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どうかこのまま違ったままでいて

シリアスめなものを書いていたらその反動か、随分テンションの高いヒロインが降りてきたので置いていきます。

もしかしたら後日手直しを入れるかもしれません。

───やったぁ。超棚ぼた!


初めて足を踏み入れた王城の薔薇園で、私は人知れずガッツポーズを決めた。

公爵家の令嬢を抱えたまま、婚約者の決定を宣言した王太子殿下は、言うことだけ言うとさっさと薔薇園を後にした。

残されたのは戸惑った様子の令嬢たち。

まぁそうだよね。

あわよくば王太子妃候補になれるかもしれないって思うよね。

でもさぁ、お茶会の招待状が届いた時点で王太子殿下の視界に入ってないってことはさ、もともと大して可能性は無かったって予想もつくもんじゃないの?


まぁそう言う私自身も、抗えないお茶会の招待に逃亡は不可能なのだと悟りゲームのスタートに怯えていた訳だけど。

だかしかし!蓋を開けてみればこの通り。

ゲームはスタートすらされませんでした!

はい、大団円!

はいはい、令嬢の皆様解散ですよ、かいさーん!


◇◇◇


私はついこの間まで城下の街で暮らす庶民だった。

結婚をすることなく私を産んだお母様と、祖父母と暮らしていた。

とは言えお母様の実家は、お祖父様の更にお祖父様が興した商会を営んでいて、私を産んだ後にお母様が会頭として引き継ぎ、更に美容品の販売にも手を出したかと思うとバリバリとその商売を広げているなかなか裕福な家だ。

有難いことに私はその一人娘としてかなり自由に育てられていた。

しかしそんな私の素敵ライフもある日を境に一変する。

なんと前侯爵と名乗るナイスガイがいきなり我が家にやって来ると、私を娘だと言い出したのだ。


確かにハチミツ色の金髪は私と同じ色で、私の金髪は母の白金のような髪色からではなく、彼の遺伝だと言われるとしっくり来た。

しかし何よりその瞳、明るい茶色のなかにキラキラと淡くグリーンが光る榛色の瞳は私が毎日鏡で見る色と全く同じだった。


母が私を身籠ったのは、王城に侍女として出仕していた時の事だと聞いている。

そこでさる若き貴族に見初められて、恋仲になった結果私を身籠ったらしいのだが、母は頑なに相手については口を閉ざしていた。

幼い頃、何度となく母は私のお父様は素敵な方だったと教えてくれたけれど、それが誰なのか、ましてや高位貴族だなんて思いもしなかった。

それがなんだ、今になって急に押し掛けてきたかと思ったら父親を名乗るとか、なにか裏があるんだろうと勘ぐるのは仕方のないことだと思う。

実際、侯爵様はお母様の妊娠が判った頃は、爵位の継承とそれを後押しするための婚姻が決まっていたらしい。

そんな時期にいくら貴族男性の愛人なんて珍しくないとはいえ、裕福な商人と言えども平民女性との庶子は醜聞になる。

それでお母様はお父様に黙って城を下がり、両親を頼って私を産んだ。

侯爵の地位を継いだお父様も突然消えたお母様を探したらしいのだけれど、金にものを言わせて姿をくらましたお母様を見つけることはできずに泣く泣く決められた婚姻を結んだらしい。

しかしいくら政略結婚が常である貴族とは言え、そんな経緯での結婚は上手くいかなかったらしい。

子供にも恵まれず、親戚から養子を取った頃には別居生活に入り、とうとうそれから間をおかずに離縁となったという。


実はお父様は私が生まれて間もなくお母様の居所はつかんでいたそうだ。

しかしその時既にお父様の婚姻は成立しており、爵位も継いだばかりで自由に動く時間もとれない。

それで苦肉の策として、時折遠くから私たち親子の様子を見るにとどめていたが、離縁が成立した頃には早々に養子に迎えた息子に爵位を譲り、自由になったところでお母様と私を迎えに行こうと算段をつけていたのだという。

そして先日、ようやく成人を迎えた息子に爵位を押し付けることができたと満を持して我が家にやって来たとのことだった。


どうやら本当に両親は深い愛情で結ばれていたらしい。

端から見たら結構独り善がりなんじゃないかとも思える前侯爵の告白に、母は目を潤ませて黙っていてごめんなさいと振り絞るような呟きを苦しげに吐くと、前侯爵はそれは俺の台詞だと囁いて母をきつく抱き締めていた。


そしてそんな両親の恋愛劇場をいきなり見せられた私は、これがかつて日本という国で暮らしていた頃にプレイしたゲームの舞台であることを唐突に悟ったのである。


《一輪の薔薇を君に》

それはよくある乙女ゲームで、でも王道を外さなかったせいかなかなか人気のあるゲームだった。

前世の私も、キザな台詞の数々に画面へヤジを飛ばしつつそれなりに楽しんだ。

友人とこの台詞がどうの、あのキャラがどうのと話も弾み、結構のめり込んでいたと思う。

しかし、だからと言ってヒロインに転生するって、どういうことよ。

私は王子さまとの恋なんて望んでいない。

今の裕福な平民ライフで十分満足している。

だからどうか、お茶会なんぞ行かずに済みますように。

しかしそんな私の願いも虚しく、母と共に前侯爵と暮らし始めた私のもとに、召集令状もとい、お茶会の招待状が届いたのである。


「このお茶会って、本当にいかないとダメ?」


お茶会の招待状をひらひらとさせながら、私はため息混じりに呟いた。

さすが王家主催のお茶会の招待状とあって、箔押しまでされた素晴らしい招待状だ。

しかし私にとっては全く有り難くない。

これに参加したら最後、転びそうになったところに王子さまに助けられ、その王子様の護衛や側近にもなんのかんのと構われることになるのだ。

考えてもみて欲しい。

前侯爵の隠し子だとかいってぽっと出てきた庶民バリバリの女が高位貴族の子息を手玉にとるのだ。

考えるだに恐ろしい。

そんなの全貴族女性を敵に回す所業ではあるまいか。

乙女ゲームの逆ハー状態はゲームだから許されるのであって、そんなん現実に起きてみろ、女から嫌われる女以外の何者でもないだろう。

しかし私がこのお茶会に参加したら最後、それが現実になるのである。

行きたくないとごねたくなる気持ちもわかってもらえるだろうか。


「ナタリア。これは王家からの招待だからね。断るわけにはいかないよ」


お兄様は苦笑を浮かべている。

それを聞いた私はよほど絶望的な表情をしていたのだろうか、宥めるように私の頭に手を置くと、優しく撫でてくれる。


「でもまぁ、心配しなくても、后教育にかり出される可能性は低いと思うよ」

「本当に?!」


お兄様の言葉に希望を見いだしてがばりと顔を上げると、お兄様はふわりと微笑んで頷いた。


「あぁ。王太子殿下は公爵家令嬢のヴァイオレット嬢にご執心だからね。今回のお茶会も形だけ開いて、早々に彼女を婚約者にと宣言するのではないかと見られているよ。そうなれば后教育はヴァイオレット嬢のみになるから、お前が拘束されることはないはずだ」

「やったぁ!」


私は思わず万歳よろしく飛び上がった。

確かヴァイオレット嬢は王太子ルートの悪役令嬢だったはず。

王太子殿下の側近でもあるお兄様がそこまで言うなら信憑性はかなり高い。

これで王子様ルートは回避できる!

なんて素晴らしい情報だろう。

ありがとう王太子。

ありがとう悪役令嬢。

そのまま王子様のハートをがっちり掴んでおいてくれ。

だって私はたった数ヵ月前まで平民だったハリボテ令嬢ですからね。

しかも前世からの筋金入り。

それを王子の相手とか無理があるでしょ。

この間まで平民だった少女が王子様の寵愛を得て后になるなんてさ、何度も言うけどお伽噺とかゲームの世界だから無理があっても許されるわけよ。

っつーかゲームの中だからうわー、スッゴい台詞吐くねーで済むのであってだね。現実であんなサッムイ台詞吐かれたら表情筋凍るでしょ。

王子相手に「さむっ」とか言って乾いた笑いなんて飛ばした日には不敬罪まっしぐらじゃん。

侯爵家の存亡にも関わるような大事にはしたくないよ。

それに!

貴族女性を敵に回したくない!!

平和な生活だけを望んでいるのよ!


しかしお兄様はああは言っていたけれど、実際ゲームの強制力が働いたらどうなるかなんて分からない。

私はお兄様の言葉にすがりたい気持ち半分、市場に連れられていく子牛の気持ち半分で、怖々と王城の薔薇園へと足を踏み入れたのだった。


そして怯えつつお茶会の開会を待つことしばし、果たしてどうなることかとビクビクしていたところに、王太子殿下の素晴らしい解放宣言を聞いたのだった。


あぁ、思っていたのと違うって本当に素晴らしい。

どうかこのまま違ったままでいて下さい!


どうもありがとうございました。

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