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10・全ての依頼をこなした

「な、なにが起こった!? どうして君が僕よりポイントが高いんだ!」


 カーティスはもの凄い形相で俺に詰め寄ってきた。


「どうしてって言われてもな……」

「僕はBランクの依頼を受けた! そしてそれを成功させた。ランクが一つ変われば、得られるランクポイントも天と地ほどの差がある。それなのに……どうして僕は君にダブルスコアを付けられている!?」


 カーティスは顔が当たりそうなくらい、接近してきた。


 俺は溜息を吐いて。


「聞いてなかったのか? Bランクの依頼はあんたに取られた。だから俺は他の依頼を全て受けたんだ」

「他の依頼を……全て……?」


 まだ理解しきれていないのか、カーティスは『?』といった表情をする。


「Eランク二三個。Fランク四十個なんて声も聞こえた気がしたが……まさか君はそれらを全て受注したのか?」

「ああ」


 俺は頷く。


「ビックリしたよ」


 そうこうしていたら、リネットが横から話に入ってきた。


「エリク、掲示板に貼られていた依頼票を片っ端から取っていったんだもん。それだけじゃ足りなかったから、受付の人に非公開案件も聞いていたし……最初は無茶だって止めたんだけど、まさか一日で全て依頼を成功させるなんて」


 そうこうしていたら、リネットが横から話に入ってきた。

 彼女は自分がやったかのようにドヤ顔をしていた。


「そ、そんなこと出来るはずがない! 出来るはずが……ないんだ」

「だが、現にやっているだろ」


 いくら氷魔法が限界突破しているとはいえ、なかなか骨の折れることであった。

 近くの村まで商人を護衛する、という依頼では道中で魔物を倒しながら向かった。


 しかし——そういった効率重視に動いたとしても、これらの量を一日でこなすことは不可能であった。

 ゆえに俺は−100000(一億)000℃の氷魔法を使って、何度か()()()()()()のだ。

 これを使えば、一日で大量の依頼をこなすことがギリギリ可能だからな。


 もっとも。


「さすがに疲れた……」


 早く帰ってベッドに潜り込みたい。

 何度も−100000(一億)000℃を使ったため、魔力を大量に消費してしまったのだ。

 今もし魔物に襲われたら、たとえそれが弱いものであってもやられてしまうかもしれない。

 それくらい危険な域にあった。


「そ、そんなことは有り得ない! 非現実的すぎる……! 一日でこれだけの依頼をこなすとは……!」

「そうか? 頑張ればなんとか出来るものだぞ?」


 さすがにこれだけの依頼を一日でこなしたのは初の経験だけどな。


「とにかく、この勝負は俺の勝ちだよな?」

「あ、ああ」

「だったら俺は宿に帰らせてもらう。なんせ眠いものでな」


 欠伸をする。


「ちょ、ちょっと待ってくれ!」

「待たん」


 後ろからカーティスの呼び止める声が聞こえたが、それを無視して俺はギルドから出て行った。


「エリク、やったね! まあわたしは最初からエリクが勝つと思ってたけどね〜」


 隣り合って歩くリネット。


「なんかすっごい喜んでるな」

「そりゃそうだよっ! だってパーティーの人が活躍したんだよ? とっても誇らしいよ!」


 そう言って、リネットは俺の腕を抱いた。


「そ、そうか」


 彼女の胸の感触が伝わってくる。

 しかし慌ててはダメだ! 

 女に慣れていないことがバレてしまう!


 ドキドキして今にも心臓が爆発してしまいそうだったが、努めて平静を装うのであった。


 ◆ ◆


 翌日。


「さて、今日もなにか依頼をこなすとするか」


「頑張ろー!」


 今日も元気なリネットを連れて、冒険者ギルドを訪れた。


 しかし中に入るやいなや、



「待っていたぞ!」



 と一人の男……というかカーティスが腕を組んで、俺を待ち構えていた。


「……なにしてんだ、お前。勝負はついだろ」


 もしや「昨日の勝負は無効だ!」とでもいちゃもんを付けてくるつもりだろうか?


 だが俺の考えとは裏腹に、カーティスは「チッチッ」と人差し指を動かして。


「安心して欲しい! 昨日のことはとっくに負けを認めている。今更勝負の結果をなしにするなんて……貴族としての恥だ。そんなことしない」


 よかった。

 変なヤツだが、そこはまともらしい。


「なら俺に用はないはずだな。忙しいから、話をするならまた後日な」


 実際は忙しくないし、後日であっても話したくないが……こうでも言わんとどいてくれそうにない。


 カーティスの横を通り過ぎようとすると、


「だから……待ちたまえ!」


 俺の前に立ち塞がった。

 ちっ……やはり無理だったか。


「なに、そんなに時間は取らせない。今日は君達にいい報せを持ってきたのだ」

「いい報せ?」

「うむ……君達をモーリュック家に招待しようと思ってな!」


 カーティスは両腕を広げ、誇らしげな表情で告げた。


「……モーリュック家ってなんだっけ?」

「カーティスさんの家名だよ。もう、忘れないでよ」


 リネットにこそこそと耳打ちして聞いたら、そう答えてくれた。


 ああ、そういえばそうだったな。

 こう見えてカーティスは貴族の生まれだとも。


 だが、どういうつもりだ?


「君は素晴らしい力を持っている。昨日の勝負で僕はそれを見抜くことが出来たよ」


 とつとつと語り出すカーティス。


「僕は才能ある者が好きだ。そこでモーリュック家に招待して、父上に是非お会いして欲しい。君も貴族と繋がりが出来ることはいいことだろう?」

「そうは思わん。やはり断らせてもらう」


 きっぱりと言う。

 一瞬カーティスは驚いた表情をした。

 確かに……貴族と繋がりが出来ることは冒険者にとっていいことだ。定期的にその貴族から金の支払いがいい依頼を受けることが出来るかもしれないし、仲良くなれば専属契約をしてもらえる可能性もある。


 しかしそんなことよりも俺は()()()と繋がりが出来ることが嫌なのだ!

 こいつと一緒にいると、これから先も面倒臭いことが起こりそうだからな。


「わたしも行っていいの?」

「もちろんだ! 君達はパーティーを組んでいるんだろう? なら一緒に招待しよう」


 だが、リネットはノリ気みたいで「やったね、エリク!」と俺の肩を揺さぶってくる。

 勝手に話を進めるんじゃない。


「俺は行か——」

「美味しい料理もご馳走しよう」


 カーティスに背を向けようとすると『美味しい料理』という単語が聞こえてきて、動きが止まってしまう。


「僕の家族はグルメでね。世界各地から取り寄せた美味な食材に、超一流のコックもいる。オススメは双子ビイドのステーキだ。口に入れた瞬間、中でとろけるよ」


 な、なんだと!?

 双子ビイドはAランクに位置する魔物で、しかもなかなか人前に姿を現す者でもない。

 しかしその肉はジューシーで美味しく、世界各地のグルメ達を虜にしているという。

 想像するだけで、涎が出てしまいそうだ。


「それでどうする? もちろん君達が来てくれれば、他にも美味な料理をご馳走するが……」

「…………」


 非常に悩んだ。


 だが、俺の胃袋はどうやら正直者のようだ。

 渋々首を縦に振った。

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