だからだよ。マリーはAクラス冒険者だったから、それはもうすごいんだぞぉ?」


「ちょっとあなた、余計な事言わないでよ?」


 調子に乗るクリスに待ったをかけるマリー。乙女心が勝つのか、かつての自分の武勇伝を語られるのは少々恥ずかしいのか、頬がやや赤い。一方でクリスは妻の自慢話をしたいのを止められて、不満げに口を突き出していた。


「えー、マリーの実力を話せばデンシンも安心してくれるだろうと思うんだけどなー。話しちゃダメなのかい?」


「ダメです!あの時は若さゆえに色々と迷走してたんです!」


 どうも、マリーにも黒歴史にしたくなる時代があったようだ。あまり追及すると後が怖いのか、クリスは話を切り上げて領地へ戻る段取りの話に戻した。


「……とまぁ、僕ら二人はそれなりに強いし、護衛だってウチの領地でも戦闘が得意な人たちが揃ってるから安心してよ」


「あ、あぁ、わかった。頼りにしてるよ」


 怒涛の情報量に圧倒されながらも、特に大きな心配な点はなさそうだったため、デンシンは移動の件について承諾したのだった。



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「さて、お話も終わったことだし、お風呂に行きましょうか!」


 その後、移動するときの諸々の話を軽く済ませたところで、マリーが呼びかけてきた。


「おう、家族水入らずでみんなで入ろう!」


「おっふろー、おっふろー」


 ラーズリー家としては、家族で一緒にお風呂に入るのはさして珍しいことではなさそうである。一方デンシンとしては、クリスはともかくラピスやマリーと一緒にお風呂に入るというのは少し遠慮したいところである。が、遠慮しようにもラピスから遠くに離れることができない"繋がり"のせいで、否応なしに入ることになってしまった。

 岩、もしくは鉱石の精霊(仮)の自分が水に浸かっても大丈夫なのかと思い、マリーの精霊であるファイの方を見たが、嬉しそうに笑っていた。炎の精霊が水に入れるなら、岩の精霊も入って大丈夫なのだろう。

 物理的に入っても問題ないと納得したわけではないが、ラピスが入る以上逃れることはできないため、デンシンはズルズルとお風呂場まで引きずられるのだった。



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